HOW TO MASTER MORNING DRESS
モーニングの正しい着こなし方
June 2024
ロイヤル・アスコットや結婚式のシーズンがやってくる。悲しいかな、現代社会ではモーニング・ドレスの正しい着こなしは忘れられつつあるが、THE RAKEとしてはぜひ知っておいていただきたい知識である。
(この記事は2022年に公開されたものを再編集したものです)
by aleksandar cvetkovic
この文章を読んでいる読者の中には、爵位をお持ちの方もいるかもしれないが、その他の人々にとって、モーニングを着る機会はとても少ないだろう。結婚式、式典など、限られた場所のみである。そのため、モーニング・ドレスの着こなしをマスターすることは、現代社会では非常に難しいハードルとなっている。しかし、古(いにしえ)の服装術を学び、インスピレーションを得ることは可能だ。サルトリアの世界ではいつもそうだが、正しく美しい着こなしをマスターするには、過去の偉大なロマンティック・ドレッサーに目を向けるのが一番なのである。
グレゴリー・ペックやウィンザー公爵のように、通常のラウンジ・スーツを上手に着こなすことができる人たちは、モーニングにも精通していたものだ。中でももっとも称賛されるべきは、英国の写真家セシル・ビートンである。妥協を許さない夢想家であり美学者であったビートンは、モーニングに特別な思い入れを持っていた。おそらく、ノスタルジーと上流階級への関わりが、彼をそうさせたのであろう。ビートンのモーニング・ルックは最高であり、非の打ち所がない。何ひとつ見落としがなく、すべてが美しく仕上げられている。
まず、背の高いトップハットには美しいリボンがついており、ビーバーファーか希少なフランス製シルクでできている。彼はいつも(礼儀に反して)ちょっと傾けて被っている。注目すべきは、ビートンのモーニングの微妙なプロポーションだ。彼は上流社会の写真家として活躍する中でいくつかのモーニングを誂えたが、それらはすべて同じ方程式に則っている。
上着は当時の一般的なスーツの上着より、ずっと胸に近いところからカットされている。モーニング・コートの前身頃には裾がなく、体型にぴったりと沿うように設計されている。テールは膝の裏まで届いている。ラペルは膨らみのあるカーブを描いているが、広すぎてはいけない (4.5インチ幅のラペルが好きな私でも、モーニング・コートの場合は3.75インチ幅を超えない)。そして、肩はすっきりとシンプルで、あまり重たいパッドは入っていない。
ビートンの着こなしは、ウエストコートがシングルであれダブルブレステッドであれ、短いものであるべきだということを示している。コートのフロントはカッタウェイ仕様となっており、ウエストから下は胴体がかなり露出している。そこからリネンのウエストコートのふたつの先端がエレガントに突き出しており、トラウザーズへとシームレスに繋がっている。
トラウザーズはプリーツ入りで、股上は深く、通常はシルクのブレイシズで吊られている。モーニング・トラウザーズは、ワイドレッグでターンナップなし、軽いブレイクが入るものを選ぶとよいだろう。
上着には黒のヘリンボーンか、ミッドグレイのウーステッドしか使えないというのは迷信だ。ヴィンテージのファッション・イラストでは、ダークでダスティな色合いのチョコレートや、アースカラーのグレイブラウンのヘリンボーンも散見される。しかし、ネイビーはごく稀にしか見られず、1930年代から40年代にかけては、むしろ下品だと思われていたのだ。
デヴィッド・ニーヴン夫妻(左)、ヴェロニクとグレゴリー・ペック夫妻(右)。
上着の色は、ウエストコートに影響を与える。ビートンはいつもグレイのモーニング・スーツにシングル・ブレステッド、黒のコートとモーニング・トラウザーズにダブル・ブレステッドのウエストコートを選んでいた。しかし、グレゴリー・ペックのハンツマン製のモーニング・スーツは、グレイのスリーピースにダブルのベストを組み合わせたものだった。
ウエストコートの素材としては、リネンやトロピカル・ウーステッドが一般的だ。色はダブ・グレイ(鳩羽色)が無難だが、シャンパン、フォーン、パウダー・ブルー、ダスティ・ピンクなどは楽しい選択肢でもある。最近見落とされがちなディテールとしてドレススリップがある。ドレススリップとは非常に古い装飾で、ウエストコートの上端にパイピングされる白い生地のことだ。下側にもう一層あるかのような錯覚を与える。
トラウザーズは、ダークグレイのいわゆるモーニング・ストライプが一般的だが、必須というわけではない。ダブ・グレイのハウンドトゥース、ヘリンボーン、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックなどは許容範囲で、より面白い選択肢だと思う。
靴は、よく磨かれた黒でなければならない。
デヴィッド・ニーヴンもビートンも、クラバットの価値を巧みに証明している。糊の効いたウィングカラー・シャツにクラバットを結べば、ネオ・エドワーディアン風の実にエレガントな装いとなる。
シャツは白やクリーム色の無地が基本だが、淡いピンクやライラック、ブルーのシャツを着るなら、襟だけはホワイトにするべきだ。シャツの襟を白くすることでフォーマル度が増し、調和がとれるのだ。モーニング・ドレスは、何といっても慎重に着こなさなければならない。派手であってはならないし、決して下品であってはならない(私の個人的な意見としては、モーニング・スーツに目新しいネクタイをするような輩は、ロイヤルファミリーから追放すべきだ)。
ビートンと並んでモーニングをうまく着こなす紳士たちは、ローライズパンツ、派手な色、安っぽい柄を避け、かつてのダンディたちと同じように、古典的な美学を守っている。
今日、チャールズ3世は、真にエレガントなモーニング・ドレスのお手本と言えるだろう。時代を超えた伝統的なシルエットを持つ国王のモーニングは、アンダーソン&シェパードなどで作られている。グレイのスリーピース・モーニング・スーツ、ダブル・ブレステッドのウエストコート、ドレススリップ、そしてグログランのラペル・パイピングなど、伝統的なディテールをすべて網羅している。
ビートンのようなジェントルマンの手にかかると、モーニング・ドレスは、男にとって最もエレガントで上品な装いとなる。洗練され、サルトリア的で、正しく、しかも快適な服装のアートである。
次にドレスコード付きの招待状を受け取ったら、尻込みせず、しかしルールから逸脱しようとしないでほしい。ロマンティックなファッショニスタたちから学び、自身を持ってモーニング・ドレスを着用すれば、その結果は驚くほどモダンに見えるはずだ。