ESSENTIALS OF THE MASTERS: ALEXANDER KRAFT

世界の一流が愛するもの
アレクサンダー・クラフト

Sunday, June 13th, 2021

アレクサンダー・クラフト氏は世界随一の成功者だ。

彼は誰よりも誠実で、謙虚で、確かな信念を持つスタイルアイコン。

そのファッションのルーツは、ラルフ・ローレンにある。

 

 

text wei koh

photography jamie ferguson

 

 

 

ALEXANDER KRAFT

アレクサンダー・クラフト

歴史あるオークションハウスが手がける不動産仲介会社、サザビーズ インターナショナル リアルティ フランス- モナコのCEOを務める一方で、パリのビスポークテーラー「チフォネリ」のイメージキャラクターとしても活動する、欧米では有名なファッショニスタ。インスタグラムのフォロワーは10万人を超える。

 

撮影でコーディネイトしたアイテムはすべて本人の所有物。スーツとストライプシャツ、コインローファーはラルフローレン パープル レーベル。ドット柄のタイはポロ ラルフ ローレン。アンティークのポケットウォッチはカルティエ。かつてTVプロデューサーが所有していた1968年式のフェラーリ365GT2+2“AK スペチアーレ”が愛車。

 

 

 

 

すぐにわかり合えた新しい友人

 

 ヴィンテージカーに他人と3日間も同乗するのは一種の賭けだ。適切な相手を選べばのんびり楽しめるが、不適切な相手を選べば地獄を見る。だから昨年の夏、メルセデス・ベンツの1967年式の280SLでミュンヘンからコモ湖までのヴィンテージラリーに出走するときは、私は漠然とした不安を抱えていた。なにしろ、今回選んだコ・ドライバー、アレクサンダー・クラフト氏とは初対面だったからだ。

 

 本誌の読者なら、彼の映画スターのような顔立ちやチフォネリの見事な着こなしを目にしたことがあるだろう。インスタグラム(@alexander.kraft)では、“#ceo”や“#gentleman”のハッシュタグであふれている。また、サザビーズ インターナショナル リアルティ フランス-モナコのCEOとして、例えばブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが4,500万ユーロで購入したシャトー・ミラヴァルのような超高級不動産を扱う一方、私の大好きなテーラーのひとつであるチフォネリのブランドアンバサダー兼イメージキャラクターも務めている。

 

 問題なのは、彼があまりにも成功していて、癪に障るほどにパーフェクトであるということだ。数え切れないほど所有しているヴィンテージカーや大邸宅の前でさりげなくポーズを取っていても、一分の隙もない。愛犬“バーティー”まで、実にエレガントで紳士的だ。だから、我慢ならないほど神経質な人物に違いない、会ってみればわかるだろうと思っていた。

 

 ラリーの最中、のどかな山道で280SLを巧みに駆るクラフト氏に、私はインターラーケンやルツェルンが中国人観光客にいかに人気があるかを語り始めた。北京五輪前に高地トレーニングのためインターラーケンを訪れた、有名な中国人アスリートの話である。驚いたことに、そのアスリートはそこで仏陀の姿を見たという。彼は帰国して国営テレビの番組でその話をすると、中国の人々は仏陀を拝みたいがためにこぞってインターラーケンや近隣のルツェルンにやってくるようになったのだ。毎年夏になると、渡り鳥のように大挙して押し寄せる。そして仏陀を拝めなかった者は、せめてもの慰めに金に飽かせてルイ・ヴィトンのバッグやエルメスのベルト、パテック フィリップの時計を買い漁る。欧米を訪れる中国人観光客は体験よりもショッピングを楽しむ傾向にあるから、仏陀を拝めようが拝めまいが、いずれにしても爆買いを楽しんだだろう。アンリ・マティスの絵画に、シャルル・ボードレールの詩をモチーフにした『豪奢、静寂、逸楽』という有名な作品があるが、そんなフレーズは意に介さない。彼らが好きなのはM.C.ハマーのような貪欲さで、旅先でイケてるブランドをとにかくガンガン買うことなのだ。

