Mercedes-Benz E-Class Test Drive

長年培われたクラフツマンシップの結晶「メルセデス・ベンツEクラス」

March 2024

text kentaro matsuo

 

 

 

 

 3万8915円。これはバブル経済絶頂期の1989年につけた日経平均株価の最高値である。その後、日本は長い不況に陥り、経済は低迷した。つい先日の2024年2月22日、日経平均が再びこの値を超えたと話題になった。実に35年ぶりのことであった。

 

 89年にバブル経済の象徴だったクルマが、メルセデス・ベンツの型式W124だ。初めてEクラスの名前を与えられたモデルである(メルセデスは長い歴史を持つクルマが多いので、過去のモデルはCクラスやEクラスなどの名ではなく、型式で呼ばれることが多い)。

 

 W124は当初はミディアム・クラスと呼ばれ、当時のメルセデス・ベンツの主力車種であり、日本社会にメルセデスの名を知らしめた立役者であった。バブル期のオトーサンが、皆憧れたクルマだった。

 

 

初代メルセデス・ベンツEクラス(型式W124・1985-1995年)。

 

 

 

 当時のセールスマンによると、W124を売るのは実に簡単だったらしい。とにかく試乗までこぎ着ければよかった。100mも走れば、そのあまりに素晴らしい乗り心地に誰もが心酔してしまうのだ。素人でも「これは、モノが違う」とすぐにわかる。「桁違いのボディ剛性がもたらす安心感」、「鉄そのものが違う」などともてはやされた。ボデイ剛性なんていう言葉が、まだあまり知られていなかった時代である。

 

 

 

 

 W124は日本のみならず、世界中で売れに売れ、現在のメルセデス・ベンツの屋台骨を築いた一台である。現在では、メルセデスの売上の半分はSUVで稼いでいるらしいけれど、「じゃあ、メルセデスの王道は?」と問えば、やはりEクラスにとどめを刺す。

 

 今回フルモデルチェンジされた最新型の型式はW214。奇しくも、W124を入れ替えたような数字だ。初代Eクラスから数えて6代目になるという。

 

 

 

 

 もう35年も経っているのだから、ぜんぜん違うクルマになっているだろうと思いきや、エクステリアには多くの共通点がある。サイズは二周りほども違うが(全長で+194mm、全幅で+140mm)、ロングなフロントボンネット、後方に設置された(ように見える)キャビン、まっすぐに入れられたサイドラインなどが継承され、それらが端正でエレガントなプロポーションを作り出している。この形を見て、「嫌いだ」という人はまずいないだろう。

 

 

 

 

 最新型のフロントまわりは、ずいぶんと未来的である。ヘッドライトとグリルがつながったような造形は、メルセデスの電気自動車EQシリーズに通じる。グリルにはライトが仕込まれ、夜になるとフロントマスクを浮かび上がらせる。

 

 

 

 

 ウルトラハイビームと呼ばれるLEDライトは600m先までを照らす。百万画素の密度を誇り、前方走行車や対向車が眩しくないよう切り抜くように消灯することができる。レーンキープアシストと連動して、道を外れた場合、路上に注意喚起の矢印を投射することも可能だという。

 

 

 

 

 リヤランプもスリーポインテッド・スター形となっており、暗闇でも後ろから見ると、先行車がひと目でメルセデスだとわかるようになっている。左右のテールランプがつながっているようなデザインは最近のトレンドを踏まえたものである。かっこよく突き出した2本マフラーはダミーである。

 

 

 

 

 インテリアは、過去35年間で一番変わった部分かもしれない。群を抜く走行性能に相反し、昔のメルセデスの内装は、とにかくダサかったのだ。木目はテカテカ。シートには謎の模様の入った生地などが使われ、「ザ・田舎」という感じだった(しかしながら、その耐久性は素晴らしかった)。

 

 翻って、現在のメルセデスのインテリア・デザインは、業界をリードするほどセンスのいいものである。

 

 

 

 

