スパゲティ・ボンゴレのような服を目指す
直井茂明さん
Saturday, September 10th, 2016
直井茂明さん
シャロン クリエイティブ・ディレクター、サルトリア
text kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
テーラーの直井茂明さんのご登場です。私が最近ちょくちょく顔を出している骨董通りの“シャロン”にて、注文服を作っています。彼のキャリアのスタートは、私のお気に入りの(腐れ縁の?)テーラー、ペコラ銀座でした。専門学校を卒業してからすぐに入社し、服作りの面白さはペコラ佐藤から習ったといいます。直井さん曰く、
「佐藤さんは、大変厳しい人でした。彼がいるとピリピリして、現場が引き締まるようでした」ということですが、本当かね?
その後、手縫いに力を入れている縫製工場で、水落卓宏さんに師事したり、大手アパレルメーカーなどを経て、伊勢丹で自らのブランドを展開し、シャロンのオープンにも参加しました。
私と同世代のペコラ佐藤が1967年生まれなのに対して、直井さんは81年生まれ。一回り以上も下の人間が、もはや「巨匠」と呼ばれつつあるのですから、われわれも年を取るわけです(笑)
ジャケットは、もちろん自分で作ったもの。生地は、シルク×ウールのカノニコです。
「初めて生地を見た時に、このありそうでない小豆色に、一目惚れしました」
直井さんの服の特徴は、袖や肩のいせ込み量の多さ。キレイに盛り上がった肩山は、ひと目でハンドメイドの仕立て服だとわかる意匠です。
コットンパンツも自ら仕立てたもの。
「スーツとして作りましたが、こういう生地だと、上下バラバラでも着れますよね」
シャツはジ・イングレーゼ、タイはジュスト・ビスポーク。ベルトはティベリオ・フェレッティ。どれもシャロンで扱っているものです。
時計はゼニス。
「初めて買った、ちゃんとした時計です。シンプルなところが気に入りました」
ローマ数字の文字盤が美しいですね。
シューズは、丸山貴之さんによるパターンオーダー。
「一足目でしたが、まったくストレスがなく快適です。シボのあるこの革が気に入ったのです」
直井さんは、かつて人生の進路について、大いに迷ったことがあったといいます。
「幼い頃から、ファッションは大好きだったのですが、それと同じくらい料理をすることが好きでした。家の台所には、小学校の頃から入っていました。だから洋服の道に進むか、料理の道に進むか、真剣に悩んだことがありました」
悩み抜いた結果、洋服を本業とし、料理は趣味とすることにしたそうです。
「私の実家は茨城にあったのですが、目の前が大きな池だったのです。そこで釣りを憶えました。釣って来た魚を捌くようになって、だんだんと料理に夢中になって行きました。今でも魚を丸ごと買って、身はサシミにして、骨でダシを取って吸い物を作る、といったことをやっています」
なるほど、これは本格派のようです。そこで「一番得意な料理は?」と聞いてみると、
「それはスパゲティ・ボンゴレです。イタリアン、特にパスタ類は得意で、クリームたっぷりのソースなども作るのですが、実はボンゴレのようなシンプルなものほど、難しいし奥が深いのです」と。
「それでは、直井さんの作るスーツを料理に例えると、スパゲティ・ボンゴレですか?」と訪ねると、
「そうですね。シンプルかつ奥深くありたいと思います」と。
まさにクラシック・スタイルの正鵠を射たお答えですね。
実は今回、私も一着作ってもらったのですが、その「お味」のほうは、追々別の場にてリポートしたいと思います。