THE RAKE DISPATCH: NAPA VALLEY Part1
ワインの聖地、ナパ・ヴァレーの魅力
February 2023
text kentaro matsuo
ワイン好きならアメリカ、カリフォルニアの「ナパ・ヴァレー」の名前を知っているに違いない。フランスのボルドーやブルゴーニュと並ぶ世界的な銘醸地で、多くの有名ワイナリーが集まっている。いつかナパ・ヴァレーで、ゆっくりとワイナリー巡りをしてみたいと夢見るファンも多いだろう。
ナパ・ヴァレーはサンフランシスコの北に位置し、クルマだと1時間強で到着する。ヴァレーは英語で「谷」を意味する。ナパ・ヴァレーは、マヤカマスとヴァカというふたつの山に挟まれ、長さ50km、幅8kmくらいの帯状の盆地となっている。寒流が流れ込むサンフランシスコ湾(サンパブロ湾)から冷たい風が吹き込むので、この盆地では、南ほど冷たく、北ほど温かいという通常とはあべこべの気候となっている。
両側を山に挟まれたナパ・ヴァレー。遠くには、もうひとつのナパ名物、熱気球が飛んでいる。
盆地の中にはマヤカマス山を源流とするナパ川が流れている。これがよく氾濫し、近いところだと2005年に大規模な洪水被害をもたらした。しかしながら、この川が山を削り、豊かなミネラルをもたらしてくれるからこそ、ナパ・ヴァレーはワイン作りに適した土壌となったのだ。
ナパ・ヴァレーはワイン生産地のみならず、観光地としても人気である。テイスティングを楽しめるワイナリー巡りに加え、ラグジュアリーなリゾートホテルが多くあり、ヴァレーに点在する町々への滞在も魅力的だからだ。
今回は、そんなワインラヴァー憧れの地、ナパ・ヴァレーのおすすめスポットご紹介しよう。
Carneros Resort & Spa(カーネロス・リゾート&スパ)
ナパの自然と一体となれる
広大かつラグジュアリーなリゾート
サンフランシスコの象徴であるゴールデンゲート・ブリッジを渡り、サンパブロ湾を回り込むように北上を続けると、あたり一面にブドウ畑が広がってくる。カーネロス・リゾート&スパはナパ・ヴァレー及びソノマの裾野カーネロスに広がる一大リゾートで、その面積は11万坪にも及ぶ。広い敷地内にコテージタイプの客室が点在している。
インテリアはカントリー調だが、設備はラグジュアリーかつ最新だ。ワンタッチで点火するファイヤープレイスや、広々としたバスタブが目に入る。各コテージにはプライベートガーデンが設けられ、アウトドア・ジャクージやシャワーが備え付けられている。
面白いのは、部屋にオートマチックのワインサーバーが置かれていること。赤(ピノ・ノワール)と白(シャルドネ)をいつでもグラスでオーダーすることができる。これは便利だが、やや危険なマシーンだ。
ホテル敷地内には独立したティスティング・ルームが用意されている。ここはかつて郵便局だったため、“ポスト”という名がつけられている。ローカルの優良ワインが揃えられ、エキスパートの解説とともに味わうことができる。
ちなみにナパ・ワインのティスティングは、複雑なテロワールの薀蓄が必要なフランス・ワインなどに比べると、ごく簡単だそうだ。重要なのはカベルネ・ソービニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネなどのブドウの種類。それから新しい樽をどのくらい使っているかによって違ってくる樽香の強弱。キーとなるのはこのふたつで、あとはそれぞれが適当に思いついた言葉でワインを表現すればいいらしい。ジャムとか、ナッツとか、ベリーとか。おおらかなところが実にアメリカ的だ。
しかしながら、突き詰めていくと奥が深いのも特徴で、AVA(米政府承認のブドウ栽培地域)は基本16区に分けられているが、マイクロ・クライメートと呼ばれる微妙な日照・気候の違いは数百以上にも及ぶという。
