Staying at Noborioji Hotel Nara

奈良を代表するオーベルジュ「登大路ホテル奈良」滞在記

May 2023

text kentaro matsuo

 

 

 

 

 老松の巨木と生い茂る夾竹桃の林の向こうに、1300年の歴史を誇る名刹、興福寺の北円堂が端正な姿を見せている。手を伸ばせば、届きそうな距離である。養老5年(721年)に建立されたこの堂は、日本に現存する八角円堂のうち、最も美しいと賞賛され、国宝にも指定されている。窓からの借景として、これ以上のものは望めまい。

 

 

 

 

 こんな贅沢なロケーションに恵まれた奈良随一の高級ホテルが「登大路(のぼりおおじ)ホテル奈良」である。客室はわずか13室だが、シックな内装と最新の設備、キメの細かいサービスを誇る一流処として知られている。昨年リニューアルされ、とびきりのレストランを擁するオーベルジュとして生まれ変わった。今回は、注目のラグジュアリー・ホテルの滞在記をお届けする。

 

 

 

 

 コロナ禍が終わろうとしている今、観光地としての奈良は人気が再熱している。奈良観光協会のデータによると、2023年2月の奈良市内の宿泊客数は前年比115%増、特に外国人は3,833%増と驚異的な伸びを見せている。事実、奈良駅周辺は外国人観光客だらけである。富裕層も多く訪れるので、インターナショナルなレベルのホテルが求められているという。

 

 登大路ホテル奈良は、近鉄奈良駅から歩いて3分という好立地である。東大寺大仏殿、春日大社など、主な観光の見どころは、すべて徒歩圏内にある。地上3階、地下1階で奈良の街並みに溶け込むような慎ましい建物だ(ちなみに奈良市では高層建築は厳しく制限されており、市内で最も高い建物は興福寺の五重塔だという)。もともとは某大手企業の迎賓館として建てられたが、その後ホテルへと改装された。

 

 

 

 

 エントランスを抜けると、右手に宿泊客用のラウンジスペースがある。ソファで寛ぎ、ウェルカムドリンクを傾けながら、チェックインすることが可能だ。館内のインテリアは落ち着いたモダンクラシック調。杉綾状に組み合わされた無垢材のフローリングが高級感を醸し出している。

 

 

 

 

 総床面積1,831平米で13室(そのうち4室がスイート)だから、すべての客室は広々としている。特に2面採光のスイートルームは70平米超の広さを誇る。ウッドが貼られた壁にベージュ〜グレイを基調としたカーペットとソファが組み合わされている。大理石がふんだんに使われたバスルームも広大である。リニューアルしたばかりなので、すべての設備が新しく、シャワーの水量からコンセントの配置、Wi-Fi設備まで申し分ない。

 

 

 

 

 バスタブにはバスソルト、ハーブパックが用意されており、香り豊かなバスタイムを楽しむことが出来る。アメニティは奈良県産・大和茶の美肌成分を生かした国産の自然派コスメ、QUONのものが置かれている。嬉しいのは、冷蔵庫に入っているビールやジュース、コーヒーなどのドリンク、スナック類、ヌードル(奈良・三輪山本の梅にゅうめん)がすべて無料なこと。お土産として持って帰ってもいいらしい。興福寺に面したテラスに出て、前述の借景を楽しみながら一杯やるのは格別だろう。

 

 

 

 

 本腰を入れて飲みたくなったら、1階に位置する「ザ・バー」を訪れるといい。深い木目調の壁と天井をバックに、コの字型のカウンターを囲んで革張りのチェアが並べられ、実にクラシックな雰囲気だ。この空間だけはリニューアル時にも何ら変更されることはなかった。バックバーには、年代もののスコッチが並べられ、左党垂涎の酒蔵となっている。ここでは奈良県産のクラフトジン「桔花」を試してみるのがおすすめだ。

 

 

 

 

 ところで、登大路ホテル奈良の白眉は、なんと言ってもレストランである。ダイニング「レストラン ル・ボワ」は、北海道・札幌でミシュラン三つ星に輝く名店レストランモリエールが監修しているのだ。この宿に泊まる目的は、ここで食するディナーにあると言っても過言ではない。宴の開始を待っていると、ふたつの大きなサプライズが訪れた。

 

 

 

 

