New Matsusaka Roppongi

名物は「白菜のソテー」。関東に上陸した大阪・老舗鉄板焼の名店

October 2022

大阪の地で65年間愛されてきた老舗鉄板焼「ニュー松坂」が、関東初進出の地として選んだのは東京・六本木。今年で1周年を迎える同店でも、地元大阪で培われてきた伝統の味、そしてサービスでゲストをもてなしてくれる。

 

 

text: YUKINA TOKIDA

 

 

 

目の前を遮るものはなにもない。段々と暗くなっていくマジックアワーは、空の色の変化とともに食事を楽しめる。

 

 

 

 大阪・布施駅前に1956年に創業し、65年間人々に愛され続けてきた老舗鉄板焼店「ニュー松坂」。大阪では3店舗を展開しているが、昨年東京・六本木に上陸を果たし、関東一号店が誕生。来月で1周年を迎える。

 

 六本木店が位置するのは、六本木ヒルズからすぐの場所にあるグルメタワー「GEMS(ジェムズ)六本木」の7階。フロアにはカウンター席、半個室、完全個室が用意されており、特にメインのカウンター席は東京タワーを望む特等席だ。この席を選ぶならば、おすすめの時間帯はディナータイム。目の前を遮る建物が何もないため、東京タワーを絶好のポイントから眺められるのだ。その美しさは都内屈指と言っても過言ではない。

 

 仕切りを加えることで半個室にもなるカウンター席を彩るのは、職人が大阪をイメージし、上品ななかにも遊び心を取り入れたオリジナルの屏風。鮮やかな色味が空間に華を添えている。また、もうひとつの完全個室には、スイッチひとつで透明なガラスから乳白色に変化する瞬間調光ガラスが設置されており、プライベート感が満載だ。シーンによって使い分けられるのが嬉しい。

 

 

 

名物「白菜のソテー」。これなしでは同店のコースメニューは始まらない。

 

 

 

 そんな同店の名物は、すべてのコースに共通して提供される「白菜のソテー」。創業時からあるメニューのため、この料理を食べないとコースが始まった気がしないと語る顧客も多いとか。味付けはオリジナルブレンドの塩胡椒に、白ワインを少し加えるだけ。たったこれだけなのに、白菜本来の旨味が存分に引き出されている。余計な水分が出ていないのは、高温の鉄板で素早く炒め上げる、職人技の賜物。この一品を完璧に作り上げられるようにならないと、ゲストの前には立てないのだとも教えてくれた。1枚の白菜を、華麗な手捌きで鉄板の上で切り分け、ソテーし、味付けを行う……シンプルな一皿のように見えるが、この一品に鉄板焼きに必要なすべての技が詰まっているのだ。

 

 

サシが美しい松阪牛のシャトーブリアンとサーロイン。

 

 

 

 コースのハイライトでもある牛肉のラインナップには、長年培われてきた目利き力が光る。大阪の店舗では九州などの西日本地域から仕入れているのに対し、六本木店では主に茨城や群馬、北海道などといった東日本地域から、全店舗で味わいに大きな差が生まれないよう考えられながら、その時々のベストな状態のものが仕入れられる。さまざまな牛肉の種類が用意されているため、複数人で訪れるときには、異なる種類を注文して、肉本来の味の違いを比べてみるのも面白いだろう。

 

 肉に合わせて用意されている調味料のセレクションにもこだわりが詰まっている。福地六片のニンニクチップスやわさび、カンボジア産の生の黒胡椒ペースト、カリッとした食感が特徴のイギリス王室御用達のマルドン塩、硫黄の香りがするヒマラヤの黒岩塩、さらにはエジプト産の砂漠塩など多彩な薬味が揃っている。

 

 付け合わせとして、焼き野菜の他に、同社の社長の出身地である石川県の特産でもある生麩のソテーが添えられていることも同店の特徴といえよう。季節によって、よもぎや枝豆、桜やかぼちゃなど、そのフレーバーも異なる。

 

 選べる締めには、青森県産のにんにく福地ホワイト六片を使用した特製ガーリックライスがおすすめ。卵を加えることでまろみが増しているだけでなく、バターによってコクもプラスされており、軽やかでありながら深い味わいを楽しめる。赤だしと漬物も合わせて提供されるとくれば、コースを締めくくるのにこれ以上最高なものはない。

 

 とはいえ、他にも黒毛和牛の出汁茶漬けや焼きスパゲティなどといったここならではの締めの一品も揃っているため、アラカルトでの注文が可能なものは、追加でいくつか試してみるのもいいだろう。

 

 

卵と混ぜ合わせられた後、青ネギやバター、ニンニクチップスが加えられる。

 

 

 取材日のコース最後のデザートは、アップルカスタードやクランブル、葡萄のコンポートなどを使用した一皿だった。フレンチ出身のシェフも多く、随所にジャンルの異なる料理の要素が感じられるコース構成は、最後まで人々を飽きさせることがない。

 

 食事に合わせるドリンクについては、常駐している敏腕のソムリエに任せるのがいいだろう。各料理に合わせた、とっておきのマリアージュを提案してくれる。店内には、酸化を飛躍的に遅らせることのできる最新のワインサーバーも備えているため、普段グラスではあまり楽しめないような貴重なワインもグラスで注文できる。

 

 創業時から代々受け継がれている伝統の味、そしておもてなしの心は、この六本木の地でも随所に感じられた。関東における2店舗目として11月に新たにオープンを予定している新宿店でも、それは変わらないだろう。ニュー松坂の躍進から目が離せない。

 

 

 

コースの一例。