 シートはパンチングが施されたナッパレザーが奢られ(ベンチレーション機能付き)、まるで仕立ての良いドライビンググローブのようだ。センターコンソールはマット仕上げのウッドとアルミラインが組み合わされ、ビジネスジェットの内装を思わせる。

 

 

 

 

 ホイールベースは先代より20mm拡大され、その分は室内空間を広げるのに役立てられたという。後席はゆうゆうとしている。

 

 大人4人がリラックスして長時間乗車を楽しむことができる。

 

 

 

 

 トランクも広そうだ。ゴルフバッグが3つは入るらしい。ゴルフをしない私は「へえ、そうですか」と首を傾げるばかりだが、トランクにゴルフバッグがいくつ入るかは、この手のクルマを買う人にとって、今も昔も大切なファクターなのだ。

 

 

 

 

 ダッシュボードの「MBUXスーパースクリーン」は運転席前からセンターパネル、助手席側までディスプレイが繋がっているようで、ヴァーチャルな未来感に溢れている。メーターまわりは3D仕様となっており、平面なのに表示に奥行きを感じることができる。コクピットに座ると、VRゴーグルを装着したような錯覚にとらわれる。

 

 

 

 

 操作はまさにスマホ感覚である。大きなスクリーンに各種アプリが映し出され、アプリを選ぶことでそれぞれの機能を使うことができる。アプリはサードパーティが開発に参加し、これから増えていく予定だという。

 

 

 

 

 ダッシュボード上には室内に向けられた「セルフィー&ビデオカメラ」が設けられている。これは自分の写真や動画を撮影したり、ZOOMなどのアプリを使ってウエブ会議をするときに使うものだという。Eクラスの車内からミーティングに参加したら……まぁ、エグゼクティブ感満点だろう。

 

 

 

 

 エアコンの吹出口は従来型から一転して、ディスプレイに沿って限りなく薄く設えられている。ルーバーは電動式となり、風向きを選ぶと、自動で上下に動く。ギミックといえばそうなのだけれど、メルセデスの常として、こういう一見地味な装置も徹底的なテスト・改良を行ってから商品化してくるので、きっと快適なものになっているに違いない。

 

 

 

 

 特筆すべきはオーディオの充実で、ドイツのハイエンド・オーディオメーカー、ブルメスターによるコンポーネントが奢られている。「Burmester®4Dサラウンドサウンドシステム」と呼ばれるシステムは、音楽に合わせてシートが振動するもので、文字通り腹に響く重低音を体感することができる。

 

 さまざまなカラーを選べ、室内を彩るおなじみの「アンビエントライト」は、音楽に合わせて明滅するようになった。気分はミニ・ディスコである。

 

 

 

 

 個人的に気に入ったのは、「Just Talk」である。これは、今までは音声コマンドを使用するときに、まず「ハイ、メルセデス」と言う必要があったのが、一人で乗っているとき限り、普通に話せばよくなった、という機能である(この「ハイ、メルセデス」がなんとなく恥ずかしかったので、これは助かる)。

 

「暑い」、「音下げて」、「窓開けて」など、いきなり言ってすべて通じた。

 

 

 

 

「ルーティン機能」と呼ばれる新しいファンクションも付加された。これは「◯◯ならば、✕✕する」という条件を設定しておけば、それを満たした場合、一連の動作が自動で遂行されるというもの。例えば「気温が10度以下に下がったら、シートヒーターをオンにする」など。なんだか昔習った数学の命題みたいで、いろいろと工夫できそうだ。

 

 

 

 

 すべての基本的操作は直感的にできるよう考え抜かれているから、とっつきやすさも抜群である。

 

 例えば、ステアリングに取り付けられたドライビングアシストのスイッチは一発で探り当てることができ、操作も簡単だった。こういう細かいところが、少しずつ改良されているのがメルセデスのいいところだ。先進機能と人間工学を天秤にかけて、絶えずバランスを追求し続けている。

 

 

 

 

