富山の「満寿泉」は世界へ羽ばたく
桝田隆一郎さん
Friday, December 25th, 2015
桝田隆一郎さん
株式会社桝田酒造店 代表取締役
interview kentaro matsuo photography masaharu hatta
special thanks to shigeru takizawa ginza
一日のカロリーのうち、その7割をアルコールで摂取する私は、本当にたくさんのお酒を飲んできましたが、今まで飲んだ日本酒のうち、一番美味しいと思ったのが、富山の満寿泉という銘柄です。これは以前私のブログにもご登場頂いた、滝沢滋さんに頂いた1本で、そのあまりのうまさに仰天し、以来どこへ行っても「マスイズミ、マスイズミ・・」と呪文のように唱えていました。
それから数年して、とあるパーティで、満寿泉の蔵元である桝田酒造の社長を紹介されたのですが、ここで再び、びっくり。というのも彼は、日本人離れした長身(184cm!)を、ビスポークのスーツでびしっと包んだ、素晴らしいファッショニスタだったからです(失礼ながら、私のなかのイメージでは、蔵元の社長というのは、なんとなくハッピを着ているような人だと思っていました)。それが今回ご紹介する桝田隆一郎さんです。
開口一番、
「私は、全然お洒落に興味はないんですよ」と仰っていましたが、よくよく聞いて見ると、やはり只者ではありません。
スーツはタキザワ シゲルのオーダーメイド。滝沢さんとは、地元富山の東岩瀬で出会い、親交が続いているそうです。
「長らくオーダーメイドは止めていたのですが、滝沢さんの服を知って、気が変わりました。細身で、ラインがキレイで、体型がカッコよく見えるのです。それに着ていると気分が明るくなりますね。“服の力”を感じることが出来るのです」
シャツは「ジャーミン・ストリートをブラブラしている時に買った」PINK(トーマス ピンク)です。
「英国には仕事でよく行くし、大好きな国なので、よく買い物をしてしまいます。ロンドンには、値段は安いけれど、クオリティのいいシャツがたくさんありますから」
ネクタイも同じジャーミンの名店、ヒルディッチ&キー。
チーフもやはり「ジャーミンのどこかで」買ったもの。
カフスはニューボンド・ストリートの老舗アスプレイにて。
そしてシューズは、チャーチです。これはいわゆる“オールド・チャーチ”ですね。
「お洒落と思われるのが嫌、服装に気を遣っていると思われるのが嫌なんです」と繰り返し仰っていましたが、これではそれは“無理”というものでしょう。
しかし、桝田さんが英国と、英国流アンダーステートメントを好むのは、理由があります。
「若い頃、英国に留学していたことがあります。ケンブリッジのクレアカレッジに在籍し、さまざまなことを学びました。例えば、英国の男性は女性と一緒に食事をするとき、時折ナイフとフォークを置くのです。必ず女性のペースに合わせて、自分たちだけが先に食べ終えてしまうということは、絶対にありません。また女性が席を立つとき、そして席を訪れるときは、必ず自分たちも立って送迎するのです」
そんな英国仕込みのジェントルマンが、いま一番力を入れているのが、世界における日本酒の振興と、故郷富山の町おこしです。
「岩瀬の街のリノベーションに取り組んでいます。古い廻船問屋を改造して、富山の工芸品を紹介する店を作ったり。富山には、素晴らしい工芸品がたくさんあります。ハーゲンダッツのスプーンを作っている“タカタレノムス”とか、曲がる金属を使ったテーブルウエアの“能作”とか。あと必要なのは、上手なプロデュースなのです」
グローバル・スタンダードで物事を考えつつ、ローカルを大切にする。桝田さんは、まさにそんな生き方を実践している、生粋の“カントリー・ジェントルマン”でありました。