Rolls-Royce La Rose Noire Droptail
ラグジュアリーを突き詰めたロールス・ロイス「ラ・ローズ・ノワール・ドロップテイル」
September 2023
text kentaro matsuo
ロールス・ロイス・モーター・カーズには、通常のラインナップを生産するラインの他に、特別な顧客のリクエストに応えて、ワンオフのクルマを製作する部門が存在する。それがコーチビルドである。今回、そのロールス・ロイス・コーチビルドから、究極のラグジュアリー・カーが生みだされた。「ロールス・ロイス・ラ・ローズ・ノワール・ドロップテイル」である。
オーダーしたのは、国際的に活躍する名家の当主夫妻であるという。ふたりが強い愛着を抱くバラ、ブラック・バッカラ・ローズがモチーフとなっている。その花弁は、日陰では黒に見えるが、日が当たると暗い表面に赤いきらめきが現れる。濃淡二色のボディカラーによって、この神秘的なバラを表現している。
ボディは取り外し可能なハード・トップが付属するオープン形状である。フロントから見ると、ロールス・ロイスの象徴であるパンテオン・グリルやフライング・レディは健在で、ひとめでロールスだとわかる造形だ。しかし、グリルの上部にエッジが施してあったり、RRバッジの位置が違っていたりと、ディテールは相当にモディファイされている。
サイドビューは低いルーフと狭いウィンドウが特徴的で、スリークなフォルムだ。見事に美しいパーソナル・クーペである。リアから眺めると、従来のロールス・ロイスとはまったく違い、流れるようなラインを描くリアテイルに、宝石のようなテールランプが配されている。
特筆すべきはインテリアである。ボンネットから続くラインに包み込まれるように2つのシートが並び、パーソナルな空間を形作っている。シート後部やダッシュボードを飾る赤やグレーの三角形の模様は、散り際のバラを象ったもので、なんと寄木細工で出来ているという。フランス産シカモア材をひとつひとつ手作業でカットし、1,603ものピースを組み合わせた。このパルケトリーの制作だけで約2年間かかったというから驚きだ。
また、ダッシュボード中央には、依頼主がオーダーしたオーデマ ピゲのワンオフのタイムピースが取り付けられている。「ロイヤル オーク コンセプト スプリットセコンド クロノグラフ GMT ラージデイト」である。機械式のグランド・コンプリケーションで、自動車へ装着できると同時に、取り外して腕につけることも可能という前代未聞の1本だ。ダイヤルはオープンワークとなっており、職人による繊細な仕上げを鑑賞することができる。
依頼主は、このクルマの制作を祝して、お気に入りのワイン生産者であるシャンパーニュ・ド・ロシーの特別なヴィンテージをオーダーした。さらに車両の色に合わせてコーディネイトされたロールス・ロイス・シャンパン・チェストもリクエストした。ボタンを押すとチェストが開き、フルート型のグラスが並んだシャンパン・セットが現れるという仕掛けだ。
ラ・ローズ・ノワール・ドロップテイルは、ロールス・ロイスの伝説に、新たな頁を書き加える一台だ。古き良き時代の贅沢と、モダン・デザインを融合し、クルマというものにおけるラグジュアリーを突き詰めた存在なのである。