Must Visit Restaurants and Bars in Hong Kong
THE RAKE厳選!香港でいま注目すべきダイニング&バー5軒
October 2023
パンデミックを経た今、香港の街には新たな地下鉄や美術館に加え、ダイニングやバーが続々とオープンしている。そのなかでも本記事では、現地へ行ってきたTHE RAKE編集部おすすめのダイニングとバーをご紹介する。
text yukina tokida
取材協力: 香港政府観光局
香港と聞くと、一時の過激なニュースが強く記憶に残っていて、パンデミック前の状況と変わってしまっているのでは?という漠然とした不安を抱えている方もいるのではないだろうか。事実、私自身も香港へ渡航する前はそんな不安を感じていたひとりだったが、実際に現地へ行ってみて、街の雰囲気は4年前に香港を訪れた時と変わらず、以前と同じように滞在を満喫することができた。
コロナウイルスに関連する一切の事前検査も必要なくなり、キャセイパシフィック航空の直行便も日本全国(成田・羽田・大阪・名古屋・福岡・札幌)から毎日運行するようになった今、片道約4時間(短すぎず長すぎないちょうどいい長さ)で行ける香港こそ、次なるディスティネーションにいかがだろう。今回は、ここへ行くために香港への旅行を予約してほしいくらいにおすすめのダイニングとバーを5軒ご紹介する。
<VEA>
高級中華食材を使った軽やかなフレンチ×香港屈指のカクテルペアリング
“広東料理×フレンチ”が楽しめる「VEA」は、多くの食通が認める香港屈指のシェフ、ヴィッキー・チェン氏が手がける一軒だ。香港生まれのヴィッキーは、ミシュランの星を獲得したこともあるニューヨークのダニエル・ブールーをはじめとするフランス人シェフのもとで修行を積み、2011年に香港に帰国。2015年にVEAをオープンした。
この店で楽しめるのは、氏自身のルーツである香港ならではの高級な中華食材と、西洋の文化を融合させた料理。テイスティングコースでは、干し鮑や浮袋、乾燥ナマコやツバメの巣、中国茶などがふんだんに使用されている。
食材の仕込みや用い方にも強いこだわりがあり、たとえば乾燥ナマコは湯や水を使い分け4日間もかけて丁寧にじっくり戻していたり、香港の名物でもあるお茶は、ペアリングドリンクとして料理に合わせるのではなく、料理のエッセンスとして、その一皿をより香り豊かにするためや、味わいのバランスを整えるために用いられている。
ハイライトは、先述の乾燥ナマコを使用したシグニチャーディッシュ「Sea Cucumber」。表面はカリッとクリスピーでありながら、身はふんわり軽やかでやわらかく、中に詰められたプリプリのタイガープラウンのすり身とのバランスも完璧。海老の旨味たっぷりのソースと合わせて食べれば、口に運んだ瞬間に誰もが笑顔になる最高の一皿だ。
店内には個室やテーブル席もあるが、メインとなるのはライブキッチンを囲む25席のカウンター。ひとつひとつ丁寧に料理が作り上げられていく様子を目の前で楽しめる。
そしてこの店をさらにユニークにしているのが、香港屈指のミクソロジストとして知られるアントニオ・ライ氏が手がけるカクテルペアリングだ。多彩なマリアージュはどれも緻密に計算されたものばかり。定番のリキュールだけに収まることなく、中国茶やキノコのコンソメなども使用しており、まるでスープのように楽しめる一杯までラインナップしている。シャンパーニュやワインとのペアリングもいいが、カクテルと合わせることで、バー文化が深く根付く香港ならではの時間を満喫できるだろう。
シグニチャー料理である写真のナマコ料理「Sea Cucumber」は、20年熟成の紹興酒を香水のように最後に優しく振りかけることで、さらに洗練された味わいに。クリスピー感がカギなので、サーブされたらなるべく早くまず一口味わうのがおすすめ。残ったソースはミニサイズのバンズで平らげたい。
燻製したココナッツとマコモダケ、そして6ヶ月熟成のキャビアをふんだんに使った「Cristal Caviar」。フレッシュココナッツは、香港で70年もの間続く、唯一残る専門店から仕入れているという。ペアリングされたカクテル「Pandan」は、ジャスミンティーとサトウキビジュースにウォッカを合わせたもの。
ちなみにVEAの近くには、古くからこの場所に店を構える「乾物」専門店や「紹興酒」専門店などがひしめいているため観光にも最適。ショーウィンドウに並ぶ品はただの飾りではない。実際に商いが行われている活気ある街をぜひ散策してみてほしい。
