THE BEST DINNER JACKETS IN CINEMA HISTORY

映画史上最高のディナージャケット

January 2022

映画史上に残る、スタイリッシュなシーンの数々……そのいくつかは、仕立ての良いディナージャケットのおかげで実現している。

その中から、歴代のベスト・ディナージャケットをご紹介する。

 

 

 

by CHRISTOPHER MODOO

 

 

 

 

 

 

ピアース・ブロスナン

『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)

 

 ボンドシリーズから、何かひとつベストワンのディナージャケットを選ぶのは難しい。素晴らしいスタイリングがたくさんあるからだ。ショーン・コネリーのターンバック・カフ、ジョージ・レーゼンビーのフリルシャツ、ロジャー・ムーアの裾がフレアーしたトラウザーズなどは、注目に値するし、実際にTHE RAKEをはじめ、数々のメディアで度々取り上げられている。

 

 そこで私はあえて、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』のピアース・ブロスナンのタキシードを1位に推そうと思う。私のベストボンド映画ではないし、ブロスナンの中でも最も好きではない1本かもしれない。しかしあのスーツ、もっと言えば、あのウエストコートは、比類なく素晴らしいものだ。

 

 

 

 

 

イアン・カーマイケル

『School for Scoundrels』(1960年)

 

 英国人の俳優イアン・カーマイケルは、自然に服を着こなすことができ、イージーでダッパーなスタイルを持っていた。名門イーリング・スタジオが作ったコメディ映画『School for Scoundrels』での彼のイブニング・ウェアは、英国スタイルというものを完璧に表現している。

 

 ダブルブレステッドのイブニングジャケットのラペルは適度な幅があり、ポケットにフラップやベントはない。シャツはソフトなターンドダウン・カラー(普通の下げ襟)で、手結びのボウタイ、ラペルのカーネーション、さり気なく胸ポケットに入れたリネンのハンカチーフなどが添えられている。

 

 このスタイルが驚くほどスタイリッシュなのは、すべてがさりげなく身につけられているからだ。セレモニーに出席したサッカー選手のように、これ見よがしに威張ったり、ポーズしたり、見せびらかしたりすることはない。これぞ本物のスタイルだ。

 

 

 

 

 

ケーリー・グラント

『泥棒成金』(1955年)

 

 ケーリー・グラントの『泥棒成金』のスリーピース・スーツは、ミッドナイト・ブルーの身頃に黒のフェイシングが施されている。私自身は、黒以外の色のイブニング・クロスを認めている。ブラウンやブルーの色調も楽しいものだ。

 

 しかし、グラントが着ているミッドナイト・ブルーは、ほぼ黒に近い色だ。ショールカラーは彼の体格に比べてスリムだが、細すぎるわけではない。なぜ彼のショールカラーにボタンホールが開いているのか、歴史的な前例がないのでよくわからない。もしあなたのショールカラーにもボタンホールがついていたならば、そこに花を飾ることをお勧めする。

 

 グラントのアンサンブルの主役はシャツだ。柔らかいプリーツの入った襟付きのイブニングシャツは、男性のフォーマルドレスに革命をもたらした。ホワイトタイ用の固く糊付けしたボイルド・シャツよりも着心地がよく、手入れも簡単で、さらにスタッズで留める必要もない。付き人が休みの日には最適だ。

 

 

 

 

 

ハンフリー・ボガート

『カサブランカ』(1942年)

 

 紳士が黒のディナージャケットを、よりレス・フォーマルな“ホワイト”のものに代えてよい場合には、厳格なルールがある。それは、季節が真夏であるか、場所が熱帯地域であるか、またはあなたが“ロキシー・ミュージック”のリード・シンガーであるかだ。

 

 映画『カサブランカ』でのボガートのクリーム色(決して白ではない)のディナージャケットは、作品と同様に象徴的なものだ。ローボタン、ダブルブレステッドのスタイルで仕上げられたこのジャケットは、美しいショールカラーと完璧なプロポーションを持っている。ボタンは同系色のマザー・オブ・パールで、ノーベント、ラペルにはフェイシングがない。

 

 私はフェイシングなしの、クリーム色のディナージャケットが好きだ。しかし、既製品ではディテールの揃った良いものを見つけるのは難しい。オーダーメイドなら、ディテールも生地も思いのままだ。厚手のアイリッシュリネンや、ウールとシルクをブレンドした濃厚なクリーム色の生地がお勧めだ。

 

 

 

 

 

フレッド・アステア

『有頂天時代』(1936年)

 

 ホワイトタイとテイルコートを最もエレガントな男性の服装として定着させたこの映画には、ブラックタイの最も素晴らしい例もある。アステアの4つボタンのダブルブレストスーツは、今見ても違和感がなく、細部に至るまで正統派である。

 

 アステアが着ていたウィングカラーのシャツはクラシックな美しさを持っているが、このタイプのシャツは今では人気がない。1980年代にスヌーカー選手や不動産業者が着用していたことから、悪いイメージが残っているのかもしれない。しかし、この映画でアステアが着ているのは、地方のデパートで売られているような薄くて浅いウィングカラーではなく、しっかりと糊付けされた深いウィングカラーなのだ。

 

 このディナースーツはベントレスで、ジャケットとフルカットのトラウザーズとの間に切れ目のないラインを作っている。また、アステアはポケットチーフとブートニエールの両方を着用している。まさに“壮麗”である。