 ひとつめは、地階に隠されたワインカーブの御開帳である。22平米の部屋ひとつが、まるまるセラーとなっており、ボルドーの五大シャトーやDRCをはじめ、世界の銘醸ワイン数百本が眠っているのだ。この日選ばれたのは、白としてルイ・ラ・トゥールのコルトン・シャルルマーニュ1990年、赤としてドメーヌ・アルローのモレ・サン・ドニ2004年、シャトー・ムートン・ロートシルト2001年というワイン好きなら溜息が出るような3本だ。ディナーへの期待は否が応でも高まる。

 

 

 

 

 ふたつめのサプライズは、アペリティフ・タイムにミニ・コンサートが開かれたこと。レストラン ル・ボワにはスタインウェイのグランドピアノが置かれている。その奏者として数々の受賞歴を誇る美貌のピアニスト、大崎由貴氏が現れたのだ。

 

「今夜はフランス料理なので……」という理由で、ラヴェルやドビュッシーといったフランスの作曲家の作品が演奏された。神業のような指の動きから生み出される音は、想像以上の迫力で、参加者たちは息を呑んだ。普段は遠くからしか拝めないフルサイズ・グランドピアノの出音(でおと)を目の前で聞くことできるのは、このホテルならではの僥倖だ。

 

 

ハーブとハムの香りをつけた季節野菜。

 

 

旬の筍とフォアグラのソテー トリュフソース。

 

 

 

 さて、いよいよフルコースがスタートした。料理の特徴は、とにかく地元奈良の食材と北海道の食材のよさを引き出し、活かし切ること。椎茸のスープから始まり、詰物をした蕗の薹のフリット、ハーブとハムの香りをつけた季節野菜、筍とフォアグラのソテーのトリュフソースなど、旬の材料に絶妙な味付けを施してある。

 

 

奈良県産アマゴのムニエル 焦がしバターソース。

 

 

エゾマツの葉に囲まれた奈良県産・大和ポークのロースト。

 

 

奈良の地酒「豊祝」がかけられたサヴァラン。

 

 

 

 魚料理のアマゴのムニエルは、予め付け合せのみを盛った皿に一人分ずつ取り分けられた。焦がしバターの芳醇な香りが辺りに漂う。肉料理の大和ポークのローストは、エゾマツの葉に囲まれ、燻煙に包まれて登場した。デザートのサヴァランには、洋酒ではなく奈良県産の日本酒「豊祝」が注がれた。

 

 

 

 

 まさに饗宴と呼ぶに相応しいディナーのあとは、再度地下に戻り、リスニング・ラウンジにてレコード鑑賞と食後酒を楽しむ。ここには英国タンノイ製ウエストミンスター・スピーカーを中心に、トーレンスのレコードプレイヤー、アキュフェーズ、エアータイトのアンプなどのオーディオ・システムが鎮座しているのだ。アナログ・レコードからピックアップされ、タンノイ自慢の同軸スピーカーから出てくる音は、まるで演者が目の前にいるようなリアルさであった。レコードのコレクションも日々増え続けているという。

 

 

 

 

 登大路ホテル株式会社代表取締役の川島昭彦氏はいう。

 

「われわれのホテルは『食』、『音楽』、『奈良の歴史』という3つの楽しみを提供したいと考えています。これだけこだわったワインセラーやグランドピアノ、オーディオ・システムなどは、普通のホテルでは考えられないでしょう。しかし、わかって頂ける方にはわかって頂けますし、何よりお客様に特別な体験をして頂きたいのです。それに面白いではないですか? この間も私自身が中古レコード店へ行って、何枚か選んできたのですよ(笑)。このホテルを夢とこだわりが詰まった空間にしたいと考えているのです」

 

 

登大路ホテル株式会社代表取締役の川島昭彦氏。

 

 

 

 登大路ホテル奈良では、ホテルに滞在しているというよりは、海外の富豪の邸宅を訪れたような気分となる。充実した宿泊設備と最高のレストラン、そして何より、センスと造詣に溢れた人間の情熱が感じられるのだ。

 

 登大路ホテル奈良は、ここを目的地として旅をするに相応しい存在だ。大阪、京都へ出かける機会があったなら、ぜひ日本を代表する古都・奈良まで足を延ばして欲しい。他では得られない、素晴らしい宿泊体験があなたを待っている。

 

 

登大路ホテル奈良

奈良県奈良市登大路町40-1

TEL.0120-995-546

www.noborioji.com/

<本連載の過去記事は以下より>

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