 まずハンドルを握ったのは、E 350 eであった。これはPHEV(プラグインハイブリッド)。モデルである。2Lのガソリンエンジンとモーターが組み合わされている。エンジン最高出力150kW、エンジン最大トルク320Nm、モーター最高出力95kW、モーター最大トルク440Nmとなっている。

 

 

 

 

 走行モードはECO、Comfort,Sportsなどに加え、電気オンリーで走行するELも選ぶことができる。

 

 バッテリー容量は25.4kWhを誇り、フル充電ならば、最大航続距離は112kmになるという。つまり片道50km以下の通勤に使うなら、自宅で毎晩充電すれば、一滴もガソリンを使わないで会社と家を往復できるということだ。

 

 

 

 

 遠出をするときは、ハイブリッド・モードを選びガソリンを併用すればいい。CHAdeMOの急速充電にも対応しているから、充電スポットがあれば、さらに電気駆動の距離を伸ばすことができる。PHEVは電気自動車の経済性とガソリン車の航続距離、両方のいいとこ取りをした、現在最強の存在である。

 

 もちろん、静粛性に優れていることは言うまでもない。

 

 

 

 

 E 220 dにも試乗する機会を得た。こちらは定評あるメルセデスのディーゼル・エンジン+ISG(マイルドハイブリッド)である。エンジン最高出力145kW、最大トルク440Nmとなっている。

 

 Eクラスは遮音性に優れており、(ハイブリッドと比べるとさすがに少しうるさいが)エンジンの振動・騒音はほとんど感じられない。Sportsモードを選べば、ディーゼルらしからぬ爽快な走りを得ることができる。もちろん軽油ならではの経済性は魅力的だ。

 

 さらには、ガソリン・エンジン+ISGのE 200も用意されている。

 

 

 

 

 これはどれを選ぶのが正解かといえば、どれを選んでも正解だと思う。

 

 今回の試乗はどちらのモデルも正味1時間ほどで、一般道〜高速道路〜サービスエリアといった普通の道を普通に走っただけだから、限界性能などはわからない。誤解を恐れずに言えば、PHEVとディーゼルは300kgもの車重差があるにもかかわらず、両者の走りはあまり変わらない印象を持った。

 

 

 

 

 Eクラスは昔から(一部のモデルを除いて)、良い意味でパワートレインの存在を感じさせないクルマであった。「シャーシは常にエンジンに勝つ」というのがメルセデスの哲学だから、どんな場合でも安心して、オーソドックスなFRセダンの、自然なフィーリングのドライブを楽しむことができる。

 

 

 

 

 ピカイチなのは、取り回しの良さである。ハンドルがよく切れるので、狭い道でも臆することなく入っていける。Uターンも楽々キマる。全長5m近いクルマとはとても思えない。車庫入れもしやすい。ギアをリバースに入れて、バックモニターを見ながら入庫させると、ピタリと側線と合わせることができる。

 

 これは前出のW124から脈々と続く、メルセデスFR車の最大の美点である。その乗車感覚は、昔のクルマ雑誌ではよく「オーダーメイドのスーツを着ているような」と表現されていた。そのフィット感はW214になっても健在である。

 

 

 

 

 Eクラスをビスポーク・スーツに擬えるのは言い得て妙である。熟練した職人が仕立てた注文服はエレガントで上品、しかも着ていて疲れない。

 

 Eクラスはこれでもかとばかりに詰め込まれた最新装備に目を奪われがちなクルマだが、本当のよさはプロポーションの美しさと運転のしやすさにある。メルセデス・ベンツが長年培ってきたクラフツマンシップは、円熟の極みに達している。一番メルセデスらしいメルセデスが欲しいなら、Eクラスで決まりなのである。

 

 

Mercedes-Benz E class

全長×全幅×全高:4,960×1,880×1,470mm

E 200 AVANGARDE(ISG搭載モデル) ¥8,940,000

E 220 d AVANGARDE(ISG搭載モデル) ¥9,210,000

E 350 e Sports Edition Star ¥9,880,000 Mercedes-Benz