PATEK PHILIPPE CHRONOGRAPHS

パテック フィリップの
クロノグラフが別格である理由

January 2022

クロノグラフは高級時計の世界において最もよく知られる人気機構だが、パテック フィリップがこの機構において世界最高峰であることは間違いない。

 

 

text TETSUO SHINODA

 

 

 

 

ドレッシーなグランド・コンプリケーション

Ref.5204/永久カレンダー搭載スプリット秒針クロノグラフ

手巻き式のスプリット秒針クロノグラフに永久カレンダーを組み込んだ、「キャリバーCHR 29-535 PS Q」を搭載。496個のパーツで構成され、丁寧に仕上げられたメカニズムの美しさは特筆ものである。スプリット用のプッシュボタンは、リュウズと同軸上にセットされているため、すっきりとした外見に。6時位置のカレンダーの左右にあるインジケーターは、右側が閏年表示で、左側が昼夜表示となる。スレートグレイのダイヤルにはソレイユ仕上げを施しており、光によって美しく表情を変える。手巻き、18KRGケース、40mm。

 

 

 

 時を意味する「Chronos」と、書き記すという意味の「Graphs」を組み合わせた「Chronograph」は、19世紀後期生まれた時計機構。競走馬の走行タイムを計測するために、回転するディスクにインクを浸した針を押し当てて、経過時間を記したことが、その名の謂れである。

 

 流れる時を自由に操作するクロノグラフは、複雑機構のひとつとされており、多くのパーツが絡み合うその姿はとても美しい。操る楽しさと愛でる楽しさの両方を備えているのが、クロノグラフなのだ。

 

 パテック フィリップでは、1850年代から懐中時計におけるクロノグラフの製造を開始している。1923年には世界初のスプリットセコンド式クロノグラフを製作。これは異なるふたつの対象を同時に計測できる特別な機構である。そしてそれ以降も同社において、コンプリケーションの重要なポジションを占めてきた。

 

 20世紀半ばのクロノグラフムーブメントは、実力派のムーブメント製造会社に自社用の特別ムーブメントの開発を依頼し、半完成状態の機械(エボーシュ)として仕入れ、自社で完璧な調整と仕上げを施し時計に搭載していた。それが当時の時計業界の常識であり、パテック フィリップもそれに倣っていたのだが、やはり他社任せではオリジナリティが削がれてしまう。そこでパテック フィリップでは、自社製のクロノグラフムーブメントの開発を並行して進めていった。

 

 その熱意が大きな形になったのは、2005年のこと。世界最薄のスプリットセコンド式クロノグラフムーブメントとして、「キャリバー CHR 27-525 PS」を発表する。ちなみに“27”はムーブメントの直径で、525はムーブメントの厚さ(5.25mm)、そしてPSはプティセコンド、すなわちスモールセコンドを示す。さらに2006年には、完全自社製の自動巻きクロノグラフ「キャリバー CH 28-250 IRM QA 24H」がデビュー。小窓表示式のアニュアルカレンダー、6時位置には30分式と60分式の同軸式積算計を搭載している。

 

 複雑系、自動巻きと続けて新しいクロノグラフムーブメントを開発したパテック フィリップは、2009年にその後のクロノグラフ史に大きな足跡を残す、手巻き式の傑作ムーブメント「キャリバーCH 29-535PS」を発表する。クラシカルな設計と美しく丁寧な仕上げ、そして6つの技術特許を取得した革新性などは、クロノグラフの名門としてのパテック フィリップの歴史を語るものとなっている。

 

 パテック フィリップでは2005年から現在までに、11種のクロノグラフムーブメントを開発。そのどれもが、歴史の深みと機構の美しさの両方を持っている。今秋は本記事で紹介している3つのクロノグラフの新作を発表したが、永久カレンダーやアニュアルカレンダー、ワールドタイムといった機構を加えることで、“時を操る”という魅力だけでなく、実用性やロマンティックな価値も高めているのは見事だ。

 

 

 

 

グリーンダイヤルの実力派デイリーウォッチ

Ref.5905/1A/年次カレンダー搭載フライバック・クロノグラフ

月の大小を自動的に判断し、3月1日のみ修正するだけで1年を通じて便利に使えるアニュアルカレンダーを加えた、自動巻き式のクロノグラフ「キャリバーCH 28-520 QA 24H」を搭載。コンプリケーションでありながら、タフなステンレススティール製のケースとブレスレットを組み合わせることで、スポーティかつ日常的に着用できる時計へと進化させた。柔らかにカーブするブレスレットは肌当たりも優しい。トレンド感のあるグリーンダイヤルは、深みのある落ち着いた色合いで美しい。自動巻き、SSケース、42mm。

 

 

 

旅人のためのクラシックかつ大胆なクロノグラフ

Ref.5930P/ワールドタイム・フライバック・クロノグラフ

世界の都市の時刻を同時表示するワールドタイム機構を搭載。10時位置のプッシュボタンを押すと、時針と都市表示リング、24時間表示リングが連動してジャンプする仕組み。12時位置に現在地を合わせるだけで、簡単に時差修正を行える。クロノグラフ機構は6時位置に30分積算計を配した「キャリバーCH 28-520 HU」。プラチナケースの証として、6時位置のケースサイドにダイヤモンドをセット。精緻なギヨシェ彫りのダイヤルをグリーンでまとめており、クラシカルだが目を引く華やかさを持つ。自動巻き、Ptケース、39.5mm。