THE RAKE DISPATCH: SAN FRANCISCO
未来を映す古の街、サンフランシスコ
February 2023
text kentaro matsuo
©サンフランシスコ観光協会
アメリカの歌手、スコット・マッケンジーの大ヒット曲『花のサンフランシスコ』(1967年)は、サンフランシスコから全米に広がるヒッピームーブメントをテーマにした歌だが、これを某サイトでは以下のように対訳していた。
All across the nation
アメリカという国中から
Such a strange vibration
こんなにも不思議な共鳴が
People in motion
人々がやってくる
There’s a whole generation
すべての世代が一堂に会し
With a new explanation
新たな弁明を共有する
なるほど、時代が変わった今となっては、サンフランシスコに人々が集まり、新しい価値観を生んでいると解釈したほうがしっくり来る。かつてのヒッピー時代から、この街は常に時代の最先端を走ってきたのだから。
例えば、自動運転の話。サンフランシスコでは夜に限られるが、すでにグーグル傘下のWaymo(ウェイモ)による完全無人のクルマ(車種はなぜかジャガー)が街中を走り回っている。現地在住のコーディネイター氏は「本当に不気味です」と肩をすくめていた。
また、トイレの話。サンフランシスコではジェンダーレスが進んだ結果、公共の場所に新しく設けられるトイレには男女の別がない。自分が使った個室を女性に譲ったり、女性に交じって手を洗ったりするのは本当に気が引けた。鏡すらなく、トイレはLGBTQ入り混じって用を足すだけの場所なのである。
さまざまなジャンルで、文化の最前線を模索しているのがサンフランシスコなのだ。ノスタルジックなケーブルカーやフィッシャーマンズワーフなど古の面影を残すこの街には、われわれの未来の姿が映っている。そんな街のRAKISHな注目スポットを訪れてみよう。
WHERE TO GO
San Francisco International Airport(サンフランシスコ国際空港)
全米初のゲイ市会議員
ハーヴェイ・ミルクを追悼
©サンフランシスコ観光協会
サンフランシスコ国際空港(SFO)は毎年5,500万人の旅行者が利用する大型ハブ空港で、83以上の国内都市、47以上の海外都市を結んでいる。しかし空港といっても、サンフランシスコのそれは一味違う。ターミナルがレインボーカラーに輝いているのだ(もうこれだけで、あなたがどういう街に降り立ったのかがわかろうというものだ)。
©サンフランシスコ観光協会
総工費45億ドル、10年間かけて改装されたターミナル1は正式名称を「ハーヴェイ・ミルク・ターミナル1」という。ハーヴェイ・ミルクはゲイの政治家で、1977年、サンフランシスコの市会議員に当選し、全米初のカミングアウトした公職者となった。
©サンフランシスコ観光協会
しかし1978年11月27日、保守系議員のダン・ホワイトにより、ジョージ・マスコーニ市長とともに市庁舎内で射殺されてしまう。この事件の裁判で、ホワイトはわずか7年の禁固刑を宣告され、この評決に怒った同性愛者らが、サンフランシスコで広範囲にわたる暴動を起こした。これが現在に続くレインボー・ムーブメントの発端とされる。
空港内にあるハーヴェイ・ミルクの展示を見ると、LGBTQたちがいかに血みどろの戦いを経て、現在の地位を築いてきたかがわかるのだ。
San Francisco International Airport
San Francisco Museum of Modern Art(サンフランシスコ近代美術館)
米国最大級の現代アート美術館
GAP創業者のコレクションを収蔵
サンフランシスコ近代美術館(SF MOMA)は、市民に現代美術に親しむ場を提供している。1935年に西海岸初の近現代美術専門の美術館として設立され、2016年に大リニューアルを敢行して再オープンした。新しい建物は有名事務所スネヘッタが設計し、既存のマリオ・ボッタ設計の建物とシームレスに統合されている。環境性能に優れた建物として、LEEDゴールドにも認定されている。
ギャラリースペースは15,000㎡以上の広さを誇る。1階には無料のパブリックギャラリーと、ミシュランの3つ星を獲得したシェフ、コリー・リーによるレストランIn Situ(イン・サイチュ)がある。現在では毎年100万人以上の来館者を迎えている。18歳以下の入場はすべて無料である。
アンディ・ウォーホルによる「Triple Elvis」(1963年)フィッシャー・コレクションより。
サンフランシスコ近代美術館の根幹のひとつはドリス&ドナルド・フィッシャー・コレクションである。ゲルハルト・リヒター、リチャード・セラ、アンディー・ウォーホルなどの作品を中心に、185人のアーティストによる1,100点以上の作品から成っている。現代アートの世界最大のコレクションのひとつで、美術館の全10フロア中3フロア以上を占めている。
ドイツ人フォトグラファーデュオ、ベルント&ヒラ・ベッヒャーの企画展。フィッシャー・コレクションからの出品も多数。
ドリス&ドナルド・フィッシャー夫妻はファッション・ブランドGAPの創業者である。GAPの1号店は1969年にサンフランシスコにてオープンした。夫妻は自らの目で集めた作品を、故郷の人々に開放したのだ。サンフランシスコ近代美術館はフィッシャー・アート・ファウンデーションとパートナーシップを結び、少なくとも100年間はこのコレクションを世界中からの来館者と共有するという。
