トッキーのラグジュアリー日記
Tocky's Luxury Escapes

THE RAKE 日本版 編集部員トッキーこと時田が出合った国内外のホテル、ダイニング、バーについて紹介します。

Antiqvvm x Florilège x SODDEN FROG

【レポート】知れば知るほど好きになる、美食とワインに溢れたポルトガルを体験した日

Friday, October 17th, 2025

ポルトガルといえば、豊かな海の幸とワイン、そして温かな人々。そんな同国の食文化を一夜で堪能できるイベントが東京で開催されました。星付きシェフによる料理と創造性あふれるペアリングが、知られざるポルトガルの魅力を存分に伝えてくれました。

 

 

 

 

 過日、ポルトガル政府観光局によるイベントに参加する機会がありました。私自身、ポルトガルには一度も伺ったことがありませんが、旅好きやワイン好きの友人たちが口を揃えて「とてもよかった!」と話していたので、以前から強い関心を抱いていました。

 

 この日は、ポルトのミシュラン二つ星レストラン「Antiqvvm(アントイヴム)」をはじめ、ポルトガル各地に合計10の星を獲得した4店舗のレストランを手掛けるポルトガル人シェフ、ヴィトール・マトス氏が来日。東京のミシュラン二つ星レストラン「Florilège(フロリレージュ)」の川手 寛康シェフとのコラボレーションイベントでした。そしてさらにその「フロリレージュ」が手がける新しいバー「SODDEN FROG(”びしょぬれのカエル”の意。「浴びるほどお酒を飲んでほしい」という想いが込められています)」の髙田真之助氏によるカクテルとモクテルとのペアリングまで楽しめるという大変贅沢な会。始まる前からゲストたちの期待は膨らむばかりです。

 

 

 

 

 地中海的な洗練されたスタイルを軸に、伝統と革新を融合したガストロノミーでポルトガル料理界を牽引しているマトス氏の料理は、海鮮を使ったメニューが特徴です。この日も肉は一切使用されず、魚介や野菜をふんだんに使った料理が揃いました。川手シェフによる料理は、名前からは想像もつかないような斬新なものばかり。カクテルも、ポルトガルワインに日本の素材を組み合わせた創造性あふれるペアリングでした。ここからは、特に印象に残ったハイライトをいくつかご紹介します。

 

 最初に登場したのは、川手シェフによる一品です。ほうじ茶の葉の中から焼き芋に見立ててつくられたお芋をゲストが掘り出すという、遊び心ある演出でスタートしました。皮は香ばしく、ほうじ茶のふんわりとした香りを纏い、中は甘く柔らかいお芋。秋の訪れを感じさせる一皿でした。

 

 

 

 

 続いては、マトス氏による赤エビの一皿です。日本産の赤エビにキャビアとアイスプラント、コリアンダー、そしてエビの頭でとったソースとカレーソースを合わせた斬新な組み合わせ。エビの甘みとスパイス、ハーブが絶妙なバランスで調和していました。ペアリングには、フレッシュで柑橘感がギュッと凝縮した「ソアリュイロ アルヴァリーニョ、モンサン・メルガッソ」。料理との相性も抜群でした。また、酸味のしっかりした「ロウレイロ」というポルトガルワインと、和梨やクローブを合わせたオリジナルカクテルは、爽やかさのなかに優しい甘みが広がる印象的なペアリングでした。

 

 

ゲストの目の前で次から次へと華麗に料理を仕上げていくマトス氏。

 

 

 

 そして、いまも強く記憶に残っているのが、マトス氏による小さなアペタイザー3種です。どれもポルトガルの「缶詰」文化を表現したもので、それぞれの主役が際立っていました。フィーチャーされていた食材は、イワシ、本マグロ、ムール貝の3種。まず、ポルトガルといえばの「イワシ」は、生イワシをタルタルに仕上げた一皿。上にはパクチーが添えられていました。次に、本マグロは低温で調理し、缶詰のクリームの出汁とトマト、きゅうりのゼリーを合わせ、ぷちっとした食感も楽しめる仕立てでした。ムール貝は、生のものと缶詰の食べ比べ。食感や旨味の違いから、缶詰によって旨味が凝縮されることを実感しました。

 

 

 

 

 次は川手シェフによる、驚きの一皿です。この料理も、今でもそのおいしさがはっきりと蘇ってくるくらいに記憶に残っていて、こうして書いているいまもまた食べたいと思っています。見た目からはどういった味なのか見当もつかないこちらは、白菜と鯵が主役の一皿で、中には松の実や大葉、海苔も入っていて、爽やかな香りが印象的でした。周りを包むのは、北海道のフロマージュブラン。上にまぶされているのは、タラで作ったふわっふわの自家製のデンブ。ほぼ透明のスープは、発酵した時に出た白菜のジュースと重湯、そしてオリーブオイルを少し垂らして。発酵している香りも楽しめる、実に奥深い一皿でした。

 

 

 

 

 そしてもうひとつマトスシェフによる料理もご紹介したいと思います。カロリーノ米を使ったこちらは、一番上にはシトロンのムース、下にリゾットが敷かれており、アサリの身、海洋プランクトン、シロトネリ、そしてスズキのソテーが乗っています。ポルトガルでもスズキはよく食べられる魚のひとつだそうですが、日本のスズキと違い身が柔らかく、シェフ曰く新鮮な日本のスズキの扱い方は逆にいつものようにいかず火入れが難しかったとのこと。リゾットの上にはアサリのクリームも添えられており、海の香りも楽しめる一皿でした。

 

 

 

 

 こちらに合わされたドリンクもとても創造性に溢れており、まずモクテルは、まるでスープのような一杯で、ピッツァ・マリナーラをイメージした、トマトをペーストにして凍らせて一晩かけて溶かすことで自家製ジュースを製造。それをベースにオレガノやガーリックを合わせた、ピザを食べているかのようなモクテルでした。また、カクテルには、蕪とココナッツ、白ワイン「アメアル・ロウレイロ」を合わせた、こちらも見た目はスープのような一杯。仕上げにオレンジオイルを垂らすことで、蕪とココナッツのやさしい甘さに、爽やかさがプラスされ、料理との相性も抜群でした。

 

 一皿一皿が語っていたのは、ポルトガルの海、風、そして食の記憶。シェフたちの技と遊び心が、まだ見ぬ国への想像を広げてくれました。次は、現地でこの味を確かめたい──そう強く思わされた一日でした。

 

 

イベント終了時にはみんなで乾杯。シェフ、ヴィトール・マトス氏はワイン造りも手掛けており、こちらは「ダルヴァ・ポート・トーニー20年」。シェフこだわりのブレンドでした。自身でラベルデザインも監修するほどアートにも造詣が深い多彩なシェフなのです。

 

 

当日振る舞われたワインのラインナップ。ポルトガルワインとして広く知られている赤ワインやポートワインだけでなく、果実味たっぷりの白ワインまで多彩に揃っていました。

 

 

 

Visit Portugal

www.visitportugal.com

 

筆者 トッキー(時田幸奈)/  Yukina Tokida

THE RAKE日本版の副編集長兼ウェブディレクター。国内外のラグジュアリーホテル、ダイニング、バーを中心に取材し、誌面およびオンラインで記事の執筆・編集を手がける。「トッキー」は、編集長からのニックネーム。