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ロイヤル オーク オフショア
あまりにも大胆不敵だった30年

December 2023

オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」は、1993年の発表と同時に賛否両論を巻き起こした。それから30年経った今もこの時計は大胆不敵だが、世界中から多くの支持を得ている。

 

 

text simon de burton

 

 

 

ロイヤル オーク オフショア フライング トゥールビヨン クロノグラフ

30周年を機に発表されたブラックセラミックの新バージョン。アクセントとなった鮮やかなグリーンのインナーベゼルは、アルマイト(陽極酸化)加工によって表現。ストラップは自身で簡単に交換できるシステムを搭載しており、グリーンのラバーストラップとブラックのラバーストラップが付属。世界限定100本。自動巻き、ブラックセラミックケース、43mm。

 

「ロイヤル オーク オフショア フライング トゥールビヨン クロノグラフ」のケースバック。キャリバー2967およびブラック加工の22Kピンクゴールド製ローターが見える。

 

 

 

 “ユニセックス”は、今日の時計業界において流行のキーワードのひとつとなっている。しかし1989年のオーデマ ピゲにとって、状況はまったく異なっていた。

 

 当時、オーデマ ピゲの共同CEOを務めていたスティーブ・アークハートは、ジャクリーヌ・ディミエ率いるチームにいた22歳のデザイナー、エマニュエル・ギュエに、ある時計の誕生20周年に向けたリニューアルを密かに命じた。それは、1972年にジェラルド・ジェンタによってデザインされたステンレススティール製ラグジュアリースポーツウォッチ、ロイヤル オークであった。

 

 ロイヤル オークは、既にオーデマ ピゲの主軸コレクションのひとつとなっており、神聖なまでの地位を確立していた。だから、それに手を加えようとする者は、自身の危険を冒す可能性さえあった。それでもギュエは、このプロジェクトに果敢に取り組んだ。

 

 ギュエは、女性たちが男性用の時計を着用するという当時のトレンドに触発された。この頃の時計は、ユニセックスで使えるほど小型だったのだ。彼は、オリジナルのロイヤル オークの反逆的な精神と同じく、トレンドにあえて逆らうことを決意する。ハリウッドや広告業界で見られるようなマッチョなイメージを取り入れ、大胆なまでに大型化を図った。ケース径は当時の多くの時計より6mmほど大きい42mmとし、厚さも14mmとボリュームアップさせた。

 

 オーデマ ピゲの経営陣はギュエが手がけた新デザインを気に入ったが、この巨大な時計を実際に製造することについては慎重にならざるをえなかった。競合ブランドがよりシンプルな路線を取っていたことと、通常のクオーツ式ロイヤル オークが飛ぶように売れていたことがその理由だった。

 

 アークハートはこの極秘プロジェクトをこれ以上進めないよう命じた。しかし、型破りだったギュエは、とにかく試作品を作り上げるよう、プロトタイプ部門を説得し続けたのだった。

 

 

 

 

批判から栄誉、そして躍進

 イギリス海軍の軍艦にちなんで名づけられた、オリジナルのロイヤル オークの海事に関するルーツを踏襲しつつも、より力強いルックスを纏った新型は、「ロイヤル オーク オフショア」と名づけられた。「オフショア」の名は、その外観にマッチしていただけでなく、高性能ヨットによるオフショア モーターボートレースを楽しむ富裕層を魅了する狙いもあった。

 

 1993年のバーゼルフェアでこれが正式に発表されると、大きな波紋を呼んだ。ジェラルド・ジェンタは驚きを隠しきれず、彼にとっての最高傑作が台無しにされたことに激怒し、「アザラシのようだ」と感想をもらした。時計業界の識者たちもまた、「大きすぎる」、「( 価格が)高すぎる」と批判した。通常のロイヤル オークの約2倍もの価格に設定されたのだから、無理もない。

 

 あまりにも評判が悪かったため、最初の50本のケースバックから「オフショア」の名前を省くという決定がなされた(この50本は現在では大変貴重なものとなっている)。おそらく、重さ250グラムのステンレススティール製ロイヤル オークを買っていることに気づかないことを期待したのだろう。

 

 実際、この時計が軌道に乗るまでには、そこから3年ほどの時間がかかっている。その圧倒的な存在感から「the Beast(野獣)」というニックネームをつけられて、イタリアの一部のトレンドセッターたちの間で人気を博してから、ようやく売れ行きが徐々に上向き始めた。「オフショア」の人気はさらにブーストがかかってゆく。まだ若きセールスマンだったフランソワ- アンリ・ベナミアス(後にオーデマ ピゲのCEOとなり同社の躍進を導く)が、アーノルド・シュワルツェネッガーと契約を交わし、1999年に映画『エンド・オブ・デイズ』の公開を記念した同名の特別モデルを製作したのだ。

 

 このモデルはシュワルツェネッガーが設立したInner City Games Foundationという財団のチャリティのために販売され、大成功を収める。そしてさらにそのパートナーシップは、2003年の「T3」、2007年の「オールスター」、2011年の「レガシー」と続いて、数々のコラボレーションモデルが生み出された。

 

 当然のことながら、ハリウッドの影響力は、他の分野の有名人たちからも注目を集める要因となった。これによりオーデマ ピゲは、ヒップホップスターのジェイ・Zやバスケットボール選手のシャキール・オニール、レブロン・ジェームズともコラボレーションを実現させた。

 

 さらに、スイスのセーリングチーム「アリンギ」とパートナーシップを結び、2003年のアメリカズカップ優勝時には記念モデルを発売したほか、F1ドライバーのルーベンス・バリチェロや、ファン・パブロ・モントーヤともスペシャルエディションにつながる契約を結んだのだ。

 

 

ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

さまざまなセレブリティとコラボレートするきっかけとなった、1999年のアーノルド・シュワルツェネッガーとのモデル“エンド・オブ・デイズ”にオマージュを捧げたモデル。ブラックセラミックとイエローのディテールを組み合わせた、コンテンポラリーなルックスが印象的だ。フライバック機能を備えた自社製キャリバー4401を搭載する。世界限定500本。自動巻き、ブラックセラミックケース、43mm。

 

 

 

30周年、注目の新作は?

「ロイヤル オーク オフショア」は誕生から30年が経ったが、その間にケースサイズは27mmから48mmまで展開され、230以上のバリエーションが生み出されてきた。チタン、セラミック、ケブラー、カーボンなどさまざまな素材で製造され、トゥールビヨンが搭載されたり、ダイバーウォッチ仕様となったり、複雑機構をいくつも搭載したグランドコンプリケーションもある。ダイヤルがスケルトナイズされたモデルや、ミリタリーのテーマに基づいたモデルもあった。また、鮮やかなカラーの文字盤を備えた37mmのジェムセッティングされたモデルも登場した(これにより「オフショア」のマッチョなイメージが払拭された)。

 

 30周年のアニバーサリーとなる今年の注目すべき新作は、ほぼ四半世紀前となる映画『エンド・オブ・デイズ』でシュワルツェネッガーが着用していた時計を再解釈した、43mm径のモデルである(下写真)。ケースはブラックセラミック製で、チタン製のケースバック、クロノグラフ・プッシャー、ベゼル・スクリューを備え、やはり随所にイエローのディテールが施されている。ブラックとイエローのテキスタイルストラップの選択肢も用意されているのが嬉しい。自社製の自動巻きフライバック クロノグラフ ムーブメント4401を搭載しており、限定500本のみの製造となる。

 

 また、ギュエのオリジナルデザインに新たな解釈を加え、初めてブレスレットを含めたフルブラックセラミックのモデルも登場した(下写真)。このモデルは、ブラックのプチタペストリーダイヤルにホワイトゴールドの針とアワーマーカーを備えており、モノクロ効果が見事に強調されている。

 

 以前のオーデマ ピゲの経営陣なら慎重になったかもしれないが、2023年のこのバージョンもまたやはり大胆不敵である。その視野を着実に広げているオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」から、今後も目が離せない。

 

 

ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ

ケースとブレスレットのすべてに初めてブラックセラミックを使い、ダイヤルにはブラックのプチタペストリー模様を採用。針やインデックス、アラビア数字は視認性の高いホワイト、ベゼルをケースに固定するビスはホワイトゴールドとしてコントラストを表現。これまでにない、洗練されたモノクロのスタイルを見事に完成させた。搭載するのは自社製キャリバー4404。自動巻き、ブラックセラミックケース、42mm。