San Francisco Museum of Modern Art(SF MOMA)
Central Subway(セントラル・サブウェイ)
40年ぶりに開通した
街を南北に走る地下鉄
2000億円の費用をかけ、2023年1月7日に開通したばかりのセントラル・サブウェイは街を南北に走り、サウスオブマーケット(SOMA)、ユニオンスクエア、チャイナタウン、フォーサーズストリートの4つの新駅(3つは地下)に乗り入れる。サンフランシスコで新しい地下鉄が開通するのは40年ぶりだという。最も賑やかで活気のあるエリアの間をより速く、スムーズに移動することができるようになった。
Central Subway
www.sfmta.com/projects/central-subway-project
Institute of Contemporary Art San Francisco(サンフランシスコ現代美術館)
シリコンバレーの寄付で誕生した
コレクションを持たない美術館
©Impart Photography
2022年10月オープンした新しいコンセプトの現代美術館。再開発が進み注目の集まる「ドッグパッチ」エリアに位置している。入場料は無料で、自らのコレクションを持たないことを特徴とする。運営はシリコンバレーを中心とするベンチャー・キャピタリストの寄付金によって行われ、その中にはインスタグラムの共同設立者、マイク・クリーガーなどがいる。
コロラド出身のアーティスト、ジェフリー・ギブソンの展覧会「THIS BURNING WORLD」が公開されていた。©Impart Photography
館内は11,000平方フィートのギャラリースペースを持ち、巨大な倉庫のような空間である。そこをウォールで区切り、アーティストやキュレーターによる企画展が行われている。現代アートの公開実験の場であり、常に「建設中」の美術館であり続けることを目指すという。
Institute of Contemporary Art San Francisco(ICASF)
Presidio Tunnel Tops(プレシディオ・トンネル・トップス)
かつての軍施設が
平和で広々とした公園に
©Courtesy of the Presidio Trust
プレシディオは、サンフランシスコ半島北端にある公園で、以前は米軍基地だった場所だ。プレシディオとは「要塞」の意味で、もともとは18世紀にスペインがサンフランシスコ湾の砦とするために建設した。1820年にメキシコに渡り、1848年にアメリカがこれを奪った。長らくアメリカ陸軍の軍事施設だったが、1994年に国立公園局に移管された。
2023年7月17日、プレシディオ・パークウェイの高速道路のトンネルの上に新しい国立公園がオープンした。プレシディオ・トンネル・トップスである。ゴールデンゲートをバックにした広々とした敷地内に、ピクニックサイト、芝生や集会スペース、子供向けのネイチャー・プレイ・スペースなどが設えられている。無料で毎日オープンしており、アート展示やイベントなども行われ、市民の新たな憩いの場となっている。
©Courtesy of the Presidio Trust
まずはプレシディオ・ビジター・センターに足を向け、公園についてのさまざまなインフォメーションを得てみよう。お腹が空いたら、フードトラックやテントで、いろいろな国の料理を食べることができる。
Muni 30とMuni 43のバスや無料のPresidio Go Shuttle(プレシディオ・ゴー・シャトル)など、公共交通機関で気軽にアクセスできるのも魅力だ。プレシディオ・トンネル・トップスは、家族や友人とのんびりとした一日を過ごすのに最適な場所である。
Presidio Tunnel Tops
WHERE TO EAT
Angler SF(アングラーSF)
サンフランシスコ湾を望みつつ
薪で焼いたシーフードに舌鼓
©Bonjwing Lee
サンフランシスコのベイエリア、エンバーカデロに位置する海の幸を中心としたレストラン。シェフ、ジョシュア・スケーンズは、近隣のレストランSaison(セゾン)にてミシュランの3つ星を獲得したことがある(現在は2つ星)。
©Bonjwing Lee
メニューは、地元の食材をふんだんに使用したもの。その日の材料からインスピレーションを得て、自然の風味を最大限に引き出した料理を提供する。漁師、猟師、採集者、牧場主、農家などと協力し、地元産の最高品質の材料を入手しているという。調理は薪の直火で行われる。スケーンズ独自の方法論で設計された暖炉が使われている。
©Bonjwing Lee
料理は概して非常にシンプル。新鮮な生牡蠣、魚のタルタルや、焼いた魚にレモンを添えたものなど、素材の旨味を第一に考え、余計な味付けやソースは加えない。日本人なら醤油が欲しくなるかもしれない。
セラーも充実しており、ナパやソノマはもちろん、フランス、ブルゴーニュの幅広いセレクションを提供している。併設するバーでは、少量生産や数十年前に作られた特別な蒸留酒まで、厳選されたスピリッツが用意されている。
Angler SF
Sorella(ソレッラ)
パスタが美味しい!
