APPETITE FOR CONSTRUCTION: LE CORBUSIER
建築への欲望:ル・コルビュジエ
May 2025

建築家ヴァルター・グロピウス(左)、コルビュジエとその妻。パリにて(1930年)。
賛否両論の作品たち ル・コルビュジエが関わったプロジェクトは、常にそれまでの常識を覆す挑戦的なものばかりだった。「サヴォア邸」は、パリ郊外ポワシーに建てられたモダニズムの傑作で、ル・ルビュジエとピエール・ジャンヌレによって設計され、1931年に完成した。当初、依頼主であるサヴォア家の週末や休暇用の田舎の隠れ家として建設された。
この建物は、1923年に雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』で発表されたル・コルビュジエの「近代建築の5原則」を完全に体現している。具体的には、ピロティ(1階部分の壁をなくし、吹き放ちにすること)、自由な平面、自由な立面(ファサード)、水平横長の窓、屋上庭園である。
コンクリート造りのシンプルな外観は、多くの人々から賞賛を受けた。そのデザインは、建築における無駄な装飾を排し、純粋な機能美を追求したものだと評価された。しかし一方で、批判も少なくなかった。
特に住人からは、「湿気が多い」、「大きな窓ガラスによる著しい熱損失」といった実用性に関する不満が指摘された。「ポルト・モリトー」は、1933年に完成した集合住宅で、パリ16区の南西約12マイルに位置する。ここはル・コルビュジエ自身が30年以上暮らした場所でもあり、都市生活者に太陽光を最大限取り入れるという彼のビジョンが形になった建物である。
しかし、この建物も多くの批判を招いた。冷たい印象を与え、親しみに欠けると評されることもあれば、「自閉症スペクトラム障害の人物が設計したかのようだ」という酷評さえあった。
「救世軍難民院」は、1933年にパリで建てられた。困窮者を保護する施設であり、その慈善的な意図を反映した美しい建築と評価された。しかし、『ヴァニティ・フェア』誌の批評家は、「南向きのガラスファサードが、空調設備のないドミトリーをアヴァンギャルドなオーブンに変えた」と皮肉を込めて批判している。

「サヴォア邸」(1931年)。フランス、パリ郊外のポワシーにある住宅。

「レスプリ・ヌーヴォー館」。1925年のパリ万博のために建てられたパヴィリオン。

「ユニテ・ダビタシオン」(1952年)。フランス、マルセイユの集合住宅。18階建て、全337戸で、約1,600人が暮らすことができる。
「ツェントロソユーズ」は1928年から1936年にかけてモスクワに建てられた政府庁舎で、ロシア構成主義の建築家アレクサンドル・ヴェスニンによって「モスクワで1世紀以上ぶりに建てられた最高の建物」と絶賛された。
一方で、バウハウスの二代目学長、建築家のハンネス・マイヤーは、「ガラスとコンクリートの狂乱」と痛烈に批判した。「クルチェット邸」は1949年から1953年にかけてアルゼンチンのラプラタに建てられ、賛否両論を巻き起こした。周囲の建物との「バランスの取れた対話」を称賛する声がある一方で、周囲の景観との調和を欠いていると非難する意見も多い。
「キャピトル・コンプレックス」は、ル・コルビュジエのユートピア的な都市計画を具現化した数少ない例で、1953年から1961年にかけてインドのパンジャブ州チャンディガールで建設された。
このプロジェクトは、議事堂、合同庁舎、高等裁判所などの建物から構成される。ネルー首相はこれを「過去に縛られないインドの自由の象徴」と賛美したが、一方でカリフォルニアの建築家ヴィナヤック・バルネは、「800×1200メートルの内向的な区画、広大な距離感、分離されたゾーニングは、気候や文化への感受性を欠いた近視眼的な都市計画の典型だ」と批判した。それでもこのプロジェクトは2016年、ユネスコの世界遺産に登録された。
ル・コルビュジエの最高傑作と呼ばれる「ユニテ・ダビタシオン」は1952年にフランスのマルセイユに建設された。18階建てで、337戸の住居を持つこの集合住宅には、商店や郵便局、屋上庭園などの施設も併設されている。『アーキテクチュラル・レビュー』誌は1964年、このプロジェクトを「空間的、構造的、経済的、そしておそらく社会学的に驚くべき複合体」と評価した。一方で、アメリカの社会学者ルイス・マムフォードは「駐車場に建てられた建物」と揶揄した。
このように、ル・コルビュジエの作品はすべてが賛否を呼び起こす「マーマイト的」存在である(マーマイトは英国の発酵食品。好き嫌いが極端に分かれる)。その論争自体が、彼の創造性の証とも言えるだろう。

厚みのあるアセテート生地を使用した立体的な構造のラウンドフレーム。3ポイントリベットなど随所にコルビュジエの美学が感じられる。¥51,700 Lesca Lunetier / Globe Specs
レスカ・ルネティエの「ラ・コルブス」コルビュジエがかけていた眼鏡はフランスのべっ甲眼鏡専門店「メゾン・ボネ」のものがオリジナルだ。デザイン画はコルビュジエ自身が描き、細かな寸法や色も指定されていた。そんな彼のデザインをボネからの許諾を得て、製作しているのがレスカ・ルネティエの「ラ・コルブス」だ。コルビュジエの丸眼鏡の既製版である。フランス・ジュラ地方の工房で、古の道具と技術を用いて手作りされている。
本記事は2025年1月27日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 62