Interview - WILHELM SCHMID / A.LANGE & SÖHNE CEO
ドイツ古豪を成長させる手腕
May 2020
ドイツ屈指の高級時計メーカー、A.ランゲ&ゾーネでCEOを務めるヴィルヘルム・シュミット氏は
「近道すべからず」を金科玉条とする。同社のタイムピースが一流で誉れ高く、
人々に求められる理由は多々あるが、そのひとつが最高水準に対する彼のこだわりである。
text tom chamberlin
Wilhelm Schmid/ヴィルヘルム・シュミット
1963年、ドイツ・ケルン生まれ。アーヘン大学で経営学を学んだ後、オイルメーカーであるBPカストロールを経てBMWに8年間在籍。2007年から2010年までの約3年間は、BMWの南アフリカにおけるセールス&マーケティング責任者として手腕を発揮し、本社ボードメンバーにも名を連ねた。2011年1月に現職であるA.ランゲ&ゾーネCEOに就任。
ドイツは実に魅力的な場所だ。美しい田園地帯、極上の音楽、素敵な言語、そして田園と都市が織りなす鮮やかな文化の対比—。私は今回、このコントラストがドイツブランドのスタイルにも滲み出ることに気がついた。
洗練された人々が所有する、洗練されたクラシックカーを、洗練された場所に集めてその美しさを競うというコンクール・オブ・エレガンス。開催地の中には、例えばコモ湖のように、コンセプトと地理的特徴が完璧に調和している場所もある。コモ湖以外で穏やかで美しい場といえば、ロンドンのハンプトンコート宮殿くらいだろう。
この宮殿はかつて王家の静養先だった。喧騒に満ちた帝国の中心地ロンドンの目と鼻の先にありながら、きれいな空気を提供するスポットだったのだ。私が今回この宮殿で穏やかな時間をともに過ごしたのが、コンクール・オブ・エレガンスでメインスポンサーを務めるドイツの名門、A.ランゲ&ゾーネだ。
ザクセン州ドレスデンの郊外にある山あいの町、グラスヒュッテ。1845年、フェルディナント・アドルフ・ランゲはこの地で時計製造業をスタートさせた。これにより、当時貧困に苦しんでいた町が活気を取り戻し、ドイツ機械式時計産業の活性化につながった。
ハンプトンコート宮殿の敷地内に設けられた展示“ハウス・オブ・ランゲ”は、同社が生み出してきた不朽の名作への賛歌だった。同社は、ドイツらしい慎みをもって名品を誕生させてきたからこそ、一流で誉れ高く、人々に求められるのだ。
コンクール・オブ・エレガンスの当日、集まった男性たちの装いは非常に際立っていた。各々が独自の装いによってライフスタイルや人柄を表現するその光景は、あらゆるスタイルのあるべき姿だった。
中でも完成された装いをしていたのが、A.ランゲ&ゾーネのCEOであるヴィルヘルム・シュミット氏だ。彼はローデン素材と思われるダブルのジャケットとベージュのトラウザーズを合わせたシンプルなスタイルで、ゲストたちの目を引いていた。また、大のクラシックカー愛好家でもある彼の愛車、1958年式ACエース ブリストルも展示車両のひとつだった。
シュミット氏は2011年から同社の舵を取ってきたが、それまでずっと時計一筋だったわけではなく、オイルメーカーおよび自動車産業での仕事を経ている。そのため彼は、多くのラグジュアリーブランドにはないタイプの経験を仕事に役立てている。THE RAKEは、このハンプトンコート宮殿の庭園で、シュミット氏の姿勢を深く理解する機会を得た。