客を飽きさせないイタリアン
©Hardy Wilson
ソレッラ(イタリア語で「姉妹」)は、サンフランシスコのミシュラン2つ星レストランAcquerello(アクエレッロ)のチームが手がけるカジュアルなレストラン&バーだ。2021年12月、コロナ禍中にオープンしたにもかかわらず、好評を持って迎えられている。料理長のデニス・セントオンジと彼女の夫にしてアクエレッロのシェフ、セス・タリアンスキーが協力して仕事にあたっている。
©Hardy Wilson
提供しているのは、伝統に裏打ちされながらも現代的なスタイルのイタリア料理。主役はパスタだが、他にもさまざまなメニューが用意されている。シーフード系が特に充実しており、ヒラマサのカルパッチョ(英語表記でもHIRAMASA)、イカのグリル、ウニの入った卵黄のトンナレッリ(パスタ)、ウサギのラグー入りトマト・フジッリなどいずれも美味だった。
「卵の黄身のトンナレッリ」。材料はフォートブラッグ産ウニ、サーモンキャビア(イクラ)、グリーン・オニオン、ピンクペッパーなど。
イタリアワインの充実したセレクションに加え、食後にはイタリア産3種のアマーロのテイスティングなどもあり、お客を飽きさせない。イタリアン好きならずとも、こたえられない店である。
Sorella
Hilda and Jesse(ヒルダ&ジェシー)
週末の朝が楽しみになる
女性ふたりのレストラン
©Nicole Morrison
サンフランシスコのノースビーチ地区にあるレストラン。ブランチ、ディナー営業の他、イベントスペースとしても使われる。2022年、ミシュランのビブグルマンを獲得した。ポップな1950年代風のインテリアは他店とは一線を画すものだ。
月・木・金が17:30〜21:00のディナー営業、土・日が10:00〜15:00のブランチ営業、火・水はお休みという少々変わったシフトである。
ブランチのコース「シェフのアドベンチャーメニュー」のうちの一皿「アボカドのトースト」。スイートポテトの天ぷら、サワークリーム、オニオン、ホースラディッシュ、ディル。©Timofei Osipenko
共同設立者はふたりの女性である。料理担当でシェフを務めるのはクリスチアーナ・コンプトン。サウス・カロライナ、チャールストンの有名レストランFIGのシェフ、マイク・ラタの下で働いた後、サンフランシスコに移り住み数々の有名店を渡り歩いた。
オペレーションディレクターはレイチェル・シルコックス。パリ在住後、ニューヨークのフランス料理学院で学位を取得。 カリフォルニアに移住し、一流シェフ、レストラン経営者たちと仕事をする機会に恵まれた。
ふたりとも料理界で20年近いキャリアを持ち、満を持してこの店をオープンさせた。
名物の「境界線のないパンケーキ」。バターミルク・パンケーキに、グリルしたクランベリー&メープルのソースをかけまわしてある。©Timofei Osipenko
パンケーキやエッグベネディクトなどの大衆的なメニューをモダンにアレンジしており、来るたびに新しい味の発見が楽しめる。
Hilda and Jesse
Berber(ベルベル)
サンフランシスコにある
北アフリカのオアシス
2021年と2022年のミシュランガイドのビブグルマンに選ばれたモロッコ料理のレストラン。店内にはアラブの先住民族ベルベル人の工芸品が飾られ、シックでミステリアスな雰囲気だ。
エグゼクティブ・シェフ、ヒッチャム・センハジは、モロッコの大家族で育ち、母親の作る伝統的な料理に魅了されてきた。レシピは母が作るのを見て覚えたという。その後渡米し、コックとして働き始めた。そして今では、堂々たるグランメゾンのシェフとなった。
黒タラのタジン鍋とナスのサラダ。©Melody S. Wong
アペダイザーはアラビア語で「メゼ」と呼ばれる。スモークしたパンにさまざまな具を載せたもの、タコのフェンネル風味に加え、シャクシューカ(トマトソースに卵を落としたもの)やザアルーク(ナスとトマトのサラダ)などがある。
ビーフとマルメロの実のタジン。©Melody S. Wong
メインはラムやシーバスをタジン鍋で煮込んだもの。タンジアと呼ばれるクレイポットの煮込み料理、サフランチキン、ラムやキャメル(!)のバーガーなど。付け合せはクスクスが定番。ヴェジタリアンのためのメニューも充実している。シェフのコースやワインペアリングも可能だ。
毎日ライブ演奏が行われ、金・土日にはベルベル伝統のサーカスを現代風にアレンジしたショーが上演される。円形のステージを囲んで、杯を傾けながら、アクロバット・ダンサーの妙技を堪能することができる。
サンフランシスコの中心にある北アフリカのオアシスというコンセプトが面白い、実にエキゾチックなレストランである。
