MILES AHEAD
“帝王”の装い
September 2020
左:1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルにて。右:キャップをかぶるマイルス(撮影年不明)。
1960年までには、彼はスタイルアイコンとなり、エスクァイア誌からベストドレッサーに選ばれた。時代の先を行く彼は、その頃スリムカットのヨーロピアンスーツを着るようになっていた。コンサートの予定を伝えるプレスリリースには、曲目と並んで彼のファッションも詳しく記載されている。1961年のランドールズ・アイランド・ジャズフェスティバルでは、ベージュのポンジ生地で仕立てたワンボタンのスーツや、ピンクのサッカー地のジャケット、ローファーなどが紹介されていた。
男は愛するものによってダメになってしまう、あるいは心が乱されることも少なくない。アンソニー・バルボーザが撮影した1971年の有名な写真では、スカーフやベルト、ブーツなど、気が遠くなるほどのアイテムで溢れたクローゼットの前でマイルスが立ちつくす様子を写している。
キース・ジャレットはダウンビート誌の記事の中で、彼のアパートメントを訪ねたときのことを次のように回顧している。「あらゆる服を集めた部屋で、彼は壁一面に並んだ服とシューズを見渡した。ひとつ着て出てきては戻り、また別の服を着て出てくる」。ようやくアパートメントを後にした彼は、「オンナと服、オンナと服……」とブツブツつぶやいていたという。その日に着る1着を決めるだけでも、ひと苦労だったようだ。
1950年代のニューヨークにて。