VEA
30/F, 198 Wellington Street, Central, Hong Kong,
TEL. +852-2711-8639
Instagram: @vea_hk
<NIRAS>
「アジアのベストレストラン50」1位に選ばれたタイの名店の初となる海外拠点
もうひとつは、九龍側に位置する「Niras」。こちらは2023年の「アジアのベストレストラン50」で1位にも選ばれたバンコクの「Le Du」のシェフ、通称トン氏が手がけるモダン“タイ”ファインダイニングだ。ローズウッド香港に隣接する文化的商業施設「K11 MUSEA」の7階に位置しており、タイ料理をベースにした洗練された料理を楽しめる。
NirasはLe Duとして初の海外拠点。トンシェフの料理哲学と地元産の食材を使用することにこだわり、Le Duのシグネチャーを再現している。なかでも「Signature Grilled Lobster by Chef Ton」は、タイならではの味わいや甘み、酸味や旨味、そして多彩なハーブが生み出す豊かな香りや食感が見事なバランスで調和している。
インテリアはグリーンを基調とし、明るい色味の木製の家具が配された、明るい空間。緑とゴールドのアクセントをはじめ、ハーブの渦を思わせるガラスのシャンデリアや生い茂る植物、タイの農場や野原を上空から描いたアート作品が店内を彩る。
Niras
Shop 704, 7/F, K11 MUSEA, Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Hong Kong
TEL. +852-3905-3022
Instagram: @nirashongkong
香港での醍醐味といえばバーホッピングも忘れてはならない。カジュアルに使えるバーから、ラグジュアリーホテルのなかにあるバーまで、スタイルもテイストも全く異なるバーが徒歩圏内に点在している。パンデミックで閉店を余儀なくされた店も多いが、新たな店も続々と誕生しており、いま香港のバーシーンは過去最高に盛り上がりを見せている。
ちなみに、今回ピックアップした3軒に限らず、フードメニューも充実しているバーが多いのが、香港だけでなく海外でのバーホッピングの楽しみのひとつ。バーテンダー渾身の一杯とともに、こだわりの料理を堪能してみてはいかがだろう。
<ARTIFACT>
香港のバー業界におけるキーパーソンが手がける最も注目すべき一軒
まず一軒目は、ジャーディン・ハウスの地下二階にある、香港の人気店が集結する注目のフードコート「BaseHall 02」(今年の1月にオープンしたばかり)に位置する「Artifact(アーティファクト)」。ここは、いま地球上で最も注目すべきバーのひとつといえよう。
同店を手がけるのは、今年の「アジアベストバー50」の特別賞Alto’s Baternder’s Bartender にも輝いたベッカリー・フランクス氏と、パートナーであるエズラ・スター氏。人気のバー「The Pontiac(ザ・ポンティアック)」や「Mostly Harmless(モーストリー・ハームレス)」をそれぞれ手がける、香港のバー業界におけるキーパーソンといえるパワーカップルだ。
ベッカリー・フランクス氏(左)と、エズラ・スター氏(右)。
香港とニューヨークを拠点とするデザイン会社「NCDA」によって手がけられた内装のテーマは「SF」。入り口近くには、ブラウンの壁が印象的なカウンタースペース、奥にはホワイトが基調のまるで宇宙船のようなテーブル席が広がる。一歩足を踏み入れると時間の感覚はなくなり、現実世界を忘れてしまうだろう。
日本の居酒屋メニューにインスパイアされた本格的な料理だけでなく、ドリンクのメニューもこの10月に刷新されたばかりだというから、ぜひチェックしてみてほしい。
Artifact Bar
No. 1 & 2, Shop 5 & 7, Lg/F, Jardine House, 1 Connaught Place, Hong Kong
TEL. +852 6468 8762
Instagram: @artifact_bar
<THE AUBREY>
焼酎と泡盛が主役のマンダリンオリエンタル香港のメインバー
次にご紹介するのは、今年の「アジアのベストバー50」で17位にランクインした「The Aubrey(ジ・オーブリー)」。マンダリンオリエンタル香港の最上階に位置している。
