HOW TO COMBINE TAILORING AND WORKWEAR
テーラリングにワークウエアの要素を取り入れる
March 2022
ディテールやデザインは進化しても、テーラリングとワークウェアは常に密接に結びついている。境目は曖昧なままだが、何よりもワークウエアの要素をテーラリングに取り入れるのはクールだといえる。
by JOSH SIMS
テーラード・ジャケットにジーンズを合わせるのは、今日ではレイキッシュな定番コーディネイトとなっている。しかしかつてはこんな組み合わせはまず考えられなかった。
テーラリングは当然のことながらカッチリとした雰囲気で、デニムは万能だがフォーマルさに欠けるため、さまざまな場面で着用することがはばかられた。テーラリングとワークウェアは、永遠に交わらない平行線のようなものだったのだ。しかしそれがずっと続いたわけではなかった。
アメリカはデニムを着た人たちによって、フランスはモールスキンを履いた人たちによって築かれたかもしれないが、少なくとも20世紀初頭の英国では、テーラリングウェアはワークウェアでもあった。男性は、道を掘るときも、会計処理をするときも、同じようなジャケットを着ていた。
坑内労働者のアーカイブ画像は、煤で汚れた状態で炭鉱を後にして家路につく様子を写したものだが、ボロボロになったスーツを着た男性の姿が印象的だ。同様に、裕福な人々も、レジャーや土地の管理など、カントリーライフのために仕立て服を着ていた。変わったのは、ひとつかふたつの機能的なディテールと、生地の丈夫さくらいだった。
「実は、この中間地点がより実用的で、より簡単だったのです。着こなしがルールに縛られなくなるにつれ、テーラリングは、どこにでも行けるスタイルになっていきました。日々の生活に適したものになっていったのです」
こう語るのは、ヴィンテージ・ワークウェアの専門店“Werkhaus”の共同オーナーであり、スタイリストでもあるシンシア・ローレンス・ジョンだ。
「例えば、当時の男性はチョー(雑用)ジャケットを着ていても、シャツとネクタイを着用しています。今でもそんなコーディネイトはスタイリッシュです。もちろん、適切な種類のシャツとネクタイでなければなりませんが。同様に、すべての人にというわけではありませんが、昨今はボイラースーツにも人気があります。シャープなテーラードジャケットとの相性は抜群です」
このようにテーラードとワークの境目が曖昧になっているため、シャープでドレッシーなテーラリングで知られるブランドの中には、ジーンズだけでなく、ヘビーなコットンツイルのパンツや、カシミアとデニムの混紡生地を使ったブレザーなどにも手を出しているところもある。仏のテーラー、チフォネリが、デニム素材のひとつボタンのジャケット(ワークウェアというにはまだ構造的に無理があるかもしれない)を発表したり、6つボタンのパッチポケット・ジャケットを展開したりしているのは、伝統的なフランスのチョー・ジャケットの影響を受けているからだ。
ヴィンテージのワークウェアの出来は、大量生産による製法的な限界に大きく左右されるが、ワークウェアにインスパイアされた現代のブランドでは、クラシックなテーラリングに見られる技術や仕上げを採用することで、よりエレガントなワークジャケットを追求している。
ロンドンの新興ブランド、ブラック ホースレーン アトリエのチョー・ジャケットは、表向きは伝統的な形をしているが、肩の縫い目を斜めにしたりしてサルトリアル色を強めている。同ブランドは「ドレスアップにも対応できるようにしているのです」という。また英国のブランド、テンダー コーでは、ワンピースカラーで肩の縫い目がないワークジャケットや、スノッブサムポケット、裏地付きのベルトループ、二重に折り返した裾を持つジーンズやワークトラウザーズなど、まともなテーラリングには見られないような構造を持ったアイテムを展開している。
今ではそれらはファッションの一部であり、現在の本物のワークウェアとは全然違う。現在の仕事着は、洗濯しやすいハイテク素材で作られ、必ずと言っていいほど昼光色や反射材がそこかしこに貼りつけられている。今日において、道路工事をしている人をスタイルのお手本とすることはないだろう。しかし、それはチョー・ジャケットを着ている人すべてに当てはまるわけではない。ワークウエアはとてもお洒落に着こなすことが可能なのだ。