Mario Griariotto Interview

大切なのは“スロー”ということ

March 2018

スローウエア CEOマーケティング&リテール

マリオ・グリアリオット インタビュー

 

text kentaro matsuo photography anatole papafilippou

 

 

Mario Griariotto   マリオ・グリアリオット

1958年、ミラノ生まれ。エルメネジルド ゼニアにて、20年の勤務ののち、2009年よりスローウエア社に参画。長年培ってきたリテールでの経験を生かし、現在はスローウエア・グループの4つのブランド(インコテックス、ザノーネ、モンテドーロ、グランシャツ)のマーケティングおよびリテール事業を統括。

 

スローウエア2018春夏のコレクションより。

 

 

 スローウエアは、一風変わったファッション・グループだ。インコテックス、ザノーネ、モンテドーロ、グランシャツという4つのブランドを擁し、それぞれのブランドは独立しているにもかかわらず、グループに通底する同じフィロソフィーを共有しているという。

 

 グループのキーマンである、マリオ・グリアリオット氏にインタビューする機会を得た。

 

「それぞれのブランドのテイストは違いますが、グループに共通しているものがあります。それは、“クオリティ”そして“タイムレス”ということです。すぐにダメになってしまうようなものは作りません。飽きが来ず、丈夫で、長く使えるもの。われわれはそういったものを、お客様にお届けしたいのです」

 

 グループ名である“スローウエア”もここから名付けられた。ハンバーガー、スナックなどのファストフードに対して、ローカルな素材を使って、伝統的なレシピで手間ひまかけて作られる料理のことをスローフードと呼ぶ。彼らの作る服は、スローフードの洋服版なので、スローウエアなのだという。

 

「昨今のファッション・ビジネスは、毎シーズンすぐダメになってしまうチープなものを買わせようと、あの手この手で迫ってきます。われわれのしていることはまったく逆です。長く着られるもの、使うほどに愛着が湧くものを提供したいと思っています。アイテムを育てていく感覚といえばおわかりでしょうか? それはちょうど、1960年代に作られたヴィンテージの椅子のようなものです」

 

本格派トラウザーズから5ポケット・デニムまでをラインナップするインコテックス。

 

 

 個性豊かな4つのブランドについて、それぞれの特徴とおすすめのアイテムを聞いてみた。

 

「インコテックスはわれわれのルーツであり、トラウザーズを専門としています。パンツ業界ではずっとスリムフィットが続きてきましたが、ここに来て、大きな変革期を迎えています。プリーツ入りのルーズフィットなモデルに、人気が移ってきているのです。特に注目していただきたいのは、“ヴァーヴ”と呼ばれるラインです。われわれのアーカイブからヒントを得て、細部によりこだわった仕様となっています。例えば、ジュエルボタンを使ったり、ボタンフロントであったり、クラフツマンシップに溢れる仕上がりです」

 

ザノーネのニットはイタリアならではのデザインと色彩、および先進の素材が魅力だ。

 

 

「ザノーネは、ニットを得意とするブランドです。特に“アイスコットン”と呼ばれる、ひんやりした触感を持つサマーニットと、“フレックスウール”という名前の、強撚糸を使ったシリーズに人気がありますね。後者は、ウール95%、ポリアミドが5%の組成で、シワにならず、旅行などに持っていくにはぴったりです」

 

風合いのよさで定評がある、グランシャツのデニム素材のシャツ。

 

 

「グランシャツは、主にカジュアルなシャツを得意とするブランドです。デニム地やフラワープリントのシャツをおすすめしますね。これはモンテドーロのジャケットにはぴったりのアイテムです。昨今のファッション界は、どんどんカジュアル化していますが、そういった気分にぴったりのシャツです」

 

オーセンティックかつスポーティな、モンテドーロのジャケット・コレクション。

 

 

「モンテドーロは、ジャケットやコートなどのアウターを作っているブランドです。やはりスポーティでカジュアルなテイストを得意としています。何かひとつアイテムを挙げろといわれれば、ピーコートをおすすめします。モンテドーロを代表する品で、ベストセラーでもあります」

 

 スローウエアのロゴマークをよく見てみると、ブランド名の下にVENEZIAとある。彼らの本拠地はミラノやローマではなく、ヴェネツィアにあるのだ。このことが、スローウエアの服作りに、大きく影響しているという。

 

「ヴェネツィアが属するヴェネト州には、古くから続いている、靴や鞄などの小さな工房がたくさんあるのです。規模は10〜20人のところがほとんどです。それぞれの工房が得意分野を持っていて、特別な技術を継承しています。ですからヴェネツィアでは、もし何かアイデアを思いついたら、それをすぐに形にすることができるのです。このことはわれわれの大きなアドバンテージです。世界的なラグジュアリー・ブランドも、何か新しいことを試す場合は、ヴェネト州へやってくることが多いのですよ。ヴェネツィアは、インターナショナルなファッションの実験室といえるのです」

 

スローウエア2018春夏のコレクションより。

 

 

 日本において、初めてインコテックスのパンツの人気に火がついたのは、今から20年以上も前のことだ。当時“クラシコ・イタリア”という言葉とスタイルがブームとなり、それを代表するブランドとして大人気を博した。以来、スローウエアと日本との関わりは、とても深い。

 

「日本はイタリアと似ている、とても成熟したマーケットです。そして多くのブランドにとっては、非常に難しいマーケットでもある。日本人の品質に対する要求は、世界一でしょう。われわれが、ここまで日本で成功してこられたのは、ひとえにクオリティを追求してきたからだと思います」

 

「いま、ミレニアム世代やEコマースなど、新しい販売チャネルが話題となっていて、みんなそれらについていこうと必死になっていますが、その点では、私は楽観的なのです。今までも、そしてこれからも、スローウエアのフィロソフィーは変わりません。クオリティさえしっかりしていれば、世の中は必ず受け入れてくれるはず・・・そう信じているのです」

 

 マリオ氏は、力強くそう言って、インタビューを締めくくってくれた。

 

 

スローウエア

www.slowear.com/ja