テーマはなんと日本の「居酒屋」。これだけを聞くとカジュアルな雰囲気を想像してしまうが、そこには居酒屋といわれてもピンとこないくらいに格調高い空間が広がる。
店内に飾られているのは、世界中のオークションで入手された浮世絵や日本美術、ジャポニズムの流れを汲む油絵や初版本などのアートコレクション。陶磁器はすべて日本の現代アーティストがデザインしたもので、レコード・コレクションには500枚の日本のレコードが含まれているという。
同店のシグニチャーカクテルの主役となるのは、ヘッドバーテンダーを務めるディベンダー・セーガル氏自身が日本へ訪れて虜になったという焼酎と泡盛。『A Tale of Shochu』というオリジナルの小冊子で、焼酎と泡盛について、壱岐/球磨/琉球/薩摩という括りでの丁寧な説明とともに、各ふたつずつシグニチャーカクテルが紹介されている。日本ではとても出会えないような、ユニークなカクテルがここでは堪能できるのだ。
シグニチャーカクテルのひとつ「Harmony」は、ソービニヨンブランのジュースとシトラスに薩摩の芋焼酎を合わせた一杯。ブドウと芋焼酎の甘味の見事な融合に感動した。ちなみに居酒屋がテーマとはいえ、ここは5つ星ホテルの中にあるメインバーのため服装についてはご注意を。
ヘッドバーテンダーを務めるディベンダー・セーガル氏。
The Aubrey
5 Connaught Road Central, Hong Kong
TEL. +852 2825 4001
Instagram: @theaubreyhk
www.mandarinoriental.com/ja/hong-kong/victoria-harbour/dine/the-aubrey
<BAR LEAONE>
クラシックでモダンなカクテルと本場さながらのおつまみが楽しめる香港のイタリア
最後にご紹介するのは、今年の6月にオープンしたばかりの「Bar Leone(バー・レオーネ)」。ローマ出身のロレンツォ・アンティノーリ氏が手がける同店では、香港にいながらにしてイタリアの風を感じられる、クラシックでモダンなカクテルとフードメニューを楽しめる。現在のトレンドでもある蒸留や機械といったものは一切使わず、シンプルでクラシックな作り方のカクテルがラインナップしている。
店内にはテーブル席だけでなく、立ち話をしながらエスプレッソやアマーロを気軽に飲むことができる、伝統的なイタリアのコーヒーカウンターも。1970~80年代のイタロ・ディスコとアフロビートのミックスをはじめとする多彩なBGMによって、気分はもうイタリアだ。
ロレンツォは、過去に「香港のベストバーテンダー」にも選ばれたことがあり、氏がこれまで香港で手掛けてきたふたつのバーは、「世界のベストバー 50」や「アジアのベストバー 50」の上位にランクインしてきたほどの実力者。彼の陽気な人柄も相まって、店内は常に暖かい雰囲気に包まれている。筆者が訪れた時はオープンから1ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、店内は大盛況。店に入れるのを待っているゲストもいたほどだ。
左:この店のシグニチャーでもある、リブロースハムとモルタデッラを薄くクリスピーなピザ生地に挟んだ「Roman stuffed pizza with mortadella」。ロレンツォが小さい頃から大好きだという一品。右:「Leone martini」。こちらもロレンツォのお気に入り。
ロレンツォ・アンティノーリ氏。
Bar Leone
G/F 11-15 Bridges Street, Central, Hong Kong
Instagram: @barleonehk
気になる店はあっただろうか。どれも間違いのない店だということは、強く伝えておきたい。この記事が香港旅行を予定している諸兄の参考になることがあったならば、これ以上喜ばしいことはない。
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今回の渡航で改めて強く感じたことは、香港が「日本ダイスキ!」な都市だということ。店のBGMが沢田研二や吉川晃司の名曲の広東語バージョンだったり、そこかしこにトンカツ店やラーメン店があったり、キティちゃんがいたり……海外に来ているのに、気を張ることなく不思議と落ち着ける、香港はそんな唯一無二のデスティネーションなのだと、改めて実感した。