またハイテクを駆使しているところも土地柄で、生物・農業関係では世界屈指のレベルを誇り、ノーベル賞やピューリッツァー賞受賞者を何人も輩出したカリフォルニア大学デービス校が牽引する最先端の土壌学・微生物学が取り入れられている。大卒のワインメーカーが多く、徹底してサイエンス重視という点では、ナパ・ヴァレーは間違いなく世界一である。
敷地内では、さまざまな野菜やハーブが育てられている。鶏も飼っており、卵も自家製だ。それらはレストランで提供されている。朝食として出された自家製卵のオムレツは絶品だった。サステナビリティにも十分な配慮がされており、例えばプラスチック製のボトル類は一切使われていない。
カーネロス・リゾート&スパは、雄大な大自然に囲まれつつ、ラグジュアリーな設備で心からリラックスでき、さらに思う存分ワインを楽しむことができるリゾートである。
Carneros Resort & Spa
4048 Sonoma Hwy, Napa, CA 94559
TEL. +1 (866) 860 2328
Napa Valley Welcome Center(ナパ・ヴァレー・ウエルカム・センター)
ナパ・ヴァレーのすべてがわかる
オリジナルのお土産もたくさん
ナパ・ヴァレーには、川沿いに5つの町がある。そのうち一番下流に位置するのが「ナパ」である。目貫通りには洗練されたブティックやインテリアショップ、ワイン・テイスティング・バーが立ち並び、数々のアート・オブジェも飾られている。実にファッショナブルなタウンといえる。このあたりはサンフランシスコの郊外にあたり、富裕層の住人が多いのだ。
日本からの取材班を歓迎して館内には日の丸が。左にあるのは熱気球のバスケット。
そこでまず訪れたいのがナパ・ヴァレー・ウエルカム・センターだ。この施設はナパ・ヴァレー観光局によって運営されており、旅人へ無償で情報を提供してくれる。ナパ・ヴァレーの地形を模したジオラマがあり、この土地の成り立ちを理解するのに役立つ。オリジナルのエコバッグやワインオープナー、キャップなどはよいお土産になるだろう。またナパ・ヴァレーのもうひとつの名物である熱気球の本物のバスケット(人が乗るところ)が置いてあるので、中に入って記念写真を撮るのも面白い。
Napa Valley Welcome Center
www.firststreetnapa.com/portfolio-item/napa-valley-welcome-center/
CIA at COPIA
多くのシェフを輩出した料理学校
レストランやミュージアムも
ナパの街でも一際大きく目を引く建物がCIA at COPIAである。CIAとはカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカの略で(カリナリーとは台所・料理の意)、ここは全米でも名門の料理学校として知られ、多くのミシュラン星付きレストランのシェフを輩出してきたという。
内部には調理実習のための巨大なキッチンや有名シェフが実演するスタジアムなどが設けられている。出来上がった料理は生徒全員で論評を交えつつ、皆でワイワイと食べるらしい。
またワインや食に関するミュージアムも併設されており、ウィリアムズ・ソノマの創業者、チャールズ・E・ウィリアムの集めた膨大なキッチングッズ(カッパーウエアやほうろう鍋、菓子型、キャンディマシンなど)や、貴重なカリフォルニアワインのコレクション、ワインの偉人たちのレリーフが飾られた「ワインの殿堂」などが展示されている。
校内にはCIAのシグニチャー・レストランであるThe Grove(ザ・グローブ)がオープンしている。地中海料理とファーム・トゥ・テーブルを組み合わせたスタイルで、CIAの裏の畑で収穫された野菜がそのまま食卓へ載せられる。自然の旨味を生かした軽やかな一皿を、ナパの銘醸ワインとともに食すことができる。ワインバーだけの利用も可能だ。
CIA at COPIA
Kenzo Estate(ケンゾー・エステイト)
日本人の夢と執念が結実した
ナパ・ヴァレー最大級のワイナリー
ケンゾー・エステイトは、日本でもよく知られたワイナリーである。オーナーはゲームメーカーのカプコン(ストリートファイターなどで知られる)創業者、辻本憲三氏。470万坪もの広さを誇り(中野区がすっぽり入る)、個人所有のワイナリーとしてはナパ・ヴァレー最大だという。
辻本憲三氏と妻・夏子氏。ケンゾー・エステイトはふたりの夢が結実したものである。
辻本氏のモットーは、「ワインもゲームと同じで、必要不可欠なものではない。だからこそ、一番いいものでなければ見向きもされない」というものだった。しかし、その道程は決して平坦ではなかった。
1990年に土地を購入し、99年にブドウを植樹。2001年に初収穫を迎えるが、その年のヴィンテージが世に出ることはなかった。その後、迎え入れた天才栽培家デイビッド・エイブリューが、すべてのブドウを植え替えることを主張したのだ。辻本氏は14万本ものブドウの木を引き抜き、再び植え直した。この英断が転機となり、ケンゾー・エステイトは世界的名声を得ていくことになる。このワイナリーはひとりの男の執念の産物なのだ。
現在ワイナリーでは赤用として5種類(カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック、カベルネ・フラン、メルロー、プティ・ヴェルド)、白用として2種類(ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン)のブドウを栽培している。基本的にはボルドースタイルのワイン作りを特徴とし、栽培から醸造、貯蔵まですべての工程をワイナリー内で行い、“エステイトボトル”の称号を得ている。
製造工程は伝統的な手法とハイテクを程よく組み合わせたもの。ブドウ一粒一粒の選別にはAIを搭載したカメラが使われ、空気銃によって不要なブドウが除去されるシステムが導入されている。ブドウ自体の重みで果汁を抽出するが、これにあえてプレスして取り出したジュースを混ぜるのがケンゾー流だという。
ワインはフレンチオーク100%の樽(使うのは3回まで)で20ヶ月熟成される。頭を悩ませるのはラッキング(澱引き)の工程で、ここで樽から樽へとワインを移し替えるが、このときのブレンドの比率が後の味に大きく影響するという。さらにボトル内熟成を経て出荷される。1本のワインを作るのに、3年間以上かかる。
テイスティングは陽光が降り注ぐ明るい部屋で行われた。代表的銘柄4種に加え、甘口の白ワイン「muku(夢久)」が供された。ラベルのデザインやボトルのシェイプは日本人が手掛けており、それぞれが少しずつ違う。味はどれも素晴らしかったが、共通した特徴として、どこか日本風のすっきりと端正なところがあるように感じられた。
代表銘柄4種。左から:「asatsuyu(あさつゆ)」96%ソーヴィニヨン・ブラン、4%セミヨンをブレンドした白のシグネチャーワイン/「rindo(紫鈴)」すべてのブドウをブレンドした赤のシグネチャー/「murasaki(紫)」メルローを主体としたボルドー右岸のスタイル/「ai(藍)」カベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド率を93%にまで高めた1本。
ケンゾー・エステイトでは、スタッフとして多くの日本人が働いている。いろいろな工程で日本人ならではの繊細な感性が働いているに違いない。それらの積み重ねで、ワインに凛とした品格が備わっている。そしてそういった日本人ならではのセンスは、今アメリカで引っ張り凧になっているものなのだ。
ケンゾー・エステイトは日本において、カリフォルニアを代表する銘柄となりつつあるが、米国においても、日本人の美学を伝えるブランドとして、重要な存在なのである。
Kenzo Estate
www.kenzoestate.com/ja/esuteito
ナパ・ヴァレー編Part2はこちら
ナパ・ヴァレーについてさらに詳しい情報をお知りになりたい方は、
ナパ・ヴァレー観光局公式サイトを訪れて欲しい。
サンフランシスコへ&ナパ・ヴァレーへ行くなら、進化したビジネスクラス
「ユナイテッド・ポラリス」がおすすめである。