Interview - WILHELM SCHMID / A.LANGE & SÖHNE CEO

ドイツ古豪を成長させる手腕

May 2020

 次世代の時計職人を養成することが、当社にとっての最重要事項です。さまざまな部門を抱える企業において、変化を受け入れることは容易なことではありません。職人が変化を好まないのは当然です。ムーブメントの何かを変えれば、時計がまったく動かなくなるという事態もあり得るわけですから。ですが、変容を遂げるためにはリスクを受け入れていかなくてはなりません。

 

 当社はマーケティングおよび広報の部門をグラスヒュッテからベルリンへ移しました。グラスヒュッテは時計作りに適している反面、クリエイティブな人材にとっては最適な環境でないと気づいたからです。グラスヒュッテは穏やかで静かです。注意を乱すものは何もありません。しかし、デジタルネイティブにはベルリンのほうが適している。ふたつの地を融合させることはできないと私は気づきました。

 

 

 

上左:1994年のデビュー以来、ブランドの象徴的モデルとして君臨する「ランゲ1」。ケースバックからは、自社製キャリバーL121.1を見ることができる/上右:優美な佇まいを持ちつつ、視認性にも優れた唯一無二のデザイン。ツインバレルにより72時間のパワーリザーブを誇る。手巻き、18KPGケース、38.5mm。¥3,620,000 A. Lange & SöhneA.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080)/下:0時を境に日付が瞬時に進む瞬転式アウトサイズデイト表示を備える。

 

 

 時計は当社の中心です。非常に複雑な仕上げを施し、手作業で作り上げたピース。1本の時計を生み出すために注ぎ込まれる仕事の量は、一定水準の価格として表れます。そのため、エントリー価格は「サクソニア」の約1万5,000ユーロ(日本価格は174万円)となっています。それより価格を引き下げるには、近道を容認しなければなりませんが、当社にその選択肢はありません。利益を出さないという方法もいいとは思えません。当社の生産力は非常に限られているからです。収益が出ないレベルまで生産力を調整すべき理由があるでしょうか。

 

 ひとつの国で同じ人々が生産した製品からは、文化のアイデンティティが見て取れると思います。スイス製の時計からはフランス的要素が見て取れます。フランス製の時計と、スイス製の時計のドイツ的な部分との違いも見られます。

 

「ランゲ1」は、ドイツブランドである私たちが支持するものを余すところなく具現化しています。当社が発表した革新的な時計のひとつであり、今でも現代的です。非常にユーザーフレンドリーな時計でもあります。視認性の高さは極めて重要な特徴です。率直に申し上げると、あまりにも複雑なせいで時間の確認にスマートフォンを使う羽目になるような時計も数多く出回っていますから。

 

 

本記事は2020年3月25日発売号にて掲載されたものです。
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