Greg Chait, THE ELDER STATESMAN -Interview-
【ジ エルダー ステイツマン】創設者グレッグ・チェイト独占インタビュー
November 2024
ポップな遊び心に満ちたニットウェアの背景に、類い稀なクラフツマンシップを宿した「ジ エルダー ステイツマン」。今年リニューアルした和光 本店地階にも進出し、同店限定のカプセルコレクションも登場。クラシック服好きにとっても見逃せない存在になっている。その創設者グレッグ・チェイトに独占インタビューが叶った。彼の情熱に触れるほど、そのコレクションが魅力的に映るはずだ。
text hiromitsu kosone
Greg Chait/グレッグ・チェイト
1978年カナダ・トロント生まれ。もとはエンターテインメイント業界で働いていたが、オーストラリアのブランド「スビ」の米国ローンチに参加してファッションの世界へ。その後自身のブランド「ジ エルダー ステイツマン」を創設し、世界的なデザイナーとして躍進。
2007年にロサンゼルスで「ジ エルダー ステイツマン」を立ち上げたグレッグ・チェイトは、極めてRAKISHなクリエイターだ。一見、本誌が普段提案しているワードローブと真逆の位置にありそうなコレクションだが、その根底にはクラシックウェアの作り手と相通じるアルチザンシップへの情熱がたぎっている。そもそも彼がブランドを立ち上げた背景も「エンスージアズムが高じて」のことだそうだ。
「私はもともと、カシミアブランケットが大好きでした。2002年から収集をはじめ、それから5年間、特別なクオリティの一枚を求めて世界中を探し回りました。かなりの情熱を傾けましたが、私が理想と思い描いていたものはついに見つけることができなかった。ならば自分で生み出すしかないと、ブランケット作りをはじめたのです。
私の理想を叶えるためには、まず糸作りから行う必要がありました。そこでノースウエストコーストの紡績業者からカシミアの原毛を輸入し、手紡ぎによって最高の糸を生み出しました。それを手編みして、150×200㎝のブランケットを作ったのです。あくまで自分のために製作したものでしたが、マックスフィールド(ロサンゼルスに構える、西海岸有数のセレクトショップ)のファウンダーであるトミーがどこからか噂を聞きつけ、“それをバイイングさせてほしい”と言ってきました。私は彼の要望に応え、その翌日には私のブランケットがマックスフィールドの顧客へと渡りました。そのとき、ジ エルダー ステイツマンのインスピレーションが私の頭のなかに次々と湧いてきたのです」
ジ エルダー ステイツマン 2024年 秋冬コレクションより。カシミアをはじめとする最高品質の素材を採用したニットウェアがそれぞれのルックに華を添えている。
カシミアのブランケットからスタートしたジ エルダー ステイツマンだが、その後トータルウェアでコレクションを展開。2012年には気鋭の若手デザイナーを発掘するCFDA/ヴォーグファッション基金アワードで大賞に輝き、世界的な地位を固めた。現在のスペシャルティになっているのがニットウェアで、驚くべきことにすべてのニットをロサンゼルスに構えた自社ファクトリーで生産しているという。それも編み立てだけでなく、糸の紡績や染色から行っているというから驚きだ。デザイナーズブランドとしては極めて異例といえるだろう。
ブランドの公式インスタグラム(@theelderstatesman)ではニットウェア作りの様子も公開されている。職人の手仕事を惜しみなく費やしたプロダクトであることがわかるはずだ。
「私たちはロサンゼルス・サウスアーツ地区に拠点を置いています。ここには才能にあふれたクリエイターが数多く集まっていて、とても良い環境でものづくりができていると思いますね。ファクトリーで使っている編み機の多くはヴィンテージものなので、大切にメンテナンスをしながら動かしています。機械の修理を行うための工場も併設しているんですよ。
そしてファクトリーで働く職人たちもまた、ジ エルダー ステイツマンにとって無二の財産です。みな熟練の技を身につけていて、職人全員のキャリアを足すと400年以上にもなります。彼ら情熱を分かち合いながら仕事ができるということは、私にとってなによりの喜びなのです。
ブランドの立ち上げから15年以上が経ちましたが、今でも自分のためのブランケットを作っていたころのマインドは変わっていません。素材から最高のものを追求し、私たちにしかできないユニークな服を生み出す。いたずらに数を作ることに興味はありません」
“銀座の象徴”に現れた、特別なコラボコレクション
さて、そんなジ エルダー ステイツマンが、銀座の和光本店に特別なコレクションを展開することになった。和光といえば、世界の一流品だけを厳選する由緒正しい名店。クラシックの殿堂ともいえる同店がそのクオリティを認めたことからも、ジ エルダー ステイツマンが本物のアルチザンシップを宿していることがおわかりだろう。
2024年7月にリニューアルオープンした和光 本店地階。現代美術作家・杉本博司と建築家・榊田倫之による新素材研究所が「時の舞台」をコンセプトに設計した。霧島杉、魚梁瀬杉、京都の町家石など日本ならではの素材をふんだんに使いつつ、モダンな空間が演出されている。
「和光 本店地階のリニューアルオープンにあたって、限定のコラボレーションアイテムを製作することになりました。私にとって、とてもエキサイティングなプロジェクトでしたね。私にはヨシコという友人がいて、彼女と“Beautifully Localized”という造語についてよく意見を交わしています。どういう意味かというと、ブランドがどこか新しい場所へ根を張ろうとするときには、すでにそこにあるものを尊重しながら私たちの個性を表現しなければならないということ。今回、和光とコラボレーションを行うにあたっても、まずはその本拠である銀座、あるいは日本の人たちにとって何が重要かを正しく理解しようと努力することからはじめました。幸いなことに、それはとても容易でしたね。この本店地階は日本ならではの魅力を象徴するかのようで、私にもその文化的意義がすぐさま理解できましたから」
ニット¥200,000〜360,000 The Elder Statesman for WAKO
ジ エルダー ステイツマンが和光限定で製作したのは、シグネチャーであるニットウェア。最高級のコットンカシミアを使用し、ラグジュアリー感たっぷりの肌触りに仕上げられている。特筆すべきは、そのユニークなデザイン。WAKOのロゴをグラフィカルにあしらったものや鮮やかなトーンを印象的に聞かせた一着など、いずれもアイコニックにして遊び心にもあふれた一着だ。
「今回のコラボレーションで、和光とジ エルダー ステイツマンは同じ美意識を共有する者どうしであることを実感できました。糸1本からこだわりぬき、敬意と愛情を表現した特別なニットウェアで、私たちの熱意を感じていただければ大変幸いです」
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