Interview: MONTBLANC ARTISTIC DIRECTOR - MARCO TOMASETTA -

東洋の美意識は、モンブランに何をもたらしたか

April 2026

“書くこと”と“旅”をテーマとするモンブランの次の旅は東洋へ。マルコ・トマセッタ氏が、老舗ブランドと東洋の邂逅を描く。
text miki tanaka

マルコ・トマセッタ/Marco Tomasettaミラノのヨーロッパ・デザイン学院を卒業後、プラダ、クロエ、ルイ・ヴィトンをはじめ、数々の有名ラグジュアリーブランドでレザーグッズとアクセサリーのデザインに携わる。ジバンシィのメンズ・ウィメンズレザーグッズのクリエイティブ・ディレクターを経て、2021年にモンブランのアーティスティック ディレクターに就任。

 1906年に創立し、120年の歴史を誇るラグジュアリーブランド、モンブラン。万年筆というオリジンから、“書くこと”にこだわり、それが人生を変える“旅”となるというのを信念としてきた。そんなモンブランの今シーズンの旅先は東洋だ。

「今回は日本、中国、韓国などの伝統や文化がインスピレーション源になっています。昨年から展開しているウェス・アンダーソン監督のショートムービー『Letʼs write』に登場する鉄道での古き良き時代の旅の世界観を、私の好きなアジアの国々に広げました。実際にそれぞれの国に赴いて、文化やアート、風習などをリサーチし、できるだけ多くの要素をコレクションに盛り込みました。例えば、日本の折り紙からインスパイアされた、折り目を生かしたデザインのバッグや、中国からのイメージの、鯉や今年の干支・馬のモチーフなどが登場します」

 こう語るのは、アーティスティックディレクターのマルコ・トマセッタ氏。1月のミラノメンズファッションウィーク中に開催されたプレゼンテーションでは、会場の真ん中に東洋の各国の言葉で書かれたさまざまなメッセージの短冊をつけた「Tree of Writing」という大きな木のインスタレーションが設置され、木の下ではカリグラファーが手書きでメッセージを創作していた。会場の入り口では、金継ぎなどの東洋の伝統工芸のデモンストレーションも行われた。

ミラノメンズファッションウィーク中の展示。折り紙のように折り目を生かしたデザインの新作バッグを展示。

「日本の美しい文字と紙にこだわる文化に感銘を受けました」

「日本からはそのエレガンスや伝統に影響を受けました。ケアの行き届いた神社や庭もさることながら、お店での包装ひとつとっても丁寧に仕上げてくれますよね(笑)。街の喧騒の中にさえも優雅さがあります。そして日本には美しい文字があって、“書く”という文化が定着しています。私はどの国を訪れても、まずその国の紙の文化や書くことについての伝統をリサーチしますが、日本はどこよりも紙への興味がある国だとも感じました。日本にはビル一棟丸ごと文房具や紙製品が売られているお店があって、いつもお客さんでいっぱいですよね。今の若者は文字を書かないとよく言われますが、そんなことはないと私は常々思っています。テクノロジーと“書く”という行為は、相反するものではありませんから」

ミラノメンズファッションウィーク中の展示。右:会場には「Tree of Writing」という大きな木を設置。日本語、韓国語、中国語で書かれたさまざまなメッセージが短冊のようにぶら下がる。木の下には「マイスターシュテュック」からの連想でトマセッタ氏がデザインしたモンブランデスクを展示。「読者の皆さんにぜひおすすめ」とか。左:秋冬コレクションはエボニー、レッドオーク、ハニーなどの温かみのある色揃え。

「歴史を積み重ねる老舗ブランドの物づくりが成長の糧になっています」

 ゆえに、モンブランのバッグには必ずペンを入れるスペースがあり、ペンを主役にするアクセサリーも多い。昔よりペンを持つ人が減り、このようなディテールは今や必ずしも必要ではなくなったが、それが意外と人々を魅了するのだという。そして機能的な部分を必ず重視するモンブランの歴史を積み重ねるモノづくりに触れることは、自分自身の成長にもつながっていると感じているそうだ。

「次のコレクションは、どこへの旅になるかはまだわかりません。でも、“書くこと”というキーワードを通して、こうやってさまざまな国にアプローチして、その文化を知ったり変化を発見したりできるのは本当に楽しいことですね」

入口部分では金継ぎの展示や実演もなされた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 69