September 2022

THE RAKISH SHOE FILE 004

アレン・シー氏:美しいシェイプを求めれば自ずとビスポークに辿り着く

30代にして豊富なビスポーク経験をもつアレン・シー氏は、靴選びのセンスも素晴らしい。
クラシックの真髄を知る人ならではのセレクションだ。
text hiromitsu kosone
photography edward chan

Alan See「The Armoury」共同設立者
1983年生まれ。カナダ、イギリス、アメリカ、中国など幾多の国を渡り、2010年にマーク・チョー氏らとアーモリーを設立。ドレスウェアにおいてはクラシックなビスポークを愛好する一方、ナイジェル ケーボンなど骨太なカジュアル服も嗜む。イージーゴーイングな人柄にもファン多数。

 アーモリー設立から11年あまりの歳月が流れたが、アレン・シー氏の装いはいい意味で大きく変わらない。それは氏の中に確立されたスタイルがあるからであり、ものごとが目まぐるしく移り変わる今の時代において、そのブレない姿勢は実に眩しく感じられる。

「靴単体で見たときに際立つ美しさを放ち、それでいて服と合わせたときには主張しすぎず、装いを引き立ててくれる靴が好きですね。さらにいえば靴と服を合わせたとき、それぞれに込められた職人的美学が調和し、共鳴するような雰囲気が大好きなのです。そういった観点からいうと、やはりビスポーク靴には特別な価値があります。また、シェイプの面においてもビスポークの美しさは格別です。例えばこのスピーゴラは、ラウンドトウとチゼルトウを融合させたシェイプ。ロングノーズではないのにスラリとシャープに見える絶妙な顔つきです。ただ細長いだけの靴はごまんとありますが、こういう靴は現在、ビスポークでしか手に入らないと思います。また、イル ミーチョで仕立てたこのドレスブーツのように趣味性を追求できるのもビスポークならではの醍醐味でしょう。一方、コロナ禍を経て私もカジュアルを着る機会がかなり増えました。その際はクラシックかつリラックスした靴を履くわけですが、かねてから愛用しているのがオールデン。ラフな服は上品さを、ドレッシーな服には抜け感を加えてくれるところが気に入っています。ビスポーク靴のように、擦りキズひとつまで気にしなくていいですしね」

 エレガンスの核心を突くこういった言葉が、30代の若さで自然に出てくるのだから凄い。クラシックの継承者として今後も目が離せない逸材だ。

ニッポンの仕立て靴がお気に入り左:「10年以上前に仕立てたダービーシューズは、極めて汎用性の高い一足です。グレインレザーを選んだこともあって、リヴェラーノのスーツからジーンズにまでマッチしてくれますね」
上:「深谷秀隆さんのアトリエを訪れたとき、彼がヴィクトリア時代のブーツに強く影響されていることを知って“これはオーダーせねば”と思いました。シューツリーまで非常に美しく、まるでアートピースのようです」
下:「スエードゆえキズも目立たず、手入れも楽。気を遣わなくていいので、つい手が伸びます」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 46

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