From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

浅草橋の片隅に潜む、洒落者の隠れ家
齋藤秀明さん 

Tuesday, December 25th, 2018

齋藤秀明さん 

 齋藤服飾研究所 パーソナルテーラー&スタイリスト

 text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa

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浅草橋の線路脇にひっそりと佇む、築50年の古いビル。エレベーターはなく、あるのは狭い階段のみ。その段々を、むき出しの配管や剝げた壁の塗装を横目に5階まで上ると、表札もなく“5”とだけ書かれた怪しげなドアが・・・

 

こんなドラマ『探偵物語』に出て来そうなロケーションに位置するのが、今回ご登場の齋藤秀明さんのアトリエです。今年3月にオープンしたばかり。扉を開けると、実にセンスのいい空間が広がっています。

「ここはもともと外国人が居住していたアパートだったのです。その名残りで、キッチンやシャワーもあります。お客さんに、自分の家に遊びに来てもらうような感覚で来店して欲しかった。だからこの場所に店を開きました。英国には、よくジェントルマンズ・クラブなどが入っているビルの上に“屋根裏テーラー”とでもいうべき店があります。看板も出さず、お得意様だけを相手にやっている。そんな雰囲気が好きだったのです」

浅草橋というのは問屋街で、生地卸はたくさんあるのですが、小売りは珍しい。

「生地が好きで、昔からこの街にはよく出入りしていました。鍵を預けてある生地屋さんがあるので、いい生地が入ると、勝手に置いて行ってくれるんです。下町はいいですね(笑)。周りにはとんかつや天ぷら、ちゃんこなど、美味しい店もたくさんあります。青山や銀座とは大違いです」

そう、齋藤さんはもともと、グローブ トロッターやハケット ロンドンなど、いまをときめく英国ブランドに長らく携わっておられました。

「影響を受けたのは、ジェレミー・ハケットさんです。ブリティッシュ独特の華やかな感じが好きですね」

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スーツは、前職はケットロンドンのMade to Measure。

「フォックス ブラザーズのフランネルを使いました。こういった強めのストライプを、もっと日本の方に着て頂きたいと思っています」

ピークトラペル、ひとつボタン、ターンナップ・カフなど、ブリティッシュ・ライクな“濃いめ”のディテールが堪りません。

 

タイは、ターンブル&アッサー。

トーマス・メイソンの生地を使ったシャツは、HIDEAKI SAITO。

 

ちなみにこのヒデアキ・サイトウというブランド名ですが、ヒデアキ・サトウ(=ペコラ佐藤)と一字違い。

「本名だから、仕方ないんですが・・(笑)」

 

タイバーは、亡くなった親友テーラーから生前譲りうけたもの。

「この店舗を見つけてくれたのも彼でした。オープンにあたっていろいろと便宜をはかってもらいました。しかし、残念なことに今年の夏、交通事故で亡くなってしまったのです。この場所にこだわったのは、彼の遺志を継ごうという思いもあるのです」

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時計はオメガ シーマスター。お父上から譲り受けたものだとか。

「私の父は、旅行会社JTBに務めていました。ロス、ソウル、バルセロナと、オリンピックがあるたびに、長く海外へ赴任していました。今とは違って目立ったライバルもおらず、花形職業だったのだと思います。そして帰国する度に、お土産を買って来てくれました。LLビーンのトート、リーバイス501、そしてグローブトロッターなどなど・・。私のファッションのルーツは、間違いなく父にあります」

現在では、齋藤さんご自身にも、3歳と8歳になる息子さんがおりますが、父親譲りで、バーブァーやインバーアラン、グローバーオール、そしてグローブ トロッターなど、さまざまなモノを買い与えているとか。私が、

「それにしても3歳でトロッターのトランク持っているって、スゴイですよね(笑)」と言うと、苦笑されることしきりでした。

 

マリッジ&ピンキーリングは芦屋の女性デザイナー、安達真弓さんが主宰するCURIO(キュリオ)。かつて務めていた吉祥寺ラウンダバウト時代からのお付き合いだそうです。

 

 シューズは、泣く子も黙る、ジョージ・クレバリー。

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さて驚いた事に齋藤さんは、大学は獣医学部に学ばれ、卒業後は外資系製薬会社に就職され、MR(医薬情報担当)として、抗ガン剤を研究されていたそうです。

「30歳になるまで、全然違う分野の仕事をしていました。それでも大好きなファッションが忘れられなかったのです。当時は白衣のウエストを、自ら削っていたりしていましたね。服飾の世界に移ってからは、反対に、グローブ トロッターの修理に、注射器や手術用の針を使ったこともあります(笑)」

 

浅草橋の片隅に潜む“隠れ家”に通うのは、ちょっとした秘密を持つようで、お洒落にばかりに、かまけていられない人にこそ、おすすめしたい道楽ですね。

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