 

 

 

3ピーススーツはダブルアールエル。シャツとタイはラルフローレン パープル レーベル。愛車は、特注のコンパートメントを備えたレンジローバーのクラシックヴォーグ。

 

 

 

 見事な滝を見上げながら、私はこんな冗談を話した。

 

「これほど辺鄙な場所でも観光客を増やすために同じことができるよ。こんな話をでっち上げたらどうだろう。苦境に置かれた中国人がこの滝を訪れたら、突然ひらめいて、スイスの山を流れる清らかな小川でお尻を洗うことにした。すると、たちまちお尻から金の糞が出てきた。彼は帰国すると事業が急激に好転し、妻が積極的に誘うようになってきて、やがて男の子を産んだんだ……」

 

 ここで私が話をストップしたのは、クラフト氏が変な声を出していたからだ。怒りをこらえているのかと思ったら、失笑していた。あまりにも笑うので、運転を誤るのではないかと心配になったほどだ。

 

 これが私たちの美しい友情の始まりだった。これ以上交友関係が広がるとは思いも寄らない年齢になっていたのに、私はその瞬間に、すばらしい同志を見つけることができたのだ。

 

 

愛犬のバーティーと。デニムシャツ、リネンのトラウザーズ、エスパドリーユは、すべてラルフ ローレン パープル レーベル。カーディガンはポロ ラルフローレン。

 

 

 

完璧な彼が影響を受けた人

 

 クラフト氏の魅力は、なんといっても偉ぶらない人柄にある。気さくで、誠実で、控えめで、筋の通った真面目な男だ。そしてそんな美点を決してひけらかさない。戦いの場で自らのイメージが与える力を心得ているから、プライベートでも野暮を嫌う。私の友人のニック・フォルクスがよく言う「富とセンスが両極にある」この世界で、ダブルのベストを着こなし、ヴィンテージのフェラーリを駆り、愛犬のバーティーを従えたクラフト氏は、モデル業や音楽のプロデュース、5億ユーロの不動産取引に携わっていないときも、ありふれた陳腐さに対し戦いを挑んできた。彼の武器は、やはりインスタグラムだ。

 

 ファッションの基本は誰に教わったのかと尋ねると、彼は即座に「ラルフ・ローレン」と答えた。ラルフ・ローレンは私にとっても大切なメンターであり、トータルな美学や倫理観を表す名前だ。この答えを聞いて、彼とは真の同志になれると直感した。彼はこう語った。

 

「ラルフ・ローレンによって私の人生が大きく変わったのは間違いありません。彼がいなければ、今の私はなかったでしょう。私は若い頃からファッションや優れた職人技に興味がありましたが、これは偉大な紳士で目利きでもあった祖父から幼少期に植え付けられたものです。学問の面では早熟だったので、同級生の中で常に一番年下でした。だから、いつも周囲から少し浮いていましたし、どちらかというと内気で、自分の気持ちや個性を表現する自信が持てませんでした。そんなある日、名門校の面接試験を受けたのですが、面接官にこう言われたのです。『成績は申し分ないが、本校への入学は許可できない。君と話していても自信が感じられないからだ。自信を持つことが人生では一番大事なんだ』。面接後、当然ながら動揺してしまいました。そんなときに、ラルフ ローレンの旗艦店に初めて足を踏み入れたのです。店内のあらゆるものが私に語りかけてきました。そこにあるのは単なる商品ではなく、ラルフ・ローレンが紡ぎ出す詩的な世界観でした。まるで、彼の生き方、価値観、人生観、家族やライフスタイルに対する愛情を垣間見たような気がしたのです。店内を移動しながら、優雅でタイムレスなスタイル、ジェントルマンらしいエレガンス、謙虚でありながらポジティブな自己主張に魅せられました。そして、メンズコレクションが並ぶ部屋のマネキンを見ながら、思いました。“洗練されているのに男らしく、控えめなのに自信に溢れている、これこそ本物の男なのだ”と。そこで私はラルフローレンの服をワードローブに加え、肩の力を抜いて新たなコーディネイトを試すようになりました。これまでとは違う感覚でさまざまな装いに挑戦するうちに自信がつき、やがてさりげないスタイルが板につくようになりました。その矢先に名門校の面接をもう一度受ける機会があり、同じ面接官の前に座ったのですが、そのときは相手の目をしっかり見ながら、落ち着いた態度で、衒いなく堂々と自分のことを語れたのです。面接官からは“君は変わった。何があったんだ?”と聞かれました。私は一瞬考えて、こう答えました。“信頼できる友、真のメンターのおかげで、ありのままの自分を表現できるようになりました”と。私が自分らしく個性を表現できるようになったのは、ラルフ・ローレンのおかげ。だから、彼への恩はいつまでも忘れません」

