Rolls-Royce Private Office Opens in Seoul: A New Milestone in Bespoke Luxury

ロールス・ロイスのプライベート・オフィスがソウルにオープン!秘密のドアの内側にあるもの

December 2024

text fumio ogawa

 

 

 

 

 ビスポークは、服好きだけの楽しみではない。ロールス・ロイスが、ビスポークサービスのための「プライベート・オフィス」を、韓国ソウルに開設。2024年11月27日に、メディア向けのお披露目があった。

 

 ロールス・ロイスが「プライベート・オフィス」と名付けた特別なサービスのための施設。ビルの一室にひっそりとたたずむ。限られた顧客を対象にしているため、目立ってほしくないのだ。しかし、ドアを開けると、別世界が展開する。

 

 ロールス・ロイスが本社を置く英国南部のグッドウッドをはじめ、ドバイ、上海、ニューヨークに次いで5番めになるソウル。ロッテワールドで知られるソンパ(松坡)区のオフィスビルに入っている。

 

 

 

 

 白木の格子や、韓国ならではの韓紙(はんじ)を活かした装飾が、シンプルだけれど美しい雰囲気を作っている室内。ずいぶん明るい壁だと思って眺めると、一面に車両の形状を模した塗装サンプルが並べられていた。その下のひきだしの中にもサンプルがぎっしり。訪れたクライアントが興奮するのもよくわかる気がする。

 

 

 

 

 ロールス・ロイスでは、通常の注文でも4万4000色の塗色を用意している。単色もあるし、好きな組合せの2トーンも選べる。内装もしかり。素材やカラーやパターンの豊富さは、他の追随を許さない。

 

 そこにあってプライベート・オフィスは、たんに色だけでなく、自分仕様を仕立てたい、と望むひとのために存在する。

 

 

 

 

「ここを訪れるクライアントは、個人的に価値を置くものをクルマと結びつけることを望んでいます」

 

 ロールス・ロイス・モーター・カーズのクリス・ブラウンリッジ最高経営責任者は、ソウルでの発表会で、プライベート・オフィスの存在理由を説明する。

 

「たとえば、ドバイのプライベート・オフィスで、真珠で財を成したご一族の子息が訪れ、90歳になる父のために特別な1台を仕立ててほしいと要望なされました。そこでチームは、マザー・オブ・パールをイメージするパールローズという特別な塗色を作り、紫外線テストを行ったうえで車体に使いました。内装には、その家族が保有していたマザー・オブ・パールの提供を受け、後席用テーブルトップに手作業で各1,351個をはめこんだのです」

 

 

 

 

 ロールス・ロイスのオーナーのなかでは上記のようなニーズが今後増えていくと予想しています、とブラウンリッジ最高経営責任者は言う。「私たちは、お客様の夢とアイディアを具現化し、個性あふれるパーソナルなロールス・ロイス・モーター・カーをつくり上げていきます」

 

 以前、私が本国の担当者から見せてもらったビスポークのダッシュボードのなかには、日本のニシキゴイ愛好家からの注文で制作した「紅白」が池のなかを泳いでいる姿を描いたものもあった。美しく、精緻、かつ、上からの眺めという”正しい”鯉の鑑賞法も守られていたのに感心させられた。

 

 

 

 

 ソウルには、他のプライベート・オフィスと同様、グッドウッドから派遣されたデザイナーが常駐。ソウルには、本社でビスポークに携わっていた英国人デザイナーがいた。「エンジニアリングの知識も重要なので、心強い存在」とは、ソウルでビスポーク・クライアント・エクスペリエンス・マネージャーの韓国人ジェフリー・チョイ氏の言。

 

 ロールス・ロイスの急成長市場のひとつであるアジア太平洋地域では、近年、ビスポークの創造性と洗練性が飛躍的に高まっており、プライベート・オフィス・ソウルの開設は、こうした需要の高まりに応えるもの、とプレスリリースにうたわれている。

 

 

 

 

「韓国的な雰囲気を提供することも出来ますが、顧客が個人的に求めているものを実現するのがプライベート・オフィスの存在意義。こちらからの押しつけはありません。ソウルには、日本をはじめアジアからの顧客もけっこういらっしゃいます。ただ……顧客のかたはみな時間を大切にしているので、そこが課題ですね」

 

 アイボリー色のスーツをきれいに着こなしたチョイ氏は、流ちょうな英語で説明してくれた。

 

 

 

 

「デザインが固まるまでに、何度もミーティングするのは大事です。20回から30回ぐらい必要なこともあり、プライベート・オフィスに来ていただくこともあれば、クライアントが住んでいる地域で打ち合わせを続けることもあります。デザインスケッチをオンラインで見ていただくこともあります」

 

 ビスポーク・デザイナーのベイズン氏による説明だ。デザインが固まるまでには年単位の時間がかかることもある。ただし、完成までの時間を短縮するのは、ロールス・ロイスにとっての課題だそうだ。

 

「受注する台数に制限はありません」。ブラウンリッジ最高経営責任者は言う。「ただし注文が多くなると時間がかかるようになってしまいます。そこでいま、英国の本拠地グッドウッドのホーム・オブ・ロールス・ロイスの大規模な増築を進めているところです」

 

 興味ある顧客は、まず地元の販売店に相談したうえで紹介を受け、望む地域のプライベート・オフィスに足を運ぶことになる。そこから、無上の楽しみが拡がるのだ。自分にぴったりなロールス・ロイス車。スーツとはまたちがうビスポークの魅力だ。

 

 

壁面にディスプレイされた歴代の「スピリット・オブ・エクスタシー」

 

 


英国グッドウッドに位置するロールス・ロイス本社建物がかたどられたレリーフ。

 

 

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