THE BESPOKE REPORT “SARTORIA CORCOS”
実は優しいフィレンツェの服:サルトリア コルコス
September 2021
世界中の顧客を魅了する秘密を、愛用者である本誌編集長・松尾がリポートする。
photography tatsuya ozawa
都内ホテルにて、最終納品における一コマ。今回チョイスした生地は、フィンテックス・オブ・ロンドン製スーパー120’Sのサージ。一見制服のように普通でありながら、うっすらと上品な光沢を放ち、見る人が見ると只者ではないことがわかるという逸品。吊るしておくだけで、シワが取れ、実用性も高い。フロントの優美なカット、ややボリュームのある胸、すっきりと美しい首&肩回り、ウエストの自然なシェイプなどは、サルトリア コルコスならでは。ジャケット ¥340,000〜、スーツ ¥450,000〜(2021年度のオーダーは受付終了)
www.sartoriacorcos.com/
「まるで外国人が京都で呉服屋を開くようなものですよ」
初めてお会いしたとき、サルトリア コルコス店主、宮平康太郎氏はそう言った。洋服の本場であるフィレンツェで、日本人がテーラーを開く無謀さをこう表現したのだ。しかしそれから7年、コルコスはもはやフィレンツェを代表するサルトのひとつとなり、国内外から多くの信奉者を集めている。
私がこれまでコルコスで仕立てたのは、ツイード・ジャケット、ホップサック・ネイビーブレザー、そして今回できあがったグレイスーツの3着である。1着上がってから、しばらくしてオーダーを入れることの繰り返しで、7年間で3つだから、まぁ、うんと待たされたことは間違いない。
しかしテーラーとは、このくらいのスパンの付き合いのほうがいいとも思う。着こむうちに、その服がどんな本質を持っているのかが理解できるからだ。
サルトリア コルコスは、やはりフィレンツェの服である。選び抜かれた生地は、青い空と海を連想させるナポリに比べて、くすんだ、シックな色合いのものが多い。これはフィレンツェという街が持つ、独特のカラーパレットなのだ。私の場合は、生地まですべておまかせだが、宮平氏は絶妙なセンスで私好みの生地を選んでくれる。「松尾さんに似合いそうな、いい生地が入りましたよ」と連絡が来て、見せてもらうと、まったくもって気に入ってしまうのである。決して派手ではないが、“ 何かが違う”のだ。
仮縫い中の風景。フィレンツェ仕立ての大きな特徴として、前身頃のダーツがないことがあげられる。