THE CRAFTMANSHIP OF ELEGANCE 01

生地のプロフェッショナルたちが語る、いま人気の生地の潮流とは

June 2023

ビスポークの世界で人気の生地に、大きな潮流ができつつある。その潮流は、真の意味でのラグジュアリーと言って差し支えなさそうだ。
text yuko fujita
photography setsuo sugiyama

鈴木貴博氏(左) ドーメル・ジャポン 取締役社長1972年生まれ。生地畑ひと筋で22年。2005年にドーメル・ジャポンが設立された際の立ち上げメンバーで、2021年に取締役社長に就任。糸の組成からフィニッシングに至るまでを熟知し、積極的に日本からの企画を仕かけている。業界内ではドーメルマンの異名をとる。

小澁修一郎氏(中) サルトリア ルコルト1986年、岡山市生まれ。文化服装学院を卒業後、アパレルを経て英国のオックスフォードとロンドンに留学。2012年からサルトリア イプシロンで学び、2017年6月にサルトリア ルコルトを始動。今、最注目のテーラーで、ラグジュアリーな生地のセレクトにも定評がある。

岸 秀明氏(右) マルキシ 代表取締役1975年、神田駿河台生まれ。英ハリソンズグループを筆頭に、英伊の高級服地を扱う輸入服地卸「マルキシ」の3代目。大学時代を英国で過ごしていたこともあり、欧州のライフスタイルに造詣が深い。北はスコットランドから南はナポリまで、自ら仕入れ先を訪ねる。

THE RAKE ビスポークの世界では、つい最近までは長く着るために目付けがしっかりしていてとにかくタフな生地が欲しい、そういう生地が男らしくてカッコいいとされる大きな流れがあったと思うのですが、昨今のライフスタイルの変化の中で多くの人が毎日スーツを着る必要がなくなって、スーツを着たい人が着るようになったのと、仕事で着ていた人もスーツはここぞのときに着る服になったわけです。たまにしか着ない服だったら、最高の生地で仕立てたい。そう考える人が凄く増えているんですよね。ただ、スーパー150’sのしなやかなタッチは好きなんだけれども、緯糸が単糸だと心許ない。そんななか、そういう極細繊維のウールを用いながら、あえて太い糸に紡いだり、あるいは3プライとか4プライの糸にしたり、追撚をかけた糸でしっかりウェイトのある生地に織り上げた生地などが注目を集めるようになってきて、耐久性も同時にもたせた生地の人気が高まってきたなと思うんです。

小澁 確かにそういう流れになってきていますよね。

THE RAKE 去年、岡山の小澁さんの工房を取材させてもらった際、そういった素晴らしい生地をたくさん揃えているのを目の当たりにして、ある意味小澁さんは今のTHE RAKEが考える生地の潮流を体現している人だなって思ったんです。

小澁 ある程度オーダーを経験されてきた方は、既に服をそこそこお持ちなので、ラグジュアリーな生地で仕立てたいと考えている人は多いと思うんです。タッチはラグジュアリーで、でもしっかり仕立て映えがして長く着られる生地が欲しい、そこの部分は譲れないという(笑)。そうすると、高級原毛を使いながらあえて太い糸にして織り上げた生地という答えになってくるんですよね。

鈴木 昔は生地のよし悪しの判断材料としてまず“スーパー”の数字が先にあって、スーパーの値が高ければ高いほどいい生地だとされてきた、数字のまやかしがあったと思うんです。でも、スーパーの数値が高いのは、単純に原毛が細いだけだということがお客様もわかってきて、その原毛を贅沢に使ってあえて太い糸にして織り上げた生地こそが本当の贅沢でラグジュアリーなんだという認識に変わってきた、というのがここ最近の流れとして強く感じますよね。

 10年、20年前は、スーパー200’sのような極細原毛を使用していれば最高級という認識があって、わかりやすくするためにいかに薄く織るかを競い合っていましたが、今はそういったウールをあえて肉厚に織るのがラグジュアリーという認識に変わってきましたよね。あとはスーパー表示はないですが、弊社がH.レッサー&サンズで展開している「ラムズゴールデンベール」のようなブランドウールの人気もここに来て非常に高まってきています。

THE RAKE 確かにスーパー表記はされていないですが、触った瞬間にいい生地だとわかるので、ビスポークファンからの評価はとても高いですよね。H.レッサー&サンズはハリソンズグループですが、岸さんが偉大なるハリソンズでオススメしたい生地は何ですか?

 ハリソンズだとまずは「グラン・クリュ」ですね。スーパー150’sのウールを使用し、もちろん経緯双糸で目付けは330g/mです。サヴィル・ロウのトップテーラーで長く愛されている生地だけあって、日本でも非常に人気があります。

THE RAKE 滑り感もたっぷりあって、スーパー150’sのウールを贅沢に使いながらしっかりウェイトもあって、素晴らしい生地ですよね。3プライとか4プライとか、記号的な何かがあるわけではないですけど、サヴィル・ロウであれだけ高く評価されている「グラン・クリュ」は鉄板でしょうね!

 ありがとうございます。おかげさまでハリソンズは今年創業160周年を迎えることができまして、つい最近それを記念した生地が発表されたんです。スーパー160’sのウールで織り上げた生地で、「プルミエ グラン・クリュ」という名前になります。260g/mの生地で展開されるのですが、秋冬は糸を太くしてよりウェイトをもたせた生地が登場する予定です。ハリソンズはこれまであまり細い原毛を使用してこなかったマーチャントでして、英国国内でもサヴィル・ロウのビスポークテーラー向けにコレクションを組んでいたところが大きいので、スーパー160’sの生地であっても、仕立て映えするものであることが大前提としてあります。

岸氏 オススメの生地:HARRISONS/Premier Grand Cru

創業160周年を記念したスーパー160’sの限定生地1863年の創業から160周年を迎えたハリソンズから登場した「プルミエグラン・クリュ」は、スーパー160’sの極上メリノウールを経緯双糸使いによる英国の伝統製法で織り上げたもの。自然でエレガントな表情と極上の肌触りを備え、美しい仕立て上がりを約束してくれる。ウェイト260g/mで20柄をラインナップ。秋冬にはこれにウェイトを積んだバーションも加わる予定。

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