 

 

ダブルブレステッドのブレザー、リネンのシャツとトラウザーズ、オーダーメイドのベルベットスリッパはすべてラルフローレン パープルレーベルのもの。

 

 

 

影響力のある洒落者のあるべき姿

 

 インスタグラムで“’#suit”や“#style”、“#gentleman”のキーワードを入れて検索すると、10万人以上のフォロワーを持つクラフト氏に辿り着くはずだ。クラフト氏は言う。

 

「年を追うごとに、自らの外見を整えることで得る力とそれが他者に及ぼす影響を実感するようになりました。視覚は他のどんな知覚よりも優先されるため、初対面の相手は見た目で判断してしまうもの。面白いことに、人はファッションや洋服に興味があるかどうかにかかわらず、個人的な嗜好をはっきり主張する相手に惹かれるのです。私はプライベートでも、名高い企業のCEOとしても、ファッションが有利に働くことに気づきました。その一方でラルフ・ローレンを見習い、若い頃から自分のライフスタイルをごく自然に表現してきたんです。10代の頃、自宅やコロラドの牧場で家族と寛ぐラルフ・ローレンの写真を見て心を動かされたことを覚えています。大好きな古典映画の名シーンを見ているようでした。あんな魅力を醸し出せたらいいですね。私はインスタグラムのイメージ通りの男なのでしょうか? 実のところ、私のことを何でも知っているのはごく少数の親友だけ。情報過多の時代、ちょっぴり謎めいた部分があっても悪くないでしょう」

 

 ファッションの奥深さを教えてくれたラルフ・ローレンの最も尊敬するところを尋ねると、嬉しい答えが返ってきた。

 

「私は昔から『ザ・レイク』とラルフ・ローレンのファンでしたが、彼が二度目に『ザ・レイク』の表紙を飾った号(日本版ではISSUE03)で、人道的な活動の全貌を知りました。ハーレムに暮らす人々のがん生存率が第三世界より低いと知った彼ががん専門の病院を建て、治療のプロセスをわかりやすくするために患者の目線に立ったプログラムを整備したことを知って、非常に驚きました。ラルフ・ローレンほどの成功者であれば、倫理観をないがしろにしがちですし、慈善活動も売名行為になりがちですが、彼はその逆です。最大級の成功と倫理的な行動が相反するものではないことを皆に示してくれる、すばらしい手本といえるでしょう。彼はこのふたつを完璧に両立させているのです。ラルフ・ローレンは偉大な男であり、善人でもある。誰もが見習うべき人物です。あの記事は本当に良い記事でした。ごくわずかな人々しか知らなかった彼の人生の一面を見せてくれたのですから。特に気に入ったのは、彼のこんなひと言でした。“ウェイ、自分のことばかり考えて他人を思いやらないと、人は不幸になるんだよ”。なんと真実味にあふれた、すばらしい言葉でしょうか」

 

プリンス・オブ・ウェールズのベストとトラウザーズ、シャツ、タイはすべてラルフ ローレン パープル レーベル。

 

 

THE RAKE JAPAN EDITION issue26