シャツ職人になるために生まれてきた
山神正則さん
Tuesday, April 25th, 2017
山神正則さん
シャツ職人
text kentaro matsuo photography natsuko okada
ストラスブルゴが擁する、ハウス テイラーズ ラボにて腕をふるうシャツ職人、山神正則さんのご登場です。いつお会いしても、ビシッとしたスーツ姿でキメている、素晴らしいファッショニスタです。
「私は一年中ほとんど毎日スリーピースを着ています。たまの休日、家で過ごす日も、タイを締めて朝食を食べています。これは祖父の影響です。彼はどこへ行くにも身だしなみを整えており、それがとてもカッコよく見えました」
スリーピースは、ストラスブルゴのオリジナルパターンオーダー。生地はコットンソラーロです。
「コットンや麻は、よく着る素材です。最初は硬かったのですが、着込んでいくうちに、ほどよい柔らかさになってきました。こういうものは、丸めて壁にぶつけたり、クシャクシャにして放っておいたりしたほうがいいのです」
シャツはもちろん、山神シャツ。生地はイタリアのボンファンティです。
「カルロリーバから独立した人が興したメーカーです。その生地は、古い織機を使ってゆっくりと織られていて、フワッと柔らかい。こことスイスのアルモが、ウチの素材の軸となっています」
薄いベージュの生成りカラーも、山神シャツの代名詞となりつつあります。
タイは10年ほど前のピエール・カルダン。
「昔のデザイナーズのタイを探して、着用しています。サンローランが多いですね。芯材がペラっとしていて、生地もしんなりしており、好みに合うのです」
注目してほしいのは、ノットです。
「タイを結ぶ時、普通は大剣を小剣に巻つけますよね。しかし私の場合は逆で、小剣を大剣に巻きつけるのです。当然巻き終わりは小剣が上に来てしまうので、最後に上下逆にヒネリます」
結び目が小さな独特のノットは、通称“山神ノット”と呼ばれています。もしその名前が定着したら、ウィンザー公以来でしょう。
チーフはムンガイ。
メガネは金子眼鏡店。
時計はセイコーのクォーツ。
「これは祖父からもらったものです。時計はいつもカフの上からして、カフスボタンでずり落ちないように留めています。こうすれば汗をかいても、時計やストラップが痛みません」
9金とホワイトゴールドのブレスは、HUM(ハム)。日本のブランドです。
「クロムハーツとティファニーのちょうど真ん中、の感じでしょうか」
コンビのシューズはエドワード・グリーンのマルヴァーンです。
「今日のコーディネイトのテーマは“お花見”です。桜の幹を意識した色合わせ。私は花見が大好きなんです。ただ酒が飲みたいだけですけれど(笑)」
実はこの撮影は、東京の開花宣言の翌々日に行われました。
日本には、世界的に名の通ったテーラーや靴工房がたくさんありますが、カミチェリアは、まだまだ数が少ないのが実情です。もともとデザイナーであった山神さんにとって、シャツ職人への転身は冒険でした。
「私がシャツ職人になると宣言したら、まわりからは止められました。なぜなら、日本ではシャツは消耗品とされていて、お金をかける人などいないと思われていたからです」
しかしシャツ作りへの思いは断ちがたく、33歳にて山神シャツを立ち上げます。
「多くの方に、喜んでいただきました。体型に合わないシャツをガマンして着ていた人や、海外でオーダーするしかなかった人が、顧客となってくれました」
山神さんのシャツは、20か所以上の採寸をはじめ、緻密な作り込みで知られますが、いちばんこだわっているのは、ボタンつけだとか。
「実は幼いときから、ボタンつけが大好きだったのです。母親の裁縫箱のなかにあるさまざまなボタンを、ひたすら生地に縫いつけていました」
小学校低学年のときから、ボタンつけが暇つぶしだったというから驚きです。
「ボタンつけは、シャツに命を吹き込むことだと思っています。アスリートと同じで、1日休むとカンを取り戻すために3日かかる。だから出張に赴くときも必ずシャツとボタンを持っていきます。今まで何万個というボタンを縫いつけてきましたが、ぜんぜん苦になりません。むしろ、もう楽しくて楽しくて」
まさに、シャツ職人になるために生まれてきたようなお方です。
ストラスブルゴのフラッグシップショップ3階に位置する、オーダーメイドの殿堂。スーツ、ジャケット、シャツ、パンツと、すべての紳士アイテムがオーダーできる。まるで劇場のような設えで、職人たちが作業する様を眺めることができる。アポイント制なので、来店前に必ず電話連絡を。
東京都港区南青山3-18-1 3F
Tel.03-3470-6367
営業時間/平日12:00〜20:00
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