The Impractical Choice: Jensen Interceptor

あまりにもダメだが夢多きクルマ:ジェンセン・インターセプター

October 2021

性能的にはからきしだが、所有するだけで夢が広がり、今でもマニアに高い人気を誇る英国車がある。

ジェンセン・モーターズが1966年から1976年まで生産していた、ジェンセン・インターセプターである。

 

 

by ALEKSANDAR CVETKOVIC

 

 

 

 

 こんな光景を思い浮かべて欲しい。

 

 完璧に手入れされたセーム革のドライビンググローブを着けて、しなやかに振動するステアリングホイールを握っている。沈まんとする太陽は、地平線をピンク色に染め上げる。濃いレンズのアビエーター・サングラス越しに、ボンネットの長く逞しいラインが見える。信号で停止すると、歩道には美しい女性がふたり立っていて、あなたとインターセプターを眩しそうに見つめている……。

 

 あなたがジェンセン・インターセプターを所有したとしても、こういったことは起こらないだろう。実際は、家の中で窓の外に降り注ぐ雨を恨めしそうに見ながら、雨が止んでインターセプターを運転できる日が来ることを祈ること。あるいは、天気予報を無視したために気がつけば道端で雨に打たれ、キャブレターからもうもうと煙が出て、巨大なボンネットを上げるのに必死になっているかだ。もちろん美しい女性の姿はどこにもない。

 

 

 

 

 

 こうなるにはふたつの理由がある。

 

 まず明らかなことは、インターセプターがよくできたクルマではないからである。1974年にリリースされたこの世代のインターセプターにはトライアンフ スタッグのステアリングラックが装着されており、メカニズムとしては間違いなくクールだが、ハンドリングはイマイチだ。ブレーキはスポンジーで、クロームメッキは防錆効果がなく、ボディへの取り付けも不十分だった。1976年にジェンセン・モーターズが倒産したため、生産期間はわずか2年で終わった。このクルマのクオリティには常に問題がつきまとっていたのだ。

 

 もうひとつの理由は、そのクオリティの低さにもかかわらず、このクルマをひと目見たら必ず虜になり、思わず買ってしまうからだ。

 

 ジェンセン・インターセプター(特に504台しか生産されなかったコンバーチブル・バージョン)に関しては、購入した後に実際にどうなるかは、さして問題ではない。ガレージの中で錆びついて、エンジンもかからず、まっすぐ走ることもできないかもしれないが、そんなことはどうでもよくなるのだ。

 

 

 

 

 重要なのは、このクルマが醸し出す願望の強さ、レトロなロマンスの感覚である。このクルマはオーナーに、まるで自分の身長が3メートルになったように感じさせる。カッコよく巨大で、恐ろしく男らしくさせてくれるのだ。

 

 1年の大半をガレージで過ごすとしても、遠い未来のある晴れた朝、信号待ちで周囲の人々の賞賛を浴びる自分を夢想し、ほくそ笑むことができる。それこそクルマ道楽の究極の姿ではないだろうか? それに金を払おうという人は、決して少なくはない。ジェンセンのドロップヘッドは、状態がいいと最低75,000ポンドはする。

 

 これは単なるクルマではなく、夢のマシーンなのだ。ガレージから出る出ないにかかわらず、クルマとの関係は実り多きものになるだろう。