ミシュランの星に輝くファッショニスタ
細川貴志さん
Sunday, January 10th, 2016
細川貴志さん
江戸蕎麦 ほそ川 店主
interview kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
服飾評論家の池田哲也さんから電話があり、以下のような会話をしました。
「松尾さん、お洒落な人を探していると言っていましたよね。ものすごくお洒落な人がいるんです」
「どのようなご職業の方ですか?」
「そば屋さんです」
「え?」
「先日のミシュランのパーティで、その方と一緒だったのですが、とにかく飲食関係の人とは思えないほどお洒落なんです。ぜひ取材したください!」
というわけで、『江戸蕎麦 ほそ川』の店主、細川貴志さんのご登場です。お生まれは葛飾区・四つ木ですが、初めての店は埼玉にて開業し、12年前に東京へ戻って来ました。ここは泣く子も黙るミシュラン・ガイド東京にて、そば店として8年連続で星を取り続けている名店なのです。今では日本中の人が、ほそ川のそばを食べに、両国を訪れます。
「峰竜太さんはよくいらっしゃるね。抜群にお洒落なので、ついつい洋服ばかりを見てしまう。タモリさんは、せいろとかけと両方頼む。粋な人だと思ったね」
私は失礼ながら、そば屋のご主人というのは、なんとなく作務衣などを着ているようなイメージを持っていたのですが、細川さんにお会いして、考え方が180度変わりました。
カシミアウールのスーツはブルネロ クチネリ。東京プリンスにて行なわれた、今年のミシュランの受賞パーティに着ていったものと同じだそうです。
「クチネリはよく買うね。デザインと着心地の良さが好きなんだよ」
どちらかというとジャケット+パンツのスタイルが多いという細川さんは、テーラードはアットリーニ、カジュアルはロロ・ピアーナ、ジーンズ系はPTがお好きだそう。
シャツはコスタンティーノ。タイはペトロニウス。どちらも池田さんからのプレゼントだそうです(ちなみに池田さんは、やたらと人に洋服をプレゼントする癖があります。私も以前古着のジャケットやネクタイを頂きました)。
ラペルに差したトンボのピンは、「以前、神楽坂のどこかで」買ったもの。
「男にとって、トンボって縁起がいいものなんだよ。よく浴衣の柄なんかにもなっているでしょ。上昇のシンボルだからね」
なるほど、このへんの感覚は、江戸っ子ならではなのでしょう。
時計はパテック フィリップのカラトラバ。96ではないところに、こだわりを感じます。ちなみにカジュアル用には、ヴァシュロン コンスタンタンのオーバーシーズ クロノグラフをご愛用。
ジョドファー・ブーツは、山口千尋さんのギルド・オブ・クラフツにてオーダーしたもの。他に編み上げのブーツもお持ちだとか。
「テレビで山口さんのことを見てさ、いいなと思って、すぐに浅草の店へ買いに行ったんだよ。編み上げのほうは、ルシアン・ペラフィネのブルゾンにジーンズといった格好に合わせているかな」
うーむ、そのチャレンジ精神、お見事です!
「子供の頃にマンボズボンが流行ってな。小学生のくせに、ズボンの先っちょを、細く直して履いていたよ。布団の下にズボンを入れて、寝押ししたりしてな」
細川さんは、昔から洋服が大好きだったようで、今でも唯一の趣味道楽だとか。
「『いい洋服を買いたいなぁ』と思って、一生懸命仕事をしてきた。ひとついいものを買うと、それに合わせて、また他のいいものが欲しくなる。この世界はキリがないからな。でもそれが、いい仕事のコヤシになるんだよ」
細川さんがおっしゃると、おもわず「深イイ!」とレバーを倒したくなりますね。さすがミシュランの星は、伊達ではないようです!