Jean-François Palus Interview
ケリング副CEOジャン=フランソワ・パルー インタビュー

ケリングにとって必要不可欠な地、イタリア

April 2021

2021年3月、ケリングはイタリアのトレカーテに国際物流ハブを新設したことを発表した。

この場所が選ばれたのは、偶然ではない。文化、ノウハウ、イノベーションが息づく土地であり、またケリングの複数のブランドが本拠地を置くイタリアは、グループの組織と戦略の中核を担っている。

ケリングの副CEO、ジャン=フランソワ・パルーが説明する。

 

 

 

 

Photo:Carole Bellaiche

ジャン=フランソワ・パルー

フランス出身。HEC経営大学院卒業。Arthur Andersenのオーディター兼ファイナンシャル・アドバイザーとしてキャリアをスタート。1991年にピノー・グループ(その後PPR、さらにケリングに改名)に入社。木材部門の副チーフ・ファイナンス・オフィサー(CFO)を務め、2年後にCFOに就任。その後、FnacとConforamaで管理職を歴任。ケリングの合併と買収を主導した後、2005年にグループCFO、2008年に副CEOに就任。グループ戦略の策定、実行管理、グループ経営が最大限効率化されるよう貢献している。 2009年よりケリングの取締役を務める。

 

 

 

——ケリングにとって、イタリアはどのような存在でしょうか?

 

「ケリングはフランスにルーツを持つグローバル・グループですが、イタリアは私たちにとって非常に特別な場所です。その主な理由は、私たちの歴史にあります。1999年にグッチ・グループに資本参加し、2001年にボッテガ・ヴェネタを買収するなど、ケリングが純粋にラグジュアリーを追求するプレイヤーとして変革をスタートさせたのが、イタリアなのです。

 

 以来、この国は私たちの戦略、そして組織において重要な役割を担ってきました。従業員の4分の1以上(総勢38,000名のうち11,000名)がイタリア在住です。また、グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、ブリオーニ、ポメラート、ドドをはじめ、2014年にイタリアで誕生して以来、この地で成長を遂げてきたケリング アイウエアなど、イタリア生まれのブランドがポートフォリオの約半分を占めています。つまり、ケリングはフランス系イタリア企業のグループと言っても過言ではないのです。

 

 加えて、このふたつの国には多くの共通点があります。特に、どちらも豊かな歴史を持ち、文化、芸術、創造性が至る所に見られます。ケリングのラグジュアリーに対するビジョンも、同じ肥沃な土壌から導き出されたものであり、だからこそ、ケリングとイタリアの間には密接で深く根付いた関係があるのだと思います」

 

 

 

ケリング アイウェアは2014年にイタリアで誕生し、現在はパドヴァに位置している。

 

 

 

——ケリングはイタリアに拠点を置くことで、どのような恩恵を受けていますか?

 

「イタリアは歴史のある独自のノウハウを持つ国であり、特に皮革加工やテーラリング、アイウエアなど、卓越していることで世界的に知られている分野があります。この国の経済を支えている産業の多くは最先端を走り、また基本的に、小回りが利きパフォーマンス性も高い中小企業のネットワークに支えられています。これはラグジュアリービジネスにとって、非常に大きな強みと言えるでしょう。例えば、トスカーナ州には何世紀も続く皮革加工の伝統があります。これらが一体となって、“Made in Italy”というラベルの価値を生み出しているのです。

 

 グッチやボッテガ・ヴェネタ、ブリオーニ、ポメラートなどのブランドはいずれも、ケリングの傘下に入る前からそれぞれの地域に深く根ざし、そのノウハウや職人が培ってきた長年の伝統を重んじる姿勢で際立った存在感を示してきました。それぞれのブランドに対して、私たちが求めたものはひとつ。それは、各ブランドの歴史や伝統、地元での立場を尊重しながら、同時にその可能性を最大限に引き出すことを目指して事業に取り組み、また投資を行う、ということです。

 

 これらのブランドは、ケリングに加わることでそれぞれの歴史と専門性、そして何よりも才能と情熱にあふれるチームをもたらしてくれました。ケリング・グループはこれらのブランドで活躍する女性たち、男性たちのおかげで成長してきましたし、これからも成長し続けます。この点は、12名のメンバーのうち4名がイタリア人であるエグゼクティブ・コミッティーをはじめ、組織のあらゆるレベルに表れています(イヴ・サンローランの社長兼CEOを務めるフランチェスカ・ベレッティーニ、グッチのトップであるマルコ・ビッザーリ、ボッテガ・ヴェネタの責任者であるバルトロメオ・ロンゴーネ、ケリング アイウエアの創設者であるロベルト・ヴェドヴォット)。どのブランドでも、またケリングのコーポレート部門のどこでも、フランス語や英語と同じくらいイタリア語がよく使われていますよ!

