RAKISH ICONS: STEVEN MEISEL
レイキッシュ・アイコン:写真家スティーヴン・マイゼル
December 2022
1980年代から2000年にかけて、写真家スティーヴン・マイゼルはファッションの世界を席巻した。数々のスーパーモデルを発掘して斬新なイメージを作り上げただけでなく、マドンナの写真集『SEX』は社会的スキャンダルとなった。いま再び注目されているマイゼルの世界を覗いてみよう。
by CHRIS COTONOU
スティーヴン・マイゼルとマドンナ(1992年)。
かつてオートクチュール全盛の時代があった。まだアイロニー(皮肉)が業界を支配する前の話だ。当時は撮影されるモデルやブランドと同様に、カメラの後ろ側にいる人物も、伝説的な存在であった。そんな中、リンダ・エヴァンジェリスタ、ナオミ・キャンベル、ローレン・ハットン、そして毛皮をまとったイザベラ・ロッセリーニなどのスーパーモデルを撮影して一世を風靡したのが、写真家のスティーヴン・マイゼルである。彼の写真はいつも挑発とハイセンスの間を行き来してきた。
ニューヨーク出身のこの写真家はカルト的な人気を誇る人物だ。彼が撮影した雑誌の表紙などの数々の作品は、当時のセクシュアリティと自由を反映していた。マイゼルはかつて、1990年代を振り返りこう語った。
「私は素晴らしい服にインスパイアされる必要があり、そして偉大なデザイナーがたくさんいた。当時はすべてが、ファッション、ファッション、ファッションだった……」
マイゼルはイラストレーター兼フリーランスの写真家としてキャリアをスタートさせた。マンハッタンのグラマシー・パーク地区のアパートで新人モデルを撮影していた。彼の作品は、80年代最大のモデル・エージェンシーであるアート+コマースの共同設立者、ジミー・モファットの目にとまった。そしてモファットのもとで、マイゼルは『ヴォーグ』誌の仕事を請け負うようになった。モファットは当時をこう語っている。
「スティーヴンは、おそらく他のどのファッションフォトグラファーよりも、あらゆる体型、サイズ、年齢の人を起用することで知られていた」
これは当時としては、画一的なファッション業界に対する先進的なアプローチであった。また、ナオミ・キャンベルやジゼル・ブンチェンとの仕事は、スーパーモデルの時代の到来を告げるものであった。マイゼルのレンズを通して、彼女たちは単なるモデルの域を超えてスターとなった。『ヴォーグ』で頻繁に撮影されていた女優たちよりもグラマラスな存在となったのだ。
とはいえ、彼の最も有名なミューズはスーパーモデルでも女優でもない。それはマドンナだ。80年代半ば、マドンナは大ヒットアルバムとなる『ライク・ア・ヴァージン』(1984年)のカバーアートを彼に依頼した。官能的でグラマラスなイメージは、まさにマイゼルの真骨頂だった。
ふたりのクリエイティブな関係は、マイゼルが撮影した写真集『SEX』(1992年)に結実する。マドンナは性的ファンタジーを写真で表現しており、実にスキャンダラスな内容だったが、初版本は全世界で150万冊以上売れ、この手の“コーヒーテーブル・ブック”としては世界一のベストセラーとなった。
そして2022年、写真集の発売30周年を記念して再販が叶った。マドンナ、マイゼル、そしてサンローランのクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロは、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチにてエキシビションを行った。この写真家の仕事に再びスポットライトが当てられたのだ。
マイゼルは、ファッションを語る上で、彼が撮影した被写体と同じくらい重要な存在だ。しかし彼はあまり公の場に姿を見せないミステリアスな人物でもある。だから彼からスペインのア・コルーニャという町で回顧展をすると発表されたことは、嬉しい驚きとなった。
この展覧会と写真集『SEX』の再版は、もはや過去のものとなってしまったファッションと出版の時代を讃えるものだ。しかし、スティーブン・マイゼルの作品は、今でもわれわれの目に、実に新鮮に映るのである。