THE HISTORY OF THE PEA COAT
ピーコートの歴史
December 2018
ピーコートは、留め方を変えられる襟を持ち、8または10個のフロントボタンを持つ。雨風を防ぐように工夫された意匠だ。サイドポケットは、船員が両腕を温め、快適に過ごせるように縦形となった。さまざまな仕事に従事する下級船員のために、裾はカットされた。将官用の着丈の長いコートは、別物として“ブリッジコート”と呼ばれるようになった。
伝え聞くこところによれば、19世紀半ばに、英国海軍の戦艦HMSブレザー号の船長が、謁見するヴィクトリア女王を感動させるために、乗員に金のボタンをつけさせたことが“ブレザー”の始まりだとされる。ダブルブレストの真鍮製のボタンがついた、ライトな生地のダブルブレステッドが“ブレザー”と呼ばれる理由はここにあったという。ピーコートに使われるのはもっと厚い生地だが、出自は同じ海軍である。
ピーコートには、黒のホーンやプラスチック製の大きなボタンが付けられている。それは冷たく濡れそぼった手で、ボタンのはめかけを出来るようにするためだった。ボタンには、英西戦争時にエリザベス1世に仕えたカール・ハワード、ノッティンガム伯爵などに由来するロープ状の刻印が多く使われる。
そんな戦時期をルーツに持つにもかかわらず、ピーコートは最終的に“平和と愛”の象徴となり、ブレザー・ジャケットとは違う意味を持つようになった。他の軍モノと同様に、頑丈で手頃な価格のピーコートは1950年代のビートニクスや60年代のヒッピーたちに愛された。70年代には、ロバート・レッドフォード主演の映画『コンドル』や、アリ・マッグロー主演の『ある愛の詩』で衣装として採用された。
もともとピーコートは、30オンスのヘビーウール、またはウールとアクリルの混紡から作られていたが、今日ではより軽く、ラグジュアリーなモデルが出回っている。
英国の老舗、ニュー&リングウッドは、ネイビーのウールフランネル製のダブルフェイス・バージョンをリリースしている。グレンフェルが作った一着は、ネイビーメリノ素材にメタル製のボタンを配し、レザートリムのポケットを備えている。
同じく英国を代表するテーラー、ギーブス&ホークスは、レッドフォードが着ていたような、70年代風の大きなラペルのモデルを発表している。
ピーコートは、現代でも最高にファッショナブルで、しかも財布に優しいアイテムだ。ここで紹介するどのピーコートを選んでも、かつての船員たちが享受したように、冬の雨風に対する備えは万全なものとなるだろう。