HOW ESPADRILLES BECAME A SUMMER STAPLE
エスパドリーユが夏の定番になるまで
August 2021
ナチュラルさが魅力のエスパドリーユは、夏のリゾートの定番アイテムとなった。多くのブランドが贅沢なレザーやスエードで、このスタイルを再解釈している。
しかしTHE RAKEがリサーチしたところによると、エスパドリーユの起源は、決して華やかなものではなかった……。
by josh sims
エスパドリーユは文字通り、そして比喩的にも、そのエッジが少しラフである。結び目のあるネッカチーフ、フィッシャーマンズ・キャップ、ブルトン・シャツ(バスク・シャツ)などによく似合う。エスパドリーユほど、海の生活を物語るアイテムはない。
頑丈で快適なエスパドリーユは、漁師をはじめ海の仕事に従事する男たちのための靴として作られたが、今ではリヴィエラのカフェ・カルチャーを象徴するアイテムとなっている。
エスパドリーユは、太陽の下の砂浜でローカルの人々のようにドレスダウンしたいときだけでなく、ドレスアップしたいときにも履くことができる靴だ。
バケーション中のジョン・F・ケネディや、映画『太陽がいっぱい』(1960年)のアラン・ドロン、休息中のサルバドール・ダリ、作品を制作中のパブロ・ピカソのように、クールで洗練された印象を与える。少なくともダリとピカソはスペイン人だったので、エスパドリーユを履く資格が大いにある。エスパドリーユはフランスとスペインの国境・ピレネー地方で生まれた靴だからだ。
アッパーはキャンバスやリネンなどの丈夫な素材が使われ、ソールは麻やジュート、そして靴の名前の由来となったカタルーニャ語で“エスパルト”と呼ばれる植物が編み込まれた縄でできている。船上でも、フィールドでも、農場でも、歴史的には鉱山に至るまで使われ、ボロボロになるまで履き潰して、すぐに買い換えられるような手頃な靴だった。
グレンソン社のオーナーで靴職人のティム・リトル氏は、エスパドリーユを「靴の2CV」と表現している。
「安いし、丈夫だし、通気性がいい。だから暑い日でも快適だ。それにどんな色でも作ることができる」
この原始的な男女兼用の靴のオリジンは、実は何千年も前に遡るかもしれない。スペインの約4,000年前の古代の洞窟住居から、それに近いものが発見されているのだ。
現在のような形のエスパドリーユは、13世紀に誕生した。もともとはアラゴン王国の歩兵用の靴として作られていた。そして同じく13世紀中に、エスパドリーユの製造は家庭から専門工場へと移行した。プロのエスパドリーユ職人である“アルパガテーロ”が靴底を作り、裁縫婦がアッパーの布を縫い付けていた。
19世紀半ばになると、本格的な輸出産業となり、毎年“ヒロンデル”と呼ばれる若い女性たちが田舎から町に出てきて、1シーズン分の縫製作業を行うようになっていた。
21世紀に入ると、ドルチェ&ガッバーナやオーストリアの靴メーカー、ルーディック・ライターなどから、よりラグジュアリーなバージョンがリリースされた。レザーのライニングやスエードのアッパーを備えたこれらの靴は、少々高い値段にもかかわらず人気となった。
「エスパドリーユを作ろうと思ったのは、そのスタイルが本物であるからです。エスパドリーユは、基本的な靴のパターンのひとつで、そのシンプルさゆえに、完璧な構造の例となっています」
そう語るのはルーディック・ライターの代表取締役、ティル・ライター氏だ。同社は、スポーツシューズからラバーブーツまで、実用的なスタイルを追求していることで知られている。
「エスパドリーユはブローグやオックスフォードと同じように、すべての男性のワードローブにあるべき靴です」
しかし、この靴をいつ、どのようなシーンで履くかには限界があることも彼は認めている。エスパドリーユは、本来の用途である大自然の中が似合うのだ。
「ボロボロのエスパドリーユを履いて畑仕事をしている人を見ると、とても素敵に見えるものです」
彼は新品のエスパドリーユは、海水に浸して太陽の下で乾かしてから履くことをおすすめしている。
「都会の青白い顔をした男性には似合わないかもしれません。まるでソンブレロハットをかぶるように、滑稽に見えるかも……」
どんなシーンでも女性にはよく似合う。グレース・ケリーやリタ・ヘイワース、そしてローレン・バコールがいい例だ。彼女が映画『キー・ラーゴ』(1948年)でエスパドリーユを履いたことで、女性のエスパドリーユ人気に火がついた。しかし、男性がエスパドリーユを履きこなすには、ちょっとしたコツが必要かもしれない。
カジュアルなスーツに合わせるのは悪くない。1980年代のテレビシリーズ『マイアミ・バイス』の刑事、クロケットとタブスのスタイリングに憧れている人にとっては、魅力的なアイデアかもしれない。しかし、いくつかルールがある。裸足でも歩けるような場所で履くこと。決してソックスを履かないこと。普通なら黒靴が似合うような格好に合わせないこと。エスパドリーユは黒いアイテムとは相性が悪い。
もちろん、これらはひとつの提案に過ぎない。ネッカチーフとフィッシャーマンズ・キャップのような鉄板のスタイルを好む人にとって、ブラックを否定するのは納得がいかないかもしれない。なぜなら、もともとエスパドリーユは黒がオリジナル・カラーだからだ。特別な場所やサンデードレスでのみ、明るい、ナチュラルなカラーが使われていた。そのジレンマについては、また別の機会にゆっくりと考えてみよう。