THE ULTIMATE COMMUTER BAG

THE RAKE編集長・松尾とFUJITAKAが考えた究極の通勤&出張鞄

December 2022

デイリーユースから、出張までどんな場面でも使え、機能性に長けており、しかも軽い。持てばコーディネイトを格上げしてくれる、そんな革鞄がついに完成した。

 

 

text kentaro matsuo

 

 

 

イタリア製高級レザーの質感を生かし、デザインはあくまでもシンプルに。しかしフロントのフラップや長めの持ち手など、ありそうでない意匠を追求。何よりデイリー&出張バッグとしての機能性にこだわった。同素材のポーチが付属する。鞄サイズ:W44×H32×D16cm、ポーチサイズ:W17×H9×D6cm カラー:マロン(特別色)品番625731 ¥96,800 Fujitaka

 

 

 

「編集長、理想の鞄を作ってみませんか?」

 

 フジタカは、1941年創業の鞄・小物の老舗である。高い技術とデザイン性で知られ、そのブランドは日本のみならず、海外にも知れ渡っている。東京・浅草橋にあるショールームへは何度も足を運んだことがあり、そのクオリティには全幅の信頼をおいてきた。だから、この話をいただいたとき、ふたつ返事でOKをしたのである。

 

 そこで、私にとって、理想の鞄というものを考えてみた。まず私は衣服のポケットにものを入れるということをしない。財布、携帯、名刺入れ、スケジュール帳(いまだにアナログ派)、メモ帳とペンは、いつも鞄の中に忍ばせている。

 

 サイズは少し大きめがいい。ラップトップや雑誌のサンプル、プレスリリース類など、持ち運ぶものが多いからだ。加えて最近では、スーパーやコンビニでレジ袋がもらえないので、買い物した品々(主に酒)をそのまま鞄へ放り込んでしまう。だから容量が欲しいのだ。

 

 さらにコロナ禍も落ち着き、これから出張が増えることを鑑みると、日々使っている鞄を、そのまま旅先にも持っていけるとありがたい。トロリーに固定できるストラップと、出張の必需品( 歯ブラシ、爪切り、充電コード、変換プラグなど)をまとめて収納できるポーチがあると便利そうだ。

 

 

 

左:出張時にはトロリーストラップでトランクに取り付けることが可能。容量が大きいので、1泊用のオーバーナイターとしても十分使える/右:自動販売機が普及していない海外では持ち歩けるペットボトルは必携。もちろん日本でも。

 

 

 

 いま使っているのは、間仕切り付きのトートバッグである。これは収納力があり、いろいろなものをポイポイ入れることができるので、なかなか便利だ。しかし、国内ならともかく、海外の場合、口が大きく開いたトートはセキュリティ面で心配だ。

 

 ナイロン製のブリーフケースは、軽くて機能性にも長けている。しかしファッション的にちょっと味気ない。THE RAKEの編集長としては、やはり上質なレザーバッグにこだわりたい。

 

 すべてを書き出し、フジタカに送り返したら、数カ月後に素晴らしいプロトタイプが上がってきた。私の希望はほぼ叶えられていたが、さらにミーティングを重ね、素材や色、細部を検討し、ようやく100%満足できる鞄が完成した。

 

 完成品を手にして驚いたのは、その軽さである。素材のグレインレザーは、もっちりとした質感を感じさせるが、これが意外なほど軽量なのだ(その秘密は後ほど)。デザインはシンプルだが、実際に工場へ行って、その製作工程を見学すると、見えないところまで「これでもか」と手がかけられていることがわかった。

 

 

 

左:メインコンパートメントのジッパーを開けないでも、フロントのフラップを開けるだけで小物入れにアクセスできる。携帯やカード入れ、パスポートなどよく出し入れするものはここへ/右:肩がけできるよう長めのハンドルを採用。ハンドルは本体上に重ね置きできて、まとめやすい。

 

左:内部にはPCホルダー、ジップポケット、ふたつのポケット、ペンホルダーなどを装備/右:底部には足が付き、置き場所に困らぬよう、鞄本体で自立するよう設計されている。

 

 

 

ファクトリーで見た職人技

 

