THE NEW RANGE ROVER
再びルーブルへ飾られるにふさわしい
November 2022
世界で初めてルーブル美術館に展示されたクルマはレンジローバーである。それから半世紀、再び飾られるにふさわしい、美しき新型が登場した。
RANGE ROVER AUTOBIOGRAPHY D300
今回試乗した「オートバイオグラフィー」はさまざまな装備が施された最上級グレード。ボディは7人乗りのロングタイプもあり、エンジンはディーゼルの他、ガソリン、PHEVのバリエーションも用意されている。全長×全幅×全高:5,065×2,005×1,870mm/車両重量:2,580-2,700kg/最小回転半径:5.3m/エンジン:2,993cc 直列6気筒ターボ·ディーゼル/最高出力:300ps/4,000rpm/最大トルク:650Nm/1,500-2,500rpm
初代レンジローバーはルーブル美術館に展示された初めてのクルマだった。供覧の理由は「工業デザインの模範的な作品」というものだ。1971年のことである。それから半世紀後、5代目となる最新型が発表された。その仕上がりは素晴らしく、再びルーブルに飾られるにふさわしい。その試乗記をお届けしよう。
エクステリアは数本のラインを軸に構成され、どこにも目立った突起がない。しかし大きな鉄塊から削り出されたような力強さを感じる。全長5m超の巨躯にもかかわらず威圧的ではない。昨今流行りの大型SUVとは一線を画する凛とした上品さがある。路肩に停まる様は、まるで背の高い英国紳士が佇んでいるようだ。
「DNAを尊重しながらも、前へ進むことは可能です。余分なディテールを排除し、現代性を表現しながらも、エモーショナルな魅力が感じられるフォルムを実現しました」そう胸を張るのは、ジャガー·ランドローバーCCOのジェリー·マクガバン氏だ。
23インチの巨大ホイール、格納式のドアハンドル、浮いているように見えるフローティングルーフ、高精度のデジタルLEDライトなど、ディテールへのこだわりは満載だが、すべての要素がひとつにまとまり、統一された造形美を醸し出している。
インテリアも、レザーとウッドを基調としたラグジュアリーかつすっきりとしたもの。ダッシュボード中央には13.1インチの大型パネルが設えられ、ナビやオートパーキングなどの機能をコントロールすることができる。タッチ式スクリーンには触覚的フィードバックが採用されており、画面に触れると指先にクリック感が伝わってくる。エアコンにはPM2.5までの微粒子を除去するフィルターが内蔵されており、「エアクオリティ」表示にすると、外気がどれだけ汚れているか、車内がいかにクリーンであるかを数字で示してくれる。
13.1インチのモニターを中心にすっきりとまとめられたインテリア。シート素材はレザー以外に、エコ素材を選ぶこともできる。
オーディオシステムは英国メリディアンが手がけており、迫力のサウンドを聴かせてくれる。その実力が発揮されるのは、常に大音量のロックよりも、ピアニッシモからフォルティッシモまでダイナミックレンジの広いフルオーケストラであろう。なぜならば、新型レンジローバーの車内は、とても静かだからだ。
試乗車にはディーゼルが搭載されていたが、エンジンの振動をまったく感じない。3L直列6気筒ターボ・エンジンは300psを発生するが、ガソリンと比べ、静音性は少しも遜色がない。この静けさにはもうひとつ秘密があって、ホイールハウス内側に仕込まれたマイクでロードノイズを拾い、スピーカーから逆位相の音を出して、車内の騒音を打ち消しているのだ。いわば大きなノイズキャンセリング·イヤホンに乗っているようなもので、ノイズは消されるが、外部からの音は比較的よく入ってくる。例えば、車内は静かなのに、外で鳴いているセミの声はよく聞こえたりするのだ。
乗り味は悠々堂々としたものだ。高いアイポイントで見切りがよく、四輪操舵によって小回りがきき、巨大なボディを持て余すことはない。高速道路では心底ゆったりとしたクルージングを楽しめる。2.5tを超えるボディは、よくできたサスペンションと慣性の法則によって滑るように走る。波の音が入った曲を聞きながらドライブしていたら、クルマというよりは、メガヨットを操縦しているような気分になってしまった。
新型レンジローバーは、他の大型SUVとは異なる世界観を持っている。それは半世紀を超える歴史のなかで培ってきた、英国の血統がもたらすエレガンスである。
シンプルなリアビュー。ランプ類は垂直に配置されている。リアゲートは伝統の上下分割式で、開かれたゲート下部に腰を掛け、ティータイムを楽しむこともできる。