色とパターン合わせの魔術師
小川カズさん
Saturday, May 25th, 2019
小川カズさん
ファッションディレクター&フォトグラファー
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa,kaz ogawa
私の昔からの親友、小川カズちゃんです。
いろいろなブランド、ショップのディレクターやタレントのスタイリングをしています。ハワイに別荘を持っていて、1年のうち5、6回は訪れて、ゴルフばかりしているようです。まったく羨ましいヤツです。
今回の撮影は麻布にある彼の自宅で行いました。何度も雑誌の表紙を飾ったとてもカッコいい家です。ここは、まだこの家が建つ前から知っています。当時、彼と私は毎晩のように飲み歩いていたんですが、突然酔ったカズちゃんが
「そうだ、今度俺は土地を買ったから、その土地を見に行こう!」といったのです。こちらもベロベロだったので、「よし、行こう!」となり、ふたりで真夜中、何もない土地の上で、呆然としていたのを覚えています。確か、
「結構大きいね・・」と言ったような(笑)
家の完成パーティにも招かれて、またしても私は酔っ払ってしまい、新品の絨毯の上にシャンパンをこぼして、エラく怒られたこともありました。
さて今回久しぶりにその家にいったら、外観がアイビーに覆われ、いい具合に古びています。(もう10年くらいはたったのかなぁ)と思い、カズちゃんに「ここって、建ててから何年経ったんだっけ?」と聞いたら、「築19年」と言われて愕然としました。(ちょっと前は、よく一緒に飲んでいたなぁ)とつい昨日のことのように思っていましたが、あれからもう20年も経っていたのですね。“十年ひと昔”といいますが、50歳を超えると、“ひと昔”は20年になります。
インタビュー中も、洋服の素材表示を確認するために、ふたり揃って老眼鏡を取り出す始末。われわれも歳をとったなぁ(笑)
しかし、その着こなしの巧みさは健在です。相変わらず色とパターンの組み合わせが抜群ですね。
「いつも色気があるスタイリングをしたいと思っている。自分が若かった頃は、クリエイターは個性を出さなければ勝負にならなかった。そこで当時流行っていたモノトーンではなく、イタリア風の明るい色を取り入れることにしたんだ。いつの間にか、それが自分流のスタイリングになった」
コットン×リネンのジャケットはタリアトーレ。
「堺(正章)さんのスタイリングで、よく使っているブランドだよ」
中に着たハイゲージ・ニットは、ヴァンドリ。骨董通りに店を構えるニット・ブランドで、カズちゃんが一部外注で商品プロデュースを手がけているそう。
コットン・パンツはPT01。
時計はランゲ&ゾーネの名作“ランゲ1”で、ストラップはオリジナルで作ったもの。
チェーン・ブレスレットは、ミスター・フェニーチェがやっているブランド、ヴォランテ。このブレスは往年の名レーサーにしてファッション・アイコン、故・福澤幸雄さんへのオマージュとして製作されたもの。レース中に事故に遭った際、すぐにわかるよう、裏に血液型が刻んであります。完全オーダーメイドで、チャーム部分にオリジナルの意匠を入れることができます。カズちゃんの場合は、愛犬グラ。
バングルはすべてハワイで買ったもの。“コアウッド”というハワイでは神聖とされる木で出来ています。コアウッドを専門に扱う、マーティン&マッカーサーという店に行くことが多いそう。
「ハワイには、相変わらずよく行っているんだけど、昔みたいに移住したいとは思わなくなった。日本人コミュニティが狭くて、なんだかムラ社会なんだよな・・」
青山生まれの青山育ち、生粋の都会っ子だからねぇ。
ベルジャン・シューズは、英国のボードイン アンド ランジ。いま皆んな履いてますね。
パターン・オン・パターンはカズちゃんの代名詞ですが(今回はクルマまで)、彼には、こういうのをうまく着こなす天武の才があります。それは父方の血かもしれません。
「ウチの父はとてもお洒落な人で、スーツはいつも英国屋でオーダーしていた。ぜんぶ石原裕次郎さんみたいな、太いストライプばかりでね。それをうまく着こなして、毎晩銀座に通っていたよ。50歳を過ぎても、顔にデキモノが出来たら、自ら化粧して隠すような人だった」
さて文中にも出てきましたが、カズちゃんが有名になったのは、あの芸能界一ともいわれる洒落者、堺正章さんのスタイリストになったからです。
もう30年以上、堺さんのスタイリングを担当しています。
「堺さんは本当にお洒落にウルサイ人で、それまでのスタイリストは全部ダメ出しをされていた。最初にお会いしたときには『ソックスを10足持って来い』と言われた。ソックスを見れば、その人のセンスがわかるというのが持論だったんだ」
そんな人を30年間も担当し続けるのは、さぞや大変と思いきや・・
「30年間で、言われたのはたったひとつだけ。『蜂がとまるポイントを作れ』ということ。それが色であり、柄であったと思っている。『こういうの着たい、ああゆうの着たい』と言われたことは一度もないよ。堺さんの凄いところは、あれだけのポジションを築いているにもかかわらず、自分を変えていけるところだね。新しい提案をすべて受け入れてくれるんだ。だからいつも新鮮に見える」
それは堺さんが、スタイリスト小川カズを心から信頼しているからでしょう。人づてに聞いた話だと、巨匠はカズちゃんを評して、
「アイツの色の感覚だけはスゴイ」と一目置いていたそう。
さて、そんなカズちゃんがいま溺愛しているのが、愛犬“グラ”ちゃんです。実は以前にも“グリ”ちゃんという犬を飼っていたのですが、7年前に亡くなってしまったのです。その時の落ち込みようは、私もよく知っています。
「グリが死んでがっかりしていたとき、霊感のある人から『2年後に生まれ変わりに会えるから安心しなさい』と言われたんだ。そして2年後、たまたまグリを買ったペットショップのそばに、別のミニチュア・シュナウザーの専門店があるのを見つけた。一見さんお断りだったんだけど、ふらりと入って事情を話したら、なんとそこの店主はグリのブリーダーの息子さんだった。そして新しい愛犬グラに出会えたんだ。同時に生まれた10匹のうち、ソルト&ペッパーの毛並みはグラだけ。顔も体つきもそっくり。しかもグリの誕生日が3月14日で、グラの誕生日は3月15日。家に連れて帰ったら、しまってあったグリのオモチャを取り出して勝手に遊び始めた。これはどう考えても、生まれ変わりだろう?」
そう語るカズちゃんは、本当に嬉しそうでした。
そうそう、この人には意外と優しくて繊細なところがあるんですよ。
撮影が終わって、カメラマンが帰ったあと、インタビューになって、チェーン・ブレスレットと愛犬の話になって、私が「ああ、ブレスと犬の写真も撮っておけばよかったなぁ」と言ったら、自分で撮影して、すぐに送ってきてくれました。そういうところが、カズちゃんらしいなぁ。
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