KNIGHT RIDER

ジャッキー・スチュワートとロレックス

April 2022

元レーシング・ドライバー、ジャッキー・スチュワートは、F1における安全性の問題の改善について積極的に声を上げてきた。

最も偉大な人物のひとりである彼もまた、ロレックスを愛してやまない。

 

 

text ross povey

 

 

“Jackie” Stewart/ジャッキー・スチュワート

1939年スコットランド出身。1965年にBRMからF1に参戦し、8戦目のイタリアGPで初優勝。1969年に世界チャンピオンに。1973年の引退まで、レースで27回、チャンピオンシップで3回優勝。伝説の世界チャンピオンとしてだけでなく、F1の安全性について誰よりも使命感を持って啓発してきたことで知られる。

 

 

 

 

 私はロレックスの熱烈な愛好家であることを公言しており、このジュネーブのメゾンの一番のファンだとひそかに信じていた。しかし、あるロレックスのアンバサダーとの楽しいランチを経て、私はいいライバルに出会ったことを認めるに至った。サー・ジャッキー・スチュワート。彼はロレックスを代表する完璧な人物だった。ロレックスが最高だと信じているし、彼の膨大なコレクションは何よりもロレックス愛を証明している。

 

 ロレックスは地球環境に格段の配慮をし、資源の保全と環境への投資のためにできることはすべて行っている。F1関係者も同様に、環境に対する懸念を抱いている。スチュワートはこう語る。

 

「モータースポーツが永遠に続くことは間違いない。人にとって移動手段は必要なものだし、多くの人がクルマを必要としているからね。問題は、エネルギーをどこから調達するか。間違いないのは、その答えが何であれ、一般の人々のスタンダードになる前にまずF1業界に登場するということ。現代の自動車技術の大部分が、そうやって開発されてきたんだ」

 

 彼は、モータースポーツは観戦型スポーツとして、他のどのスポーツよりもしっかりとした将来性があると断言する。

 

「壮大で華々しく、活力があり、真の意味で危険と隣り合わせ。もちろん、誰もドライバーが死ぬことを期待しているわけじゃない。でも、みんなアクシデントやニアミスは見たがっているだろうし、高速で競い合っている以上、決してなくなることはない。スポーツとしてのF1は安泰。でも、その燃料については不確定要素だ」

 

 課題は、サスティナブルな資源を見つけること。スチュワートはこう述べる。

 

「F1の動力供給源として利用可能な選択肢はいくつかある。私が一番いいと思うのは原子力。他の選択肢だと大量の廃棄物が出るから。電気がいい例だよ。フォーミュラEはエネルギー問題の観点から多くの注目を集めているけれど、使い切ったバッテリーの処分が問題。一方、原子力には多くの利点があって、F1では早く効果的に実現できる。しっかりとしたシステムがあり、問題解決に素早く対応できるのがF1の得意分野だ。技術者は最高の腕を持っているし、対応時間も一瞬。最高の解決策を、瞬く間に導き出すんだ」

 

 

モナコグランプリで優勝したときに手にしたコスモグラフ デイトナ。

 

 

 

 現在82歳のスチュワートは、何十年もの間、F1に関わってきた。自身の最大の功績は何だと思うか、訊いてみた。

 

「安全性に関する問題解決だろうね。F1に限ったことじゃない。さっきも言ったように、F1での事例が他の形式のレースでも展開され、その後、一般的に広まっていく。あらゆる事故を振り返ると、とても危険なビジネスだったと思う。今はそうではないし、落馬やラグビーで亡くなる人のほうが多いくらいだよ」

 

 何人もの友人を亡くしてきたスチュワートは、レースを安全に行う活動にひたむきに取り組んできた。シートベルトや、フルフェイスヘルメット、トラックバリアを導入。危険箇所のランオフエリアを拡大したのは彼の決断によるものだ。これは観客の安全のためにも重要だった。

 

 ロレックスとモータースポーツの関係は何年も続いてきた。ロレックスの主力スポーツウォッチであるコスモグラフ デイトナは、有名なサーキットにちなんで名づけられているし、ロレックスがF1のスポンサーになってからもうすぐ10年になる。

 

「モータースポーツは、クルマが馬車に取って代わったときから、他のどの手段よりも先を見続けてきた。F1はロレックスと同じように時代の先端を進んできたし、これからも時代の最先端を行くだろうね」

 

 

スコットランドの伝統的なタータンチェックを、自分のルーツの誇りとして身に纏うスチュワート。

 

 

 

 スチュワートは1968年にロレックスと契約した。それ以来、ずっとブランドの忠実なサポーターである。

 

「ロレックスはずっと最高峰。偉業を成し遂げた人々は皆、ロレックスを着けていたんだ。それにイベントもそう。ヨットレース、ペブルビーチ・コンクール・デレガンス、テニス。すべてがロレックスとパートナーシップを結んでいるよ」

 

 スチュワートは1966年、インディアナポリス500での功績に対し、初めてのロレックスを受け取った。

 

「あのときの高揚感を、今でも覚えてる。ロレックスを買えるお金なんてなかったからね。イエローゴールドの、プレジデントブレスレットのデイデイトだった。残念ながら盗まれてしまったけど、その後頑張って稼いで新しいものを手に入れたんだ」

 

 ここで私は尋ねてみた。彼の膨大なロレックスのコレクションの中で、どれかひとつを選ぶとしたら、と。

 

「1966年のモナコグランプリ優勝で受け取ったコスモグラフ デイトナは、今も大切に持ってる。あとは、スチールのGMTマスターが大好きでよく着けているよ。すごく個性的なキングマイダスも好きだ。グランプリに参加するときは、交互に使いたいよ。でももしひとつだけ選ぶなら……モナコのコスモグラフ デイトナかな」

 

 彼が身に着けるタータンチェックのトラウザーズと帽子についても訊いてみた。

 

「タータンはスコットランドの大切な伝統文化。私は自分のルーツをいつも誇りに思って身に着けてきた。最初はこのレーシング・スチュワートという名前のタータンだった。このブルーは、偶然にもスコットランドのナショナルカラーと同じなんだ。何年もの間、レーシングチームのチームカラーだったし、F1のレースでもレーシング・スチュワートのタータンのトラウザーズを穿き始めたんだ」

 

 トラウザーズはエジンバラのキンロック・アンダーソンで作られたもので、ジェームスロックの帽子と合っている。

「グリーンのハンティング・スチュワートはグリーン文字盤のデイデイトに合わせると最高さ。もちろん、レーシング・スチュワートを着る日のためにブルー文字盤のデイデイトも持っているよ」

 

 F1の未来がどのようなものであれ、その中心に、タータンチェックに身を包み、ロレックスを着けたジャッキー・スチュワートがいるのは間違いない。