Berber
WHERE TO STAY
Palace Hotel, a Luxury Collection Hotel, San Francisco(パレスホテル,ラグジュアリーコレクションホテル,サンフランシスコ)
1875年からの歴史を紡ぐ
SFを代表する超一流ホテル
©Palace Hotel, San Francisco
パレスホテルは、ゴールドラッシュ時代の雰囲気を保つ歴史的建築物である。サンフランシスコ初の高級ホテルであり、その歴史は1875年にまで遡る。
創業者はカリフォルニア銀行の創設者、ウィリアム・チャップマン・ラルストンと上院議員ウィリアム・シャロン。1875年10月2日、当時世界最大のホテルとしてオープンした。
1875年、オープン当時のパレスホテル。©Palace Hotel, San Francisco
750室の客室を誇り、その多くが専用バスルーム付きだった。7階建ての各フロアに電信機が設置され、客室にはコールボタン、5つのライジングルーム(現在でいうエレベーター)が設けられていた。瞬く間に著名人の定宿となり、1906年の地震による火災で全焼するまで、世界的に有名なホテルであり続けた。
©Palace Hotel, San Francisco
1909年、ホテルは鉄とコンクリートとレンガを組み合わせた壮大なビルディングとして再建された。ホテルの象徴である「ザ・ガーデンコート」もこの時公開され、当時の人々はあまりの壮麗さに息を呑んだ。
イタリア産大理石のイオニア式円柱に支えられた、700万ドルのステンドグラスの天井からは、巨大なオーストリア製クリスタル・シャンデリアが吊られている。デビュー以来、ザ・ガーデンコートは世界で最も美しいパブリックスペースのひとつに数えられている。1969年には、サンフランシスコ市の文化財として指定された。
現在でも宿泊者への朝食の他、来館者へプリフィクス・ランチやアフタヌーン・ティーを提供している。
©Palace Hotel, San Francisco
世界のグレイテスト・バーに選ばれたこともある高名な「ザ・パイドパイパー」には、画家マックスフィールド・パリッシュ(1870〜1966年)の傑作『ハーメルンの笛吹き男』が飾ってある。これも1909年、ホテルの再建にあたって依頼されたものだ。パリッシュはこの絵の製作で6,000ドルの報酬(当時としては破格)を得たという。
この絵は、伝説の物語に着想を得て、笛吹き男=パイドパイパーがドイツのハーメルンの町から人々を連れ出す様子を描いている。パリッシュが制作した作品の中で最も重要なもののひとつであり、1世紀以上にわたってパレスホテルのバーに掲げられてきた。
©Palace Hotel, San Francisco
その後、1989年と2018年にホテルでは再び大改装が行われ、今では往年の雰囲気と近代的な設備を併せ持つ場所となっている。空から光が差し込む屋内温水プールやフィットネスセンターも完備されている。
世界最高級のホテルだけを集めたマリオット・インターナショナルのラグジュアリーコレクションに加盟しており、30の地域の100を超えるホテルと連携している。
©Palace Hotel, San Francisco
落ち着いたインテリアの部屋は、万人が安らげるもの。またこのホテルにはアメリカにしては珍しく、多くのバスルームにウォシュレットがついている。実はこのホテルのオーナーは日本の会社なのだ。日本人らしいきめ細やかなサービスが感じられるのは、同胞として嬉しいところだ。
ホテルのロケーションは抜群で、外に出てすぐに、ユニオンスクエア、ケーブルカー、チャイナタウンなど、サンフランシスコのダウンタウンを探索することができる。便利さでもパレスホテルは市内トップクラスである。
Palace Hotel, a Luxury Collection Hotel, San Francisco
2 New Montgomery Street, San Francisco, CA 94105
TEL. +1-888-627-7196
www.marriott.co.jp/hotels/travel/sfolc-palace-hotel-a-luxury-collection-hotel-san-francisco/
サンフランシスコについてさらに詳しい情報をお知りになりたい方は、
サンフランシスコ観光協会のサイトを訪れてみて欲しい。
サンフランシスコへ行くなら、進化したビジネスクラス
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