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ベル&ロスの今後を期待させる劇的な進化

July 2023

2022年10月、ベル&ロスは新コレクション「BR-X5」を発表した。新しいケース構造を採用しただけでなく、新開発のムーブメントを搭載し、ブランドのトップモデルとした。

 

 

text justin hast

 

 

BR-X5

ベル&ロス初のケニッシ・ムーブメントを搭載した新コレクション。一見するとBR 05に似ているが、9時位置にパワーリザーブ表示、3時位置にデイト表示を備えたダイヤルや、ケースサイドからわかる多層構造などに違いが見られる。ダイヤルカラーは写真のブラックとアイスブルーがあり、それぞれにブレスレットモデルとラバーストラップモデルを展開。自動巻き、SSケース、41mm。¥990,000

 

 

 

 時計愛好家たちはしばしば、いろいろと考え込んでしまう瞬間がある。ケースはゴールドがいいか、ムーブメントは自社製のものかなど、挙げればキリがない。私もそうだから、よくわかる。ささやかな自分のコレクションを振り返り、過度に批判していたりする自分に気づく。そのせいで眠れなくなってしまうことまであるのだ。なんて愚かなんだ、と思う人もいるだろう。私もそう思う。しかし、自分の好きなものを正直に愛することと、その時計が自分のコレクションのどこに入るのかとか、他の人がどう反応するのかといったことをいちいち考えないことが大切であることに気づく必要があった。

 

 そこで登場したのがベル&ロスだ。航空分野やミリタリーをルーツとするこのブランドには、いつも好感を持っている。ひと目でわかる大胆なデザインは、他のブランドには真似できないものだ。時にちょっと大胆すぎるだろうか、と悩ませられるが、決してそんなことはない。

 

 2022年、ベル&ロスは新しいコレクション「BR-X5」を発表し、技術的にも美的にも、さらに高いレベルに到達した。これまで同社は、ETA社あるいはセリタ社のムーブメントに依存してきたが、今回の新作のために、初めてケニッシ社との共同開発ムーブメントを導入するステップを踏み出したのだ。

 

 

美しいアイスブルーダイヤルは、ポリッシュとラッカー仕上げを何層にも重ねて作られており、ノーブルな雰囲気も感じられるのが魅力。ベル&ロスとしては新鮮なカラーリングだ。上:ブレスレットモデル ¥990,000 下:ラバーストラップモデル ¥924,000

 

 

 BR-X5は新型のケース構造を採用しただけでなく、ハイスペックなケニッシ・ムーブメントを搭載することにより、同社における最上級モデルとして登場したが、ベル&ロスはずっと前からこのモデルの開発に取り組んできた。ブランドが定めた仕様に準拠しつつ、マニュファクチュールムーブメントの設計と微調整を確実に行うために、何年もの開発期間を費やしてきたのだ。

 

 これは革命ではなく、進化といえるものである。ベル&ロスが愛してやまないスクエア型のベゼル(ネジで固定されている)と視認性の高い文字盤は健在だ。遠くから見ると、2019年のデビュー以来絶大な人気を博している「BR05」に見えるかもしれないが、近くで見るとそれとは明らかに異なっているのである。

 

 BR-X5は、ステンレススチールのモデル(ブラック、アイスブルーの2色展開)、そしてチタン×カーボンのバージョン(下写真)でデビューした。これらのモデルは、まったく新しい多層構造のケースを採用している。正面から見ると目立たないが、ケースサイドからその構造を見ることができる。ステンレススチール製のプレートとベゼル、ケースバックは、ムーブメントを保護するセンターケースを挟み込み、4本のネジによってしっかりと固定されているのだ。ケースの中央部を空洞とすることで耐衝撃性と軽量化の両方を妥協することなく実現。非常にテクニカルな構造となっている。

 

 

BR-X5 CARBON ORANGE

BR-X5のマルチコンポーネント構造のおかげで、異なる素材やカラーリングを組み合わせたケース展開が可能になった。こちらは限定生産となるモデルで、カーボンファイバーやグレード2チタンを使用することにより極上の軽さと堅牢さを実現している。ダイヤルのデザインやラバーストラップにアクセントカラーとしてオレンジが使われており、パワフルさとアヴァンギャルドなスタイルが際立つスポーツモデルに仕上がっている。世界限定500本。自動巻き、カーボン×Tiケース、41mm。¥1,474,000

 

 

 

 ケース構造とムーブメントの進化は、価格の上昇を意味する。BR05に比べて約50%も価格がアップしているが、技術的な改善ゆえ、その価格は正当なものといえるだろう。正直に言って、ルックスもよくなったと思う。

 

 そもそもケニッシ社とは?という読者に向けて簡単に説明しよう。ケニッシはスイスに拠点を置くムーブメント専業メーカーで、チューダーとシャネルが株を保有している(ちなみにベル&ロスは1997年よりシャネルと資本提携関係にある)。BR-X5の中核となる「BR-CAL.323」は、ベル&ロス初のケニッシ・ムーブメントであり、ETA社やセリタ社のキャリバーを性能と精度で凌駕するものだ。同社によると、BR-X5が2年保証から5年保証に引き上げられたのは、このムーブメントのおかげなのだという。BR-CAL.323は、他のケニッシ・ムーブメントと同様、可変慣性バランスホイールを備え、約70時間のパワーリザーブを実現している。また、ETA社製ムーブメントとは異なり、スイス公式クロノメーター検定機関によるC.O.S.C.認定を受けているのも特徴だ。

 

 確かに、BR-X5はBR05に似ているかもしれない。シルエットや多くのディテールは同じである。しかし、BR-X5のケースは、表と裏からセンターケースを挟み込むという、より複雑な構造になっている。この新しいモジュール・アプローチのおかげで素材の組み合わせも容易になるため、今後もベル&ロスに多様性をもたらすだろう。実際、最上位モデルであるBR-X5カーボンオレンジが実証している。このモデルは同じデザイン、同じムーブメントを搭載しているが、グレード2チタンとカーボンで構成された、より複雑なマルチパーツケースを採用している。そのため、スチール製のBR-X5のおよそ1.5倍の価格となっている。

 

 BR-X5はベル&ロスにとって全面的な進化を遂げた最上級モデルである。より美しくパフォーマンスを発揮する新作であるだけでなく、ベル&ロスというブランドが新たなチャプターに突入したことを象徴するマスターピースなのだ。

 

 

 

本記事は2023年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 51