John Lobb Director of Bespoke
PATRICK VERDILLON Interview
ワンピース・アッパーの
“シームレス・シューズ”を作った男
−靴世界の地平線がここにある−
August 2018
最高の職人たちが最高の革を形作る。ジョンロブのビスポーク・アトリエは、
靴作りの現場として世界最高峰といえる。そこから、世界初といえる
アッパーにまったく縫い目のない、シームレス・シューズのコレクションが生まれた。
photography tatsuya ozawa
Patrick Verdillon / パトリック・ヴェルディロン
1972 年、パリ生まれ。パラブーツやエシュンなどで10 年に及ぶシュービジネスを経験した後、2005 年にジョンロブへ入社。現在はディレクター・オブ・ジョンロブ ビスポークとして全世界の注文靴を統括している。2男3女の父親であり、ハンティングと格闘術を趣味とする。
王の靴との異名を取るジョンロブの既製靴工場は、英国ノーザンプトンに位置している。しかしビスポークのアトリエは、実はパリにあるのだ。そこには最高の職人たちが集められ、技術を競い合い、顧客の要望に合わせて、さまざまな靴を生み出している。パトリック・ヴェルディロン氏は、その責任者である。
「600平方メートルのアトリエに、15人の職人が常駐しています。すべての工程がアトリエ内で完結しています。どんなサイズでも対応できますし、入念な仮縫いも行います。すべての靴はハンドソーンで、底付けの機械はありません。しかもわれわれは“ブーツメーカー”です。ブーツが作れれば短靴も作れますが、その逆は無理なのです。このような場所は、世界にふたつとないでしょう」
そして今回、アトリエはあっと驚く新作を生み出した。ここに紹介するシームレス・シューズだ。なんとアッパーが完全な一枚革でできており、ひと針として縫い目がないのだ。
「これはひとりのお客様のリクエストから生まれました。彼はジョンロブのビスポークを500足もお持ちなのですが、ある日『まったくステッチなしの靴は作れないものか?』と仰いました」
そこから、アトリエのプライドをかけたチャレンジが始まった。
アーティスティック・ディレクター、パウラ・ジェルバーゼによってデザインされたフォルムは5種類。すべてアッパーは1枚の革でシームレスに作られている。踵部分にも縫い目がないのがおわかりだろうか? オーダー価格は¥1,550,000~ John Lobb
「われわれの強みは、エルメスグループに属しているので、どんなに高品質な革でも入手できるところです。そこでうんとソフトで丈夫なレザーを探し出しました。また従来の方法では形を作ることができないため、独自の工具を使用し、手さぐりで開発したのです」
こうした試行錯誤の末、ようやく1足目を納品すると、その顧客はこう言ったという。
「素晴らしい出来だ。あと10足頼むよ。それにクロコダイル製も欲しいな」
ヴェルディロン氏は頭を抱えた。
「1足ならなんとかなっても、10足となると話は別です。クオリティ・コントロールが必要となるからです。またクロコダイルは、最も成形するのが難しい素材です。無理に伸ばそうとすると、すぐに裂けてしまうのです」
結局、すべてを納品するまでには、2年の歳月がかかったという。
「このエピソードにわれわれのアーティスティック・ディレクター、パウラ・ジェルバーゼがインスパイアされ、今回のコレクションの発表となりました。シームレス・シューズ専用の機械を開発し、オーダーを受けることを可能としたのです」そう言って、ヴェルディロン氏は胸を張る。
最高のアトリエで、最高の素材とテクニックを使って作られた、シームレスな靴たち。高級靴の地平線が、まさにここにある