YARD-O-LED: REWRITING THE FUTURE

未来を書き記す
“ヤード オ レッド”

July 2020

バーミンガムのジュエリー街の中心部にあるヤード オ レッドは、過去を読み解くことで、独自の未来を描き続けている。

 

by ryan thompson 

 

 

 

 バーミンガムのジュエリー街は、意外と知られていない。ミッドランズには、貴金属細工と高級宝飾品の製造の、長い豊かな歴史があるが、この街自体がちょっとした隠れた宝石のようなものなのだ。

 

 この地区には、700以上の宝石店や小売店があるが、裏通りや路地を散策すると、住民がどこかへ避難してしまったのではないかと思ってしまうほど静かだ。

 

 古い戦場のような赤レンガの建物に足を踏み入れると、ブーンという近代的な機械の低い音と、ガチャン、ガチャンといったアンティークな工作機の音が聞こえくる。ここが私が、ディレクターのエマ・フィールドと一緒に訪れている、スペンサー・ストリートのヤード オ レッドの工房だ。

 

 

YARD-O-LED

VICEORY STANDARD VICTORIAN FOUNTAIN PEN

$ 1,050

YARD-O-LED

VICEROY STANDARD BARLEY PENCIL

$ 325

 

 

 エマが指摘するように、ヤード オ レッドは、1934 年から純銀製の筆記用具を手作りするという、ニッチなビジネスを展開している小さな会社だ。しかしその歴史は、 19〜20 世紀の境頃まで遡ることができ、サンプソン・モーダンという人物に行き着く。彼はジョン・ブラマーという名の鍵屋の弟子であった。彼は英国の有名な化学者・物理学者、マイケル・ファラデーの友人だったという。

 

 モーダンが“書くこと”に秀でていたかどうかは不明だが、少なくとも彼が、作家の道具を作るのに適していたことは間違いない。

 

 1822年12月20日、モーダンは、今日世界中で使用されているシャープペンシルの前身となる“エバーポインテッド”回転式ペンの特許を取得した。

 

 デザインの真の飛躍は、その78年後、ルートヴィヒ・ブレンナーによってもたらされた。ブレンナーは第一次世界大戦前にドイツのプフォルツハイムからロンドンに渡り、ロンドンの宝飾品貿易の中心地であるハトン・ガーデン近くのチャーターハウス・ストリートでビジネスを展開していた。

 

 

 特許を取った彼のペンは、3インチの芯を12本保持できるようになっており、これが1ヤードの芯の長さになり、ヤード オ レッドの名前の由来となった。

 

 第二次世界大戦中、工作機械が軍によって徴用され、軍需品の製造に使用されていた時期を除けば、ヤードオ レッドは一貫して、世界で最も優れた筆記具を作り続けてきた。この謙虚な会社は、さまざまな意味で、技術の潮流に逆らってきた。

 

 皮肉なことに、ヤード オ レッドは 1988 年に ファイロファックス・グループに買収された。ファイロファックスを覚えている年齢の方であれば、突然そうでなくなるまで、ファイロファックスが、いかに日常的なビジネスに欠かせないものであったかを覚えているはずだ。

 

 しかし、ヤード オ レッド には、ファイロファックス・グループにはない貴重なものがあった。ここには、銀細工職人のユニークな“家族”がいたのだ。彼らは、一人の生涯だけでなく、何世代にもわたって、手から手へと受け継がれる道具を作ることに専念していた。

 

 

 

 

 ヤード オ レッドのペンがこれほど特別なものになるのは、シルバーの“チェイサー”(香箱に“チェイス”の模様を作る職人)が、それぞれ独自の模様を採用し、3000回以上も槌を叩いているからだ。

 

 “チェイシング”とは、金属を削り出す彫刻とは対照的に、金属にパンチを打ち込むことだ。私自身もやってみたが、一見簡単そうに見えても、うまくやるのは非常に難しい。すべて目視で行われるため、同じパターンがふたつとないのだ。

 

 テクノロジーが猛烈なスピードで進歩する一方で、小さくても時間を細かく刻んでいる業界が、まだ存在することを知ると心が和む。

 

 ヤード オ レッドで使われている、バレルの一部に垂直線を彫刻する回転機は、1857 年にバーミンガムで製造されたものであり、今も昔と変わらず、正確に稼働している。ここにいる職人に話を聞くと、彼らの一人一人がこの仕事に大きな誇りを持っており、完成品の精巧さについて胸を張っている。

 

 

 

 

 ヤード オ レッドの最も権威ある道具であり、最もよく知られているのは、ヴァイスロイ シリーズだ。実質的で完璧なバランスを感じさせるこのペンは、多くの手を経て、最終的にあなたの手元に届く。

 

 しかし、ヤード オ レッドの“レガシー”は、あなたが最後の言葉を書き終えた後も、多くの手に受け継がれていくことだろう。ヤード オ レッドのペンは、時代の流れとともに、新たな歴史を書き記していく存在なのだ。

 

 

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