THE BEST FROM EVERY COUNTRY IN ONE SINGLE SHIRT: 100 HANDS

人の手でしか作れないもの:100 HANDS

October 2021

インドが誇る刺繍の伝統、優れた縫製技術に加え、イタリア製生地、ドイツ製芯地と世界最高の原材料と技術が集約されたシャツとは?

 

 

text yoshimi hasegawa

 

 

ボタンホールに加え、剣ボロ、カフスもすべて手縫い。細かなステッチ使いが洗濯に耐える丈夫さと手縫いならではの柔らかさを両立。カフス、ヨーク、スリーブに手で寄せられたギャザーのノーブルな表情はハンドメイドならでは。端正という言葉がふさわしい。

 

 

 

 2014年、世界最高峰のシャツブランドを目指し、創立された100(ハンドレッド)ハンズ。本社はアムステルダム、生産拠点をインド北部におき、世界から厳選された材料を用いて、裁断や縫製をハンドメイドで行う、新時代を象徴するグローバルなシャツメーカーだ。100ハンズ(Hands)というブランド名は、1枚のシャツの製造工程に約50人の職人、つまり100人の手を要することに由来している。

 

 インドの刺繍技術は世界最高峰として知られる。創立者のアクシャットは164年(6世代)にわたってインドで繊維産業を営む家系に生まれ、20年前から家族や友人のために小さなアトリエで服を作っていた。自分のルーツを生かした起業を思い立ち、100ハンズを立ち上げた。

 

「製造業は長年にわたり、コスト対マージンが製品作りの最重要項目となり、クラフツマンシップは軽視され、品質は低下していました。私の目標はインド伝統のクラフツマンシップに重きを置き、高品質な製品作りを復活させることでした」

 

 100ハンズのシャツは最初にサヴィル・ロウのテーラー達によって評価され、そこから世界中に販路を拡大した。

 

 彼らのシャツにはハンドメイドの高い技術を裏付ける多くのディテールがある。袖付け、襟付け、ボタン付けはもちろんのこと、世界で最も細い針を使って仕上げるボタンホール、カフに至るまで、ミシンで強度を増す必要性のある部分を除き、ほとんどすべての工程が精緻な手縫いで仕上げられている。

 

 

手縫いのシャツといえば柔らかなタッチが特徴だが、ここでは柔らかさの上に、インド刺繍の特徴でもある精巧で正確なハンドステッチを行う。世界で最も細い針と刺繍枠を用いて作られるボタンホールはインド伝統の技。通常のボタンホールが5分で完成するのに比べ、約45分の時間、倍のステッチ数を要する。クラフツマンシップの育成がカギとなるが、最新設備完備の工場では熟練の職人の育成に加え、労働環境も保全されている。

 

 

 

 ブラックラインとゴールドラインがあるが、最上級のゴールドラインのシャツは裾全体が手巻き仕上げ。エルメスのスカーフを思い浮かべるとわかりやすい。柔らかさを出すために裾を手縫いとしている繊細なスカーフに比べ、こちらは非常に高い密度で縫製されているので、何度でも洗濯機で洗うことができる。

 

「一枚のシャツが完成するまで熟練の職人の手で34時間もかかるというと皆さん驚かれます。同時に、必要な分だけ生産することで無駄を省き、サステナブルなコンセプトを貫いています」

 

 今年6月には第2工場も完成。世界中の顧客に向けEコマースも開始している。ベストセラーのトラベラージャケットはパッドやキャンバス、裏地はなく、生地を二重に折りたたむことで全体のドレープを出している。軽く、フィット感に優れていることが人気の理由だ。

 

「現在、私たちは200人以上の従業員を抱えていますが、最初の頃の製造工程を全く変えていません。ハンドメイドの服を作ることはそれほど難しいことではなく、インドだけでなく世界のどこでもできる。しかし細部を手作業で正確に、かつ均一な品質で作ることは非常に難しく、熟練の職人の技と厳格な品質管理が必要です。価格と品質のバランスには誇りを持っています。ディテールにこだわる人なら誰でも100ハンズのシャツを持ちたいと思うでしょう」

 

 

アムステルダムの投資会社を経て、100ハンズを設立したアクシャット(左)と協同経営者の妻バーバラ(右)。