詩歌の世界に泊まる。伊豆・坐漁荘で過ごす静謐な夜
August 2026
― 半世紀を超えて受け継がれる、伊豆高原の隠れ家に新客室が誕生 ―
text AYA HASEGAWA
本館のエントランス
東京から特急踊り子号でおよそ2時間、車なら約2時間半。「ABBA RESORTS IZU – 坐漁荘」は、深い緑に抱かれた伊豆高原・浮山温泉郷の閑静な別荘地に佇んでいる。屋号の由来は「坐して魚を釣るごとく」。その名のとおり、何ものにも急かされず、悠然と時を過ごすための宿として、半世紀を超える歴史を紡いできた。
約6,000坪の広大な敷地に大木が自生する緑豊かな日本庭園が広がる。天然記念物『やまもも』の里として知られ、客室によっては相模灘も望める。この恵まれたロケーションに、伝統的な日本建築の本館と、別荘のように点在するヴィラが配されている。
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フランス料理のメニューより、「鮎 浜納豆と野菜のメリメロ」「ジャスミンのムースとライチのソルベ」
「食」のレベルの高さにも定評があり、美食家が足繁く通う。相模灘の海の幸や地場の野菜など、伊豆の旬を凝縮した和会席は、日本の伝統と四季の移ろいを五感で愛でる献立が並ぶ。和食だけではない。敷地内のフレンチレストラン「やまもも」では、シェフ自ら生産者や漁港へ足を運び、選び抜いた食材を一皿に昇華させるコンテンポラリーフレンチを提供。ワインはもちろん、静岡茶とのティーペアリングという粋な楽しみ方もできる。連泊して和とフレンチの両方を味わい尽くす——。ここでは、そんな大人のわがままが正解かもしれない。
詩歌がいざなう、6つの新客室
1階のリビング。この左に和室、右に露天風呂がある
2026年7月7日、その敷地の一角に6室の新客室が誕生した。本館から歩いて2、3分。「詩歌がいざなう日本文化の旅」をコンセプトにした新客室は、万葉集の和歌に着想を得た「ファミリーメゾネット」(4室)と、俳句から生まれた「翠月ヴィラ」(2室)で構成される。どちらも、優雅な色彩、繊細な素材感、やわらかな光が重なり合い、日本の美意識と現代的な感性が調和する空間だ。
「ファミリーメゾネット」のテーマは、柿本人麻呂の一首「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」。夜空を海に、雲を波に、月を舟に、星を林に見立てた、万葉集屈指のロマンチックな和歌だ。その4つの“見立て”を、牡丹・藤袴・木犀・竜胆と名付けた4室がそれぞれ表現している。
2階から見下ろしたリビング。この手前に和室がある
いずれも最大で大人4名・子供2名まで泊まれるメゾネットタイプ。エントランスのある2階にツインベッドの寝室、階段を下りた1階には吹き抜けのリビングと和室、庭園に面したウッドデッキにはデイベッドと露天風呂が備わり、森に包まれるような湯浴みが叶う。
テーマの和歌を一枚で表現したという道長取りの着物ウォール、組子細工のテーブル、部屋名を透かし彫りした欄間、駿河竹千筋細工をモチーフにした照明、本物の竹に刺繍糸を巻いて伊豆の海を描いたアートなど、日本の伝統工芸に着想を得た職人の手仕事が、和歌の情景に奥行きと温度を与えている。
■蕪村の俳句に泊まる「翠月ヴィラ」
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蕪村の句の世界を、内装からアートまで一貫した物語として表現した「翠月ヴィラ」の寝室
「翠月ヴィラ」は、与謝蕪村の俳句「おのが葉に 月おぼろなり 竹の春」に着想を得た特別室。秋に青さを増す竹林と、朧月のやわらかな光が織りなす静謐な情景を、内装からアート、家具に至るまで一貫した世界観で客室に昇華した。まっすぐに伸びる竹の生命力を感じる「竹蘭」と、朧月に照らされる静けさを映す「月見草」の2室は、どちらも2〜3名での滞在に適した露天風呂付きだ。
寝室には月のシルエットが浮かぶベッドヘッドや竹を描いた扇子、竹の籠目編みから着想を得た「籠目文様」の障子、竹林を思わせる繊細な「ろくた和紙」の壁面が。玄関で迎えてくれるのは、書家・金森江仙氏による俳句の書。気づけば、光と影が織りなす物語のなかへと誘われている、そんな感覚だ。
滞在中は本館の庭園露天風呂にもぜひ足を運びたい。木々に囲まれた六角形の檜風呂「葵」では、梢の合間から空を見上げる、森林浴のような湯浴みが楽しめる。単に「泊まる」のではなく、「文化に滞在する」。伊豆の美食に舌鼓を打ち、詩歌の余韻とともに眠りにつく──。時を忘れる贅沢を求めるなら、この夏、伊豆高原へ。月と竹が待つ静かな森で、心揺さぶる一夜が始まる。
ABBA RESORTS IZU – 坐漁荘
静岡県伊東市八幡野1741







