The Quest: 270 Years of Seeking Excellence

ヴァシュロン・コンスタンタン展覧会、270年にわたる卓越性への追求

May 2025

1755年、ジュネーブにてその歩みを始めたヴァシュロン・コンスタンタン。以来、現在までの270年、いかなる時代にあっても時計製造の最前線で伝統と革新を紡いできた。このメゾンの、探求の軌跡を示す展覧会「The Quest:270年にわたる卓越性への追求」が東京・神宮前で始まった。

 

 

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展覧会の会場は、東京・神宮前のコンクリート建築を活かした静謐な空間。現代建築の中に270年の伝統が息づく。

 

 

 

 ヴァシュロン・コンスタンタンは、創業者のひとり、ジャン=マルク・ヴァシュロンが最初の見習いと契約を結んだことからはじまる。本展は、メゾンの歴史と、貴重な過去のタイムピースやキャリバー、製造工具を通じて、高級時計製造の本質に触れる体験を提供するもの。展示品は、芸術性と技術革新の結晶であり、視覚的な美しさと構造的な精緻さが静かに共鳴する。

 

 最初の展示室では、メゾンの創業から今日に至るまでの歩みを、映像と貴重な資料の数々で振り返る。空間全体がひとつの回顧録となり、270年の歴史を彩ってきたアーカイブ資料や歴史的なマスターピースが静かに語りかけてくる。ここには、時代ごとの変革や革新を経てもなお変わらぬメゾンの精神が息づいている。

 

 

メゾンの貴重なアーカイブ資料、写真、歴史的タイムピースを通して、物語を楽しめる最初の展示室。

 

 

 

 次の展示室は、メゾンの職人たちの技を讃える空間。ギヨシェ彫り、エナメル、彫金、ジェムセッティングなど、代々継承されてきたメティエ・ダール(匠の技)に光が当てられている。技巧の背景にある哲学と美意識を、実物とともに体感できる点は、本展ならではの醍醐味といえる。

 

 

エナメル、彫金、ジェムセッティング、ギヨシェ装飾など、熟練の伝統技術を展示。

 

 

繊細なエナメル技法を間近に感じることができる。

 

 

 

 展覧会のハイライトといえるのが、2024年に発表された「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」についての展示室。2877個の構成部品と世界初の中国暦パーペチュアルカレンダーを含む63の複雑機能を記載した懐中時計は、メゾンの技術の粋を示す、卓越の象徴ともいえるものだ。特別なディスプレイにより、裸眼では見ることのできない部分までの繊細な美しさを見ることができる。

 

 

最も複雑なムーブメントを搭載した「レ・キャビノティエ・ザ・バークレー・グランドコンプリケーション」を、6つの層に分けて解説。その小宇宙を堪能できる。

 

 

 

 最後の展示室では、天文学と時計の関係性に着目。銀河を想起させる演出の中で、時の起源と可能性、そして人類の果てなき探求を静かに問いかける。ヴァシュロン・コンスタンタンが長年貫いてきた“探求”という哲学を象徴する場でもある。

 

 

暗闇の中で壮大な眺めのもと、宇宙と時の概念を考えさせる不思議な空間に身を置くことができる。

 

 

 

「できる限り最善を尽くす、そう試みることは少なくとも可能である」。これはフランソワ・コンスタンタンがジャック=バルテルミー・ヴァシュロンに宛てた書簡の中で記した言葉である。それは270年を経てもなお、メゾンの創造と革新の根幹にある言葉だ。その精神の真意を、視覚と感性を通じて伝えてくれる展覧会に、ぜひ足を運んでほしい。

 

 

The Quest(探求):270年にわたる卓越性への追求」

会場:東京都渋谷区神宮前5−11−1

営業時間:11:00~19:00(最終入場18:30)

定休日:火曜日(祝日を除く)

入場料:無料(予約来場優先/混雑時入場制限あり)

www.vacheron-constantin.com/jp/en/events/tokyo.html

※展示内容は予告なしに変更する可能性があります。

 

 

Photo: Kunihisa Kobayashi