 大阪と奈良を隔てる生駒山地を遠くに望む大阪東部の八尾市は、河内音頭発祥の地として知られる。市内には大小の工場が多くあり、ここは昔から物作りの町としても知られている。1941年創業の老舗、フジタカもこの地に工場を構えている。600坪の広い敷地にそびえる建物は、思いの外モダンだ。ここでは50名以上の職人たちがその腕を競い合っている。中には半世紀以上にも及ぶキャリアを持つ者もいるという。

 

「フジタカ・ブランドについては、自社で一貫生産しています。もちろんクオリティ・コントロールを徹底するためです。この工場では、単に技術を追求するだけでなく、使われる牛革のトレーサビリティや体に有害な薬品を使わないなど、環境にも配慮しているのです」と胸を張るのは、工場長の和地康晃氏だ。

 

 

工場長の和地康晃氏(中央)とFUJITAKAの精鋭たち。

 

 

 

 今回の鞄に使われた革は、イタリア北部の世界最大の『LWGゴールドランク認定』タンナーが鞣している。柔らかく、表面にシボが入ったマットな質感を特徴としている。本来はクルーザーやプライベートジェットの内装に使われるもので、丈夫で傷が付きにくく、耐水・耐光・耐熱など、物性に優れている。

 

 この革をそのまま使うのではない。革は入念に設計されたパターンに基づき、それぞれのパーツにカットされ、その後、使われる部分に合わせて、細かく厚さを調整されるのだ。フラットに厚みを揃えることを「割(わ)り」、接合面を薄く削ぐことを「漉(す)き」という(これが軽さの秘密である)。仕様書には革の厚さがコンマ二桁ミリまで指定してある。

 

「ここからが職人の腕の見せどころです」と和地氏。例えば、鞄の顔となるフラップ部分。元革の厚さは1.5mm程度だが、割って1.1mm。さらにフラップの縁は、0.4mmまで削ぎ落とさなければならない。職人の微妙な手加減だけが頼りである。仕上がった革をゲージで測ると、ぴたりと決まった数値を指している。

 

 それからエッジを内側に折り返す「へり返し」の処理が行われる。2枚の革を貼り合わせて強度を持たせるためだ。フラップは複雑な凹凸を描いているので、カーブに合わせ、手作業で革を内側にいせ込んでいく。「刻み」と呼ばれる工程である。

 

 

 

トロリー用ストラップ取付部は6枚の革や芯地を一気縫い、同じ穴に糸を2回通し補強。

 

最新のカッティングマシンも。伝統と革新の融合がテーマ。

 

 

 

 さらに何種類もの芯地を部分ごとに使い分け、2枚のパーツの表同士を縫い合わせる。エッジの部分は革が内側に折り込まれているので、合計4枚の革を貫通させることになる。仕上がったエッジは、革の縁が美しく処理され、薄手ながら微妙なボリューム感も持っている。これが狙いなのだ。

 

 また、裏面のトロリー用ストラップでは、最も力のかかる取り付け部分で4枚の革と2枚の芯地が縫い合わされる。合計6枚の素材を一気通貫した後、反対方向へ動かし、同じ縫い穴にもう一度正確に糸を通す「二度縫い」が行われる。まさに神業である。

 

 手間がかかるのは、「コバ磨き」だ。切りっ放しの革のコバ(断面)に水性ニスを塗り、乾かしてペーパーでひたすら磨く。これを4~5回は繰り返す。こうしないと、美しくなめらかな仕上がりが得られないのである。

 

 こういった作業を、すべてのパーツごとに行わなければならない。パーツの合計数は約140にも及ぶ。

 

 

コバ処理はニスを塗って、乾かし、ペーパーで仕上げ。これを何度も繰り返す。

 

 

手作業による削ぎで、革の厚みはコンマ二桁ミリの精度に仕上げられる。

 

 

 

「ここまでしなくていいのでは?とよく言われます。しかし、見えないところにこそ手間をかけるのがフジタカ流なのです。それは必ず完成品、特に耐久性に表れます。使う人に、少しでも長く愛用して頂きたいのです」そう言い切る和地氏の目は、職人としての矜持に満ち溢れていた。

 

 今回の鞄は、少量だが実際に市販されることになった。ぜひお手にとっていただき、私の意図したところと、フジタカの高い技術を感じていただければ幸甚である。

 

 

 

コンサバティブなスーツからジーンズにTシャツといったカジュアルまでどんな格好にも似合い、しかもコーディネイトをほどよくモダナイズしてくれる。特別色のマロンは、どんなカラーとも相性がいい。