Sophisticated and compelling design-DS4
異次元のオーラを放つコンパクトなアート・カーDS4
November 2023
text kentaro matsuo
DS4を試乗中に、たまたま都内の道で、知り合いのデザイナーに出会った。路肩を歩いていた彼に、車窓越しに声をかけたのである。彼は某クルマ雑誌のアートディレクションを、もう20年以上も担当している。いわばクルマを見るプロである。すると彼は私の乗っているDSにチラリと目をやり、こう言った。
「ずいぶんとキレイなクルマに乗っているな」
フランス産のコンパクトハッチであるDS4は、その卓越したデザインによって、走るアートといわれている。
サイズは全長 4,415✕全幅1,830✕ 全高 1,495 mmと小さい。いわゆるCセグメントと呼ばれるカテゴリーで、フォルクスワーゲン ゴルフ、メルセデス・ベンツAクラス、BMW1シリーズなどがひしめきあっている。しかしDS4は、それらのライバルと比べると、明らかに異なる存在だ。
エクステリアは、長いホイールベース、大きなホイール、絞り込んだ(ように見える)ウエスト、エッジィなラインを特徴としている。まるで巨人がふたつのタイヤを掴んで横に引き伸ばし、あちこちをナイフで削ったようだ。ボディ表面にプレスラインが何本も入り、美しい陰影を描いている。滅多やたらに線を引いたようだが、それらは危ういところでバランスを保っており、一つの造形として見事にまとまっている。
試乗車には「クリスタルパール」という、ややベージュがかったホワイト・メタリック塗装が施されていたが、ボディの凹凸がわかりやすく、このクルマにぴったりだった。
フロントには、DSの頭文字を組み合わせた大きなエンブレムが配されている。クルマというよりは、ファッション・ブランドのロゴマークのようである。グリルには少しずつ大きさを違えたダイヤモンド・モチーフが散りばめられている。
ヘッドライトには「DS マトリクスLEDビジョン」を採用。3連式のライトで、点灯時まるで生き物のようにウニウニと動く。ヘッドライト下からはブーメランのような「LEDデイタイムランニングライト」が伸びている。
リヤランプにもレーザーによって立体的に彫刻されたダイヤモンド形のクロームパーツが仕込まれており、キラキラと輝いている。ウィンカーは流れるように点滅するシーケンシャル・タイプだ。
遠目に見てもすごいが、ディテールへ目を凝らしても、他にはないアイデアが詰め込まれている。
「人の真似をすることは絶対にない。それは死を意味する」とデザインチームのひとりは言っていた(しかも女性)。DS4は命がけで他車との差別化をはかっているのだ。デザイン・ディレクターのティエリー・メトローズ氏は、かつてルノーに在籍しており、世紀の奇車アヴァンタイムを手掛けた人物だ。アヴァンギャルド派の最右翼である。
ホイールサイズは19インチで、このクラスにしては大きい。アロイホイールは多くの直線を組み合わせた複雑な形に加工されている。タイヤサイズは205/55R19で横から見たタイヤの幅が薄い。これが全体のシルエットを引き締めている。
ドアノブは普段はボディ内部に引っ込んでおり、スマートキーを持ったドライバーが近づくと、せり出してくる。こういった仕掛けが、このクルマがサイズを超えた高級車であることを物語っている(DSブランドは母国フランスでは大統領の公用車なのだ)。走行中はフラットになるので、空気抵抗の低減にも一役買っているだろう。
インテリアはレザーを基調としたモダンなもの。ちょっと宇宙船のようでもある。ドライバーとパッセンジャーを取り囲むようにトリムラインが流れている。シートに張られた革はもっちりとした質感を持ち、いかにも上質だ。表面には運針の細かいステッチが入れられている。レザーが巻かれた小径のステアリング・ホイールも手に馴染む。
DSは自らの意匠を「サヴォア・フェール」と呼ぶ。これはフランス語で「匠の技」といった意味で、エルメスやルイ・ヴィトンなど、フランスのメゾンが好んで使う言葉だ。DSはクルマというよりは、ラグジュアリー・ブランドに近いのだ。
スタート/ストップスイッチやエアコン・コントロール、オートウィンドウのスイッチなどには、小さい銀色のピラミッドを連ねたような模様が採用されており、車内のアクセントとなっている。これは「クル・ド・パリ」といって高級時計の文字盤などによく使われている細工だが、クルマの内装として使われるのは珍しい。
ドライブやリバース、パーキングを選ぶシフトセレクターは小さなノブとなっている。細部までこだわったデザインにため息が出てしまう。スイッチ類は一般的なクルマとは相当に違うので、最初は戸惑うかも知れないが、使い勝手はよく考えられており、半日も乗れば慣れてしまう。
エアコンの吹き出し口は、コントローラーの上下に開いているが、一見すると穴がないように見える。ダッシュボードがすっきり見えるのはこのためだ。
車載ナビゲーションは使いづらいというレビューが多い。しかしながら、アップルのカープレイが装備されており、USBケーブルで繋げば、スマホとの連携は完璧だ。グーグルマップなどをモニターに映し出すことができる。今どき車載ナビを使う人はあまりいないだろうから、これで十分である。BGMもスマホ経由でアマゾン・ミュージック他のストリーミング・サービスを聞くことができる。
スピーカーはフランスが誇るハイファイ・オーディオ、フォーカル社のものが奢られている。家庭用として1本何百万円もするようなスピーカーを発売しているメーカーだ。高音の伸びがよく、低音の迫力は凄まじい。これまたクラスを超えた装備と言える。
センターコンソールにはタッチ式のパネルが設けられており、指を滑らすと流れ星のような軌跡を描く。これでナビやメインパネルを操作することができる。文字入力も可能だという。しかし残念ながら、右ハンドルの場合は左手で操作することになってしまう。パッセンジャーに操作を任せるほうが賢明だ。
ギアをリバースに入れると、全周に取り付けられたカメラによって、後方と真上からの視界が得られる。パーキングはすこぶるやりやすい。それにしても、Cセグのサイズは扱いが便利だ。幅が狭く、高さも低いので、都内の立体駐車場にも難なく入れることができる。
試乗車はプラグイン・ハイブリッド仕様だった。DS4にはガソリン、およびディーゼルエンジンも用意されているが、未来的なこのクルマにはハイブリッドがよく似合う。1.6ℓガソリンターボエンジンと電気モーターを組み合わせ、システム最高出力/最大トルク=225ps/360Nmをマークしている。車重は1,760kgとガソリン車に比べると300kg程度重いが、そんなハンデを感じさせないほどパワフルかつスムースだ。聞けば、ハイブリッド・システムと8速ATは日本のアイシン製だという。どうりでいいわけだ。
もともとDS4は静粛性の高さで有名だったが、ハイブリッドを得たことによって、車内は水を打ったように静かである。これまた高級だ。助手席で目を閉じれば、とてもコンパクトカーに乗っているとは思えないであろう。
スポーツ、ハイブリッド、コンフォート、エレクトリックと4つの走行モードを切り替えることができる。コンフォートを選ぶと「DSアクティブスキャンサスペンション」が起動する。これはフロントカメラが前方の路面をスキャンして凹凸を識別し、ダンパーの減衰力を最適化するというハイテクだ。
フランス人はハイテクが大好き。コンコルドを飛ばし、TGVを走らせ、国内発電量の7割を原子力で賄うお国柄だ。DS4には、そんなフランス流のテクノロジーが、これでもかとばかりに詰め込まれている。
都市部での使い勝手を考えるとコンパクトカーが便利だが、個性的でラグジュアリーなクルマに乗りたい――そんなニーズにDS4はぴったりだ。Cセグのなかでは、明らかに異なるオーラを放っている。前出のデザイナー氏のように、目の肥えた人ほど、このクルマの美しさに惹かれることだろう。
DS4 ESPRIT DE VOYAGE E-TENSE
全長✕全幅✕全高:4,415✕1,830✕1,495mm
エンジン:直列4気筒DOHCターボ+モーター
システム合計最高出力:225ps
システム合計最大トルク:360Nm
トランスミッション:8AT
WLTCモード ハイブリッド燃料消費率:16.4km/ℓ
WLTCモード EV走行換算距離:56km
¥6,696,000 DS Automobiles