日本一ネクタイを売る男の完璧なノット
仙田剛さん
Sunday, October 25th, 2015
仙田剛さん
株式会社アイネックス代表取締役
interview kentaro matsuo photography tatsuya ozawa
ネクタイ業界で売り上げナンバーワンを誇るアイネックスの社長、仙田剛さんです。今では、ほとんどのセレクトショップで、同社のタイが売られています。
人気の秘密は、クオリティの高さはもちろん、トータルでファッションを捉え、その中の一アイテムとしてタイを提案しているところでしょう。要するに、ここのタイは“カッコいい”のです。そして、そんなタイをプロデュースする社長も、卓越したファッショニスタです。
スーツは、フィレンツェのリベラーノ&リベラーノ。アイネックスは同社のタイのエージェントをやっていました。使われているのは、英国のヴィンテージ生地です。
「アントニオ(リベラーノの店主)の人間性が好きなのです。あまりイタリア臭くなくて、オールデンのような靴にも合わせられるところも魅力です。私のような丸い体型にも合うのです(笑)。ええ、スーツ、ジャケットはリベラーノが多いですね」
と相当な惚れ込みようです。すでにリベラーノのス・ミズーラは、スーツとジャケットを合わせて、25着~30着ほど所有しているそうです。
シャツはナポリのアヴィーノ。ウチのユーコー・フジタも「世界一のシャツ」と言って憚らないブランドです。
「リベラーノのシャツをここが作っていたのが、きっかけです。カルロリーバの生地を使って作っています。私も今までいろいろなシャツを着てきましたが、ここのものは着心地が抜群にいいのです」
タイはロバート・フレイザー。アイネックスのオリジナル・ブランドです。
「フェルモ・フォサッティという生地屋が織ったガムツイルに、手染めでプリントを施したものです。作りは3つ巻きとなっています。こういうヴィンテージ感のあるプリントは、現在のトレンドなのです」と、さすがにネクタイのことになると、話が止まらないご様子です。
「ネクタイは毎日締めます。普段はジャケット・スタイルが多く、チノパンやジーンズも履きますが、ネクタイだけは必ず締めるのです」
お洒落な人はキレイなノットを作るために、何回もタイを結び直したりしますが、さすがに仙田さんのノットは完璧です。
トレードマークの黒ぶちメガネは、オリバーピープルズ。
「手で削ったものです」というセリフにやられて、購入を決意したそうです。
ポケットチーフは、カルロリーバ。アイネックスが企画したものです。もちろんカルロリーバ製の生地=高密度のコットンリネンが使われており、エッジのハンドロールがとてもキレイ。一見なんでもない商品ですが、見れば見るほど存在感があり、私自身はこのチーフをとても気に入ってしまいました。
時計はセイコーのクレドール。50歳の誕生日を記念して購入したものだそうです。クォーツですが、非常に薄型でドレス・スタイルにぴったりとハマります。
シューズはジョンロブ。この他に、オールデンやジャコメッティもお好きだとか。レザーものは、最近ではクロコなどのエキゾチック系に惹かれているそうです。
「今日のコーディネイトは、まずヴィンテージ調のタイを選んで、それに合わせてスーツを選びました。いつも、最初にタイをチョイスし、それから他のアイテムを合わせていきます。タイとは、その日の気分を一発で変えてくれるもの。きゅっと、うまくタイが結べると『今日はイケる』という気になり、テンションが上がります」
現在アイネックスは、東京・恵比寿にありますが、実は同社は、もともと“伊藤洋品”という金沢の会社で、ネクタイの他、加賀友禅などを扱っていたそうです。
「初代の社長が亡くなったとき、その墓前で『いつかきっと日本一のタイ屋にしてみせます』と誓ったのです。それからは夢中で働きました。しかしタイを作るのが本当に好きなので、ツラいと思ったことはありません。まるでプラモデルを与えられた子供のように、すべてが楽しかったのです」
そして気がつくと、本当に売上げ日本一を達成していたというわけです。
仙田さんは、その和やかな見た目に似合わず、熱い情熱を秘めた、辣腕社長なのです。