REVERSE PSYCHOLOGY

2023年注目の「レトログラード」

August 2023

260年以上の歴史を誇る世界最古のウォッチメゾンが予言するように、2023年はレトログラードの年になるのだろうか。ヴァシュロン・コンスタンタンによるレトログラード機構を搭載した新作2本をレビューする。

 

 

by justin hast

 

 

 

 

 ヴァシュロン・コンスタンタンは、Watches & Wonders Genevaで毎年ユニークな打ち出しで話題となる。今年のテーマは「Less’ential(レセンシャル)」。これは「Less」と「Essential」を組み合わせた造語で、バウハウスムーブメントの原則“Less is more(少ないほどより豊かである)”に基づく。メゾンの時計製造において「シンプルなデザインを追求することで、より美しく、豊かなものが生まれる」という考えを意味している。

 

 ところで私は今年、ジュネーブのヴァシュロン・コンスタンタン本社を訪ねる機会に恵まれた。出迎えてくれたのは、スタイル&ヘリテージディレクターのクリスチャン・セルモニ氏。彼は誇らしげに、2023年は「レトログラードの年になる」と宣言した。

 

 

 

 

「レトログラード」とは表示機構のひとつ。扇状の表示の弧に沿って針が始点から終点へと進み、終点に到達すると瞬時に始点に戻って再び進み始めるという表示方法である。耐久性と正確な作動が要求されるため、極めて高度な技術力と精密な加工を必要とする。またダイヤルにも絶妙なレイアウト配置が求められるが、それだけに美しいデザイン要素のひとつとして視覚的にも楽しめる機構なのだ。

 

 多くの時計は針が軸上を回転することで時間を表示するが、一部の時計師たちは別の表示方法を開発することで自由な創造性を発揮した。17世紀後半、一部の懐中時計はレトログラード表示を採用していた。その後、この機構は一旦廃れたが、20世紀後半の機械式腕時計に搭載され、再び脚光を浴びるようになった。

 

 ヴァシュロン・コンスタンタンのその長い歴史の中にもレトログラード機構がある。ダイヤルの一部にオープンワークを用いたのは1918年で、天文カレンダーを搭載した懐中時計。レトログラードを装備した最初の腕時計は、1940年の「ドン・パンチョ」であった。そして同様のレトログラード・デイトを装備した腕時計が登場したのはそれから60年も後のこと。2000年のリファレンス.47245で復活を遂げたのである。

 

 興味深いことに、ここ10年ほどレトログラードが積極的に採用されることはなかったが、今年を境に流れが大きく変わるかもしれない。ヴァシュロン ・コンスタンタンは、レトログラードを搭載した新作を複数発表した。その中から2本を紹介したい。

 

 

 まずはオープンフェイスの「トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイス」。アヴァンギャルドな美学と技術的なメカニズムを兼ね備えた時計だ。ピンクゴールド製の41mmのドレスウォッチで、オープンフェイスのダイヤルにトゥールビヨンとレトログラードによる日付表示を組み合わせた自社製自動巻きキャリバー2162 R31を搭載。すべてのエッジにおいて手仕事による気品溢れる仕上げが施された、まさしく力作である。

 

 

トラディショナル・トゥールビヨン・レトログラード・デイト・オープンフェイス

自動巻き、18KPGケース、41mm ¥25,520,000(予価)Vacheron Constantin

 

 

 

 もうひとつは、「パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト」。42.5mmのプラチナケースの重厚感と、サーモンカラーの組み合わせが素晴らしい。ダイヤルには、サンバースト仕上げが施され、曜日と日付のふたつのレトログラード表示は、伝統に従いブルースティール針が使用されている。搭載するムーブメントは、毎時28,800振動の自社製自動巻きキャリバー2460 R31R7/3。ブリッジの角はポリッシュ仕上げを施し、部品の側面を完璧に平滑にするストレートグレイン仕上げも手作業で行われ、ビスも丹念に磨かれている。メインプレートの両側にはペルラージュ模様、ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ装飾が施されている。

 

 

パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト

ブティック限定モデル、2023年限定生産モデル

自動巻き、Ptケース、42.5mm ¥8,888,000(予価)Vacheron Constantin

 

 

 

 ヴァシュロン・コンスタンタンが生み出すすべてのタイムピースは、伝統とエレガンスの融合であり、技術的・芸術的ノウハウと現代的で適切なデザインコードを備えている。時計界最古のこのメゾンは、2023年、後続のためにレトログラードという道を切り拓いた。

 

 

ヴァシュロン・コンスタンタン

TEL.0120-63-1755

www.vacheron-constantin.com/jp