 

 さらに言えば、イタリア以外の国で生まれたケリングの他のブランドも、ほぼすべてがイタリアでビジネスを展開しています。これは、イタリアのメーカーや職人のネットワークが、ラグジュアリー業界が必要とする独自のスキルを提供しているからです。例えば、パリを代表するメゾンのサンローランは、トスカーナ州のスカンディッチに革製品の工房を持ち、またヴェネト州のヴィゴンツァでウィメンズとメンズのシューズ・コレクションを作っています。

 

 メゾンは数年以内に、スカンディッチに“アトリエ・マロキネリー・イヴ・サンローラン”という新しい施設をオープンする予定です。また、バレンシアガは2021年にイタリアでブランド初の製造拠点を開設することを発表しました。フィレンツェから約40kmの場所に位置し、10,000平方メートルの広さを誇るこの施設は皮革加工に特化し、トレーニングセンターも併設される予定です。アレキサンダー・マックイーンは英国の文化に根差していますが、職人の質の高さで定評のあるトスカーナとロンバルディアの両州でもオペレーションを行っています」

 

 

 

2018年にオープンした、フィレンツェ近郊にある“グッチ アートラボ”。

 

 

 

——逆にケリングは、イタリアに何をもたらしているのでしょうか?

 

「第一に、私たちはイタリアに多額の投資をしてきました。最初の頃のブランド買収に始まり、工房、製造拠点、流通プラットフォームなどを拡大、近代化、新設することで、各ブランドの製造能力をゼロから築き上げてきました…私たちはこうして、各ブランドを成長させているのです。

 

 ボッテガ・ヴェネタの例を挙げてみましょう。2001年にケリングに買収されたボッテガ・ヴェネタは倒産の危機に瀕しており、直営店は約20店舗にとどまり、売上高も約3,000万ユーロほどでした。それが2020年には売上高が12億ユーロを超え、ブティックの数も約260店に増えています。ここからも分かるように、ケリングは非常に明確な形で価値を創造してきました。それは直接的または間接的に創出された雇用の数でも測ることができます。

 

 例えば、グッチはレザーグッズの製造を通じて、イタリア国内で7,000人分の雇用を創出したと推定されます。もうひとつの好例が、2014年に創業したケリング アイウエアです。同社はグループのすべてのブランドのために、アイウエアの専門技術を内部で開発するためのスタートアップ企業として設立されました。同社はわずか5年でこの分野を代表する有力企業となり、現在、25か国の市場で活動しています。

 

 また、2019年からは本社のあるパドヴァ郊外のヴィラ・ザグリから数キロ離れたヴェスコヴァーナで、自社専用の物流センターを運営しています。これもまた、直接的、間接的に新たな雇用を創出することにつながりました。ケリング アイウエアでは製品の70%がイタリアの色々なサプライヤーによって製造されており、しかも同社は成長し続けています」

 

 

 

グッチの新入社員向けの研修・専修コース“エコール ドゥ ラムール”の様子。

 

 

 

——イタリアのノウハウをどのように守っていますか?

 

「ケリングの各ブランドは手仕事や技法を守り、次の世代に引き継ぐことを非常に重視しています。ブリオーニが明日のテーラーを育成するために組織横断的な学びの場“スクオーラ・ディ・アルタ・サルトリア”を、またボッテガ・ヴェネタが特に高級レザーグッズにおける皮革の裁断や加工というブランドの基礎となる部分について、その価値を伝えるために常設の工房“スクオーラ・ディ・マエストリ・ペレッテリア”を設立したのは、技術の継承という理由からです。

 

 また、ポメラートは次世代の金細工師を育成するために、専門学校のガルダスと提携しています。最近では、フィレンツェに拠点を置くグッチが2018年に、これと同じ思いから、新入社員向けの研修・専修コース“エコール ドゥ ラムール”を策定しています。さらにグッチは同年、皮革加工や靴の製造センターと研究開発のための研究所を兼ね備えた注目のスペース“グッチ アートラボ”をオープンしました。この施設は37,000平方メートル以上の広さを誇り、1,000人以上の従業員を直接雇用するだけでなく、多くの地元のパートナーやサプライヤーにも仕事を提供しています。これもまた、イタリアの創造性と職人技、革新性とサステナビリティを称える、歴史的かつ戦略的に重要な大規模投資と言えます。

 

 私たちは、次世代の専門知識やイノベーションを重要な拠りどころとすると共に、すべての活動において環境面を考慮しています。ケリングが2013年にミラノに設立した、傘下ブランドのクリエイティブ・チームのためのテキスタイル・ライブラリー“マテリアル・イノベーション・ラボ”は、これを目的としています。また、今年はトスカーナ州に、各ブランドが化学的、物理的、生物学的試験を行うための施設として“テスト&イノベーション ラボラトリー”を開設しました」

 

 

 

2013年に設立された“マテリアル・イノベーション・ラボ”。

 

 

「最後に、私たちは各ブランドとグループの成長のために投資を続けています。Eコマースの重要性の高まりや行動の変化、販売数量の増加に対応するだけでなく、物流のプロセスを完全にコントロールするには、新たなインフラを世界規模で構築しなければなりません。欧州ではイタリアでの投資を決定し、ミラノ都市圏にあるトレカーテに新しい物流プラットフォームを設けました

 

 これはケリングにとって大きな投資であり、またこのプロジェクトは私たちの全体的なアプローチを端的に示していると思います。つまり、大きな野心と長期的なビジョンを持ち、革新性と環境への責任を一体化させた物事の進め方と、シナジーを生み出す強力な原動力により、サステナブルで健全な形で価値を創造していく、ということです。豊かな伝統だけでなく、未来へのすばらしい展望もあるイタリアでこそ、私たちはグループの歴史を刻み続けたいと思います」

 

 

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