NAOYA HIDA & THE ARMOURY コラボウォッチが完成!
文字盤の上で、両雄相まみえる
October 2022
機械式時計の歴史への壮大なオマージュと、最新の加工技術と職人技を融合させた日本が誇る手巻き式時計に希少モデルが誕生! その全貌を探る。
text YOSHIMI HASEGAWA
photography TATSUYA OZAWA
NH TYPE 2C-1“Lettercutter”
洋銀製文字盤にThe Armoury の“Lettercutter”フォント、ネイビーブルーのカシューを使用。センターセコンド式手巻きムーブメント(Cal.3020CS)。第3世代904Lステンレススティールケース(直径37mm、ラグからラグまで44mm、厚さ10.8mm)。ねじ込み式ケースバック。パワーリザーブ約45時間。5気圧防水。生産本数:2022年から2023年に10本生産予定。
より希少性のある時計を求め、世界の機械式時計市場は加熱する一方だ。こうした状況の中、世界の時計コレクターが注目するコラボレーション時計が発表された。
NAOYA HIDA & Co.とThe ArmouryのコラボレーションモデルNH TYPE2C-1N“Lettercutter”(レターカッター)は、センターセコンド式手巻きムーブメント搭載TYPE2Cの文字盤に、アーモリー考案の“レターカッター”フォントとネイビーブルーのカシュー(合成漆)を使用したオリジナルデザインだ。この限定モデルには専用のジャン・ルソー製、レザーストラップも付属する。
そもそも両社の関係は2019年まで遡る。この年に設立されたNAOYA HIDA & Co.はヴィンテージ腕時計や懐中時計時代のデザインと美学をベースに、現代の製造技術を用いた機械式時計を初めて発表した。
ムーブメントはヴァルジューETA7750を改造した手巻き式、時計のケース(本体)には超高精度微細加工した904Lステンレススティールを使用。洋銀(ジャーマンシルバー)製の文字盤は手彫りで仕上げられ、日本の最先端技術と最高レベルの職人技によって製造された時計は、発表当時の製造個数はわずか年間9個。飛田氏の理想の時計を具現化するために選び抜かれた先端技術と機構の独自性は群を抜いていた。
この時計の価値を即座に理解したマーク・チョー氏はファーストリリース、7個販売されたNH TYPE1Bのうちの1個購入。その後、アーモリーで受注会を開始し、現在に至る。ふたりがタッグを組んでから、この時計を待ち望んでいた方も多いことだろう。
マーク・チョー(左)
「男のための武器庫」を意味するメンズワードローブ、およびメンズスタイル関連製品を提供するアーモリーを香港とニューヨークで、英国のメンズウェアを代表するトータルブランドのドレイクスをロンドンで、ヴィンテージクローズを扱うDrop93を香港で経営する若き企業家。時計やカメラにも造詣が深く、時計のコレクターとしても有名。世界のメディアにその動向が常に注目されている。
飛田直哉(右)
高級時計メーカーを扱う商社勤務を経て、セールスとマーケティングに加え、企画やデザインを担当。この経験を生かしF.P.ジュルヌ、ラルフローレン ウォッチ&ジュエリーの日本代表を歴任。2018年、NHWATCH(株)を設立。懐中時計とヴィンテージ時計に対する豊富な知識と情熱を、日本の最先端技術で表現する独自の機械式時計は日本製ラグジュアリー時計として新たな境地を開いた。
マーク・チョー氏は今回のコラボレーションについてこう語る。
「この度、2年がかりで完成した時計を発表できることを非常に嬉しく思います。この時計に付けられている“Lettercutter”(レターカッター)という名は、古い職業でビルの壁面などの石に彫刻で文字を削る職人のことを意味します。これはアーモリーのクリエイティブディレクター、エリオット・ハマー氏と私が一緒にデザインした専用のフォントです。厚みのあるレタリングは職人が手作業で仕上げることでのみ再現できる、エッジの効いたテイストの書体となっています。これを生かすため、文字盤の端まで伸びたロングインデックスを採用しました。このフォントは飛田氏の時計の特徴でもある、高度なエングレーヴィングの職人技をより際立たせる意図を持ってデザインしたものです。インデックスにかけるカシュー(合成漆)は時計師の藤田耕介氏が試作を繰り返し、私たちのデザインイメージに合ったネイビーブルーのカシューを探し出してくれました。
スクリューバックの背後にはコラボレーションを意味するNAOYA HIDA & Co.TOKYO、NH TYPE2C-1 No.001(ロット番号)、THE ARMOURYのロゴが刻まれています。 ジャン・ルソー製のレザーストラップはダブルサイドのシュランケンカーフを選びました。時計のストラップは裏返すと縫い目が見えるものですが、ストラップの裏も同様に作られているのが美しいと思い、ダブルサイドにしています。アーモリーのテイストと飛田氏の美意識が共鳴した、細部まで行き届いた今回の時計の仕上がりには、非常に満足しています」
さらに、NAOYA HIDA & Co.代表の飛田氏は、今回のコラボレーションは違うテイストの両者だからこそ、面白いものができたと言う。
「マーク・チョー氏からこの提案を受けたとき、非常に興味深く思いました。今回の特別なコラボレーションを表現するため、文字盤はヴィンテージ時計に見られる意匠に基づいたダブルサインとしています。インスピレーションを得たのは、パテック フィリップの初の腕時計年鑑(マルティン・フーバー、アラン・バンベリー、ジスベルト・L・ブリュー共著、1998年出版)に掲載されている1938年モデル592のダブルネームです。両社のネームが文字盤上で美しいバランスを保つように考案しました」
「これは従来の私達の時計とは違うアイデアから生まれた時計です。例えば、人間の目はわずかな歪みでも感知します。直線が多いTYPE2のインデックスを彫ることは難しく、時間もかかります。それが今回はさらに直線を強調するデザインとなっていて大きな挑戦でした。インデックスリングは別部品で製造し、新デザインの彫り込まれたレイルウェイ型の秒目盛りとしました。今回の様に、異なる個性が出会って生まれるケミストリーがコラボレーションの醍醐味であり、この時計を世に出せたことを大変光栄に思っています」
今回のコラボは5月末にアーモリーを通して申し込み制の抽選を行い、限定販売したということも話題を呼んだ。この方法にした理由をマーク・チョー氏は、「最近のマーケットを見ていると加熱し過ぎている気がします。時計が好きな人が増えるのは嬉しいことですが、本当に欲しい人が購入できなくなるのは問題です。今回は限定数が最大10本ということもあり、先着順ではない形にしました。今までの経験とお客様の声を生かし、来年以後も今回のようによい機会があればコラボレーションを行っていきたいと思っています」と語る。
飛田氏の時計は毎年細部に至るまで改良が加えられ、進化を続けている。「まだまだやりたいアイデアは無限にあります」と語る飛田氏。 この時計を愛する者ならば、門戸は誰にでも開かれている。次はどんな仕掛けのある時計が登場するか。今後の展開からも目が離せない。
懐中時計時代の手彫りインデックスの意匠を再現。彫金師の加納圭介氏による精緻を極めた手作業。洋銀の塊から削り出した文字盤にビーズブラスト技法で加工、デザイン転写、ブレゲ・アラビック・インデックスを彫る。数字の上にカシューを流し、気圧を下げて気泡を抜き、乾燥。はみ出た部分を削り取って完成。