Rolls-Royce Spectre Bailey
ロールス・ロイスのクラフツマンシップ:愛犬に捧げる、喜びに満ちたオマージュ
October 2025
2025年10月、英国グッドウッドでロールス・ロイス・モーター・カーズは、特別仕様のビスポークモデル「スペクター・ベイリー」を公開した。この一台は、長年ロールス・ロイスを愛用してきた米国在住の夫妻が、家族の一員である愛犬ベイリーへの深い愛情を込めてオーダーしたもの。ロールス・ロイスのクラフツマンシップが、人の想いをどれほど繊細かつ詩的に形にできるかを物語っている。
text the rake
愛犬ベイリーは、ラブラドール・レトリバーとゴールデン・レトリバーのミックス犬。夫妻にとってかけがえのない家族の一員だ。
「何年経ってもベイリーを思い出せるクルマをつくりたい」――そんな想いから、この特別なプロジェクトはロールス・ロイスのプライベート・オフィス・ニューヨークを通じて動き出した。
夫妻は語る。
「私たちはクルマをこよなく愛する一方で、動物への愛情も深いのです。このコミッションによって、ベイリーとの絆を永遠の形に残すことができました」
グッドウッドのペイント・スペシャリストたちは、愛犬ベイリーのやわらかな毛並みをイメージし、特別なツートーン塗装「Crystal Fusion over Beautiful Bailey」を開発した。
上部は、光の角度によって繊細に色合いが変化する“クリスタル・フュージョン”。下部は、ベイリーの毛のような温もりを感じさせる“ビューティフル・ベイリー”で仕上げられている。
さらに、サイドのコーチラインにはベイリーの肉球の跡が描かれ、ローズゴールドの手描きで愛らしいアクセントを添えている。
インテリアは、モカシンとクリーム・ライト・レザーを基調とし、ベイリーの毛色を思わせるダーク・スパイスとキャスデン・タンの差し色が空間を引き締める。高光沢のロイヤル・ウォールナットが用いられ、キャビン全体に上品なぬくもりをもたらしている。
なかでも注目すべきは、後席中央のウォーターフォール・パネルに施されたベイリーの寄木細工による肖像画だ。完成までに4か月以上を費やし、180枚を超える天然木を組み合わせて製作。木目や色合い、質感を巧みに選び抜き、染色を一切施さず自然のままの風合いでベイリーの毛並みを表現している。
舌のわずかな赤みには、パープル・ハート、チューリップウッド、ラウロ・ファイア、ペアといった希少な木材を使用。最終的に9種・22色のベニヤを組み合わせることで、まるで命が宿ったかのようなリアリティを実現した。
また、助手席側のダッシュボードにも肉球モチーフの寄木細工が施され、ドアシルにはローズゴールドのトレッドプレートを配置。ドアを開けるたびに、ささやかな温もりとともに、愛犬ベイリーの存在を感じさせてくれる。
ロールス・ロイスのヘッド・オブ・ビスポーク、フィル・ファーブル・ド・ラ・グランジュ氏は語る。
「お客様の世界に寄り添い、その物語を形にすることこそが、私たちの最大の喜びです。スペクター・ベイリーは、ビスポークの真髄——ひとりの人生に深く響くクラフツマンシップ——を見事に体現しています」
スペクター・ベイリーは遊び心と深い愛情がひとつに溶け合った“動く芸術作品”だ。それは単なる特注車ではなく、忠実な友への